第18話 2の月40日(2) 餞別
第18話 2の月40日(2) 餞別
― 奴隷制度 ―
制度の存在意義
ユング帝国には大小様々な国がひしめいている
現在は小康状態であるがかつては領土をめぐる戦争がいくつも起きた
しかも大陸全土にわたり魔獣やモンスターが生息している
戦争で出征するのは大部分が若い男であるし、またモンスターから危険から守るため戦うのもまた大部分が男である
戦争により家族の大黒柱を失い人頭税を納められない貧困層が増加
またそれぞれの国も人頭税の滞納による財政不足に頭を悩ませていた
結果、闇市場で家族の為や子供の為と身売りする子供や女性が増えていった
所詮裏ルートでの取引であるためその扱いはとてもひどいものであった
貧困層の増加と闇市場の台頭により、もはや治安の悪化は限界まで来ておりその対策が待たれた
そんな中ある一国が音頭をとり大陸全体で導入したのが奴隷制度である
◇ ◇ ◇ ◇
ゴートの思いがけない言葉にまったく頭が働かない。
「アイさんが奴隷?しかも俺の?」
「ああ」
「ゴートさん ここからはわたしが自分で話します」
アイは目に涙を浮かべながら話をしてくれた。
父親はアドの町で冒険者をしており、決して裕福では無かったが幸せに暮らしていたという。
しかし父親はダンジョンで大怪我を負い、それが元で帰らぬ人に。
母もあまり体が強いほうでなく後を追うようになくなった。
人頭税の払えなくなったアイは奴隷制度のとおり、奴隷商の元に引き取られ、俺の父親に買われたのだった。
父親の死後、母親へ、そして俺へと引き継がれたのだった。
「お父様とお母様には大変良くしていただきました」
「そっか」
「お母様がお亡くなりになる時に成人までは普通に接するよう言い付けられておりましたので十分なお世話は出来ませんでしたが これからよろしくお願いします ご主人様」
「っん?これから?」
「はい 明日からよろしくお願いします」
「えっと・・・」
ゴートの方を見て、助けを求める。
「お前はもう成人だ 自身で決めろ」
「決めろって言われてもなぁ・・・」
「キツイ言い方にはなるが 今アイはお前の所有物だ アドの町に連れて行くのも再び売ってしまうのも解放するのも 自由だ」
「解放っていうと身分はもどるんだよね」
「ああ 身分は自由民に戻るし 記録も残らない」
「じゃあ・・・解放します」
そう言うとますます目に涙をため首を垂れるアイ
「そうですか 私がついていくと迷惑ですよね」
「いやいやそうじゃない」
「じゃあ何で解放なんて・・・まだご主人様には何もお返し出来ていないのに」
「いままで十分してくれたよ 料理だって洗濯だって それにたぶん母さんも それを望んでる気がするんだ」
「それは給金をもらってましたし・・・じゃあわたしは・・・どうすれば?」
「師匠さえよければだけど アイさんこのまま道具屋やらない?」
「俺はかまわんが お前本当にいいのか?」
「うん アイさんどう?」
言葉の出ないアイはポロポロ涙を流しながら頷いてくれた。
「じゃあアイさん 袖めくってくれるか?」
そうゴートが言うとアイは素直に袖をめくると腕輪がみえた。
「ライトもう後戻りは出来ないぞ いいな」
「ああ」
「じゃあ腕輪に右手を置き 強く解放と念じろ」
(解放)
念じるとパキっという音と共に腕輪は真っ二つに割れる。
「よし はずれたな」
ゴートはそう言うといつの間にか用意していた手元の書類に署名する。
「おれが証人としてサインしておいた 後の手続きはまかせろ」
「じゃあ改めまして アイさん よろしく」
手を差し出し握手を求めると、アイはそれをかわし抱きついてきた。
「ちょ ちょっとアイさん」
「ありがとうございます ありがとうございます・・・・」
「わかったから・・・恥ずかしいよ」
泣いたまま抱きつくアイに困り果て、ゴートを見るとこちらを恨めしそうに見ていた。
あれからしばらくして泣き止んだアイが、せめて給金を返すという一騒ぎがあり、道具屋の資金としてもらうことで無理やり納得させ部屋に戻した。
ゴートは酒を飲み、成人になる俺にも勧めてきた。この世界では始めての酒だ。
「アイさんのこと よく決断したな」
「だって連れて行ったら 師匠がさみしいだろ?」
「茶化すな 本気で言ってんだ」
「うん よくわかんないんだけど そうした方がいい気がしたんだ なんとなく」
「そうか・・・」
日本でいえば奴隷制度なんてもってのほかだと思うところであるが、この世界の感性も持ち合わせているため不思議な感覚であった。
漠然とではあるが、アドの町へ行けば奴隷を買うことになるだろうとすらなぜか感じていた。
「早速明日アドの町に向かうよ」
「そうか・・・これはオルフへの手紙だ ついでに届けてくれ」
「確かに預かりました しっかり届けます」
「頼んだぞ あとこれ持ってけ 俺の会心の出来の物だ」
ゴートは鋼鉄の胸当てを投げて渡してきた。パッと見ただけでも素晴らしい出来であることがわかった。
「こんなに上等な物 もらえません」
「いいから貰っとけ 餞別だよ」
「・・・ありがとうございます 師匠 アドの町で頑張ってきます」
椅子から降りて土下座しながら言うと、ゴートは涙を見られないように後ろを向いてしまった。
「・・・おう 精一杯やってこい もうさがっていいぞ」
背を向けたままゴートはそう言った。
そっと部屋を出て行き自分の部屋へ戻り明日の準備を始めた。
次話より青年期の開始です




