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『あの日、君が祈っていたこと』  作者: 整備士
さよならは、また逢う日まで
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EP1 Somebody to Love

不慣れです至らない点しかないです

よろしくお願いします

始まりなので主人公のちょっとした深掘りを長めに書いております暇かもしれませんがお付き合い下さい

朝目を覚ますと一人だった


 別に珍しいことではない

田島陽一が一人で暮らし始めて、もう五年になる

 誰かに起こされることもなければ、隣の部屋から物音がすることもない

 朝になれば自分で起きて、飯を作って、仕事へ行く

 夜になれば帰ってきて、飯を食って、寝る

それを五年も繰り返した

 だから、一人でいることには慣れていた

慣れたからといって、好きになったわけではない


「……五時十二分」


 枕元の時計を見て、陽一は呟いた

目覚ましが鳴るまで、まだ少しある

もう一度眠ろうかと思って目を閉じた


 しばらく待った


 眠気は戻ってこない


「……起きるか」


 布団から身体を起こした

六月半ば、朝はまだ少し涼しい

 小さな窓を開けると、湿った空気が入ってきた

今日の空は薄曇りだった

 そろそろ雨の多い季節になる

陽一は窓を開けたまま、布団を畳んだ


 六畳ほどの部屋

小さな丸いテーブル、壁際の棚、何冊かの本

仕事で使う物、着替え


 それくらいしかない

以前は、もっと狭かった

 壁際の一畳半ほどをベニヤ板で覆い、その上に大型バイクを置いていたからだ

 今は外にある、そのおかげで、部屋は随分広くなった


 いや。


本来の広さに戻っただけなのだが


「…………」


 陽一は、何もなくなった壁際を見た

バイクを外へ出してから数か月になるのに、まだ少し落ち着かない

長いことそこにあったからだろう


「広すぎるんだよな」


 誰に言うでもなく呟く

返事はない


 当たり前だ


 陽一は立ち上がった

冷蔵庫を開ける

卵が四つ、半分ほど残ったキャベツ、豚肉、味噌、あとは調味料がいくつか

 小さな冷蔵庫なので、それだけで随分埋まっている

 冷凍庫はない

買った物は悪くなる前に食べる

最初の頃は何度か失敗したが今は大体分かる

卵を二つ取り出し、フライパンを火にかけ、油を引いた


 卵を割る。

じゅっ、と音がした

水を少し入れて蓋をする

昨日の残りの米、同じく昨日作った味噌汁

これで朝飯は十分だった


 冷蔵庫を閉めようとして、キャベツが目に入った。


「…………」


 一度閉めた。


 そのままテーブルへ向かおうとする


『野菜は?』


「……食うよ」


 足を止めた

冷蔵庫を開け直す

キャベツを取り出して適当に千切り、水で洗った

皿の端に載せる


「これでいいだろ」


 また一人で喋っている

一人暮らしが長くなると、独り言が増える

 誰も答えてくれないからといって、喋らなくなるわけではないらしい


「いただきます」


 テーブルの前に座る

部屋には、箸と食器が触れる音だけが響く

目玉焼きを食べる、黄身がちょうどいい


「……うま」


 昨日は少し焼きすぎた

今日は上手くできた

 味噌汁も昨日より馴染んでいる気がする

少し嬉しい

 誰かに食わせるわけではないので、本当に上手くなっているのかは分からない

 自分が美味いと思えば、それでいい

そう思うことにしている


 食事を終える

向かい側には誰も座っていない。

 最初から分かっていることなのに、時々妙に目につく


 一人分の茶碗


 一人分の箸


 一人分の皿


 料理を覚え始めた頃、少しだけ思ったことがある

上手くできた時、誰かに食わせてみたい、と

 けれど、それだけだった

わざわざ誰かを呼ぶほどでもない


「……ごちそうさま」


 食器を重ねて立ち上がった

食器を洗いや料理など五年前は、こんなことも満足に できなかった

 今では考えなくても身体が動く

人間、必要になれば大体のことはできるようになるらしい


 陽一は顔を洗い、鏡を見る

髪が跳ねている、手で押さえる

 戻る

水をつける

 少しましになった

顎には薄く髭が生えていた

 十九になってから、少し濃くなった気がする


「……まあいいか」


 作業着に着替える

身支度を終え、玄関へ向かった


 そこで止まる


「あ」


 棚へ戻った

一番上

 本の横に、小さな十字架が置いてある

銀色だったはずの表面は少しくすんでいた


 陽一はそれを手に取った


 掌の中に収め目を閉じる

何か決まった言葉を唱えるわけではない

 陽一はキリスト教徒ではないし、聖書もほとんど読んだことがない

 正しい祈り方だって知らない

昔、あの子が毎朝こうしていた

 それを横で真似した

ただ、それだけだった


 いつから一人でもやるようになったのかは、覚えていない


 父親の顔を思い浮かべる


 母親


 それから


 もう一人


 そこまで考えたところで、陽一は目を開けた

それ以上は考えない


 朝から考えることではない


 十字架を首にかける


「行ってきます」


 静かな部屋に声が落ちる

当然、返事はないことに、それにも慣れた


 陽一は玄関を出た

駐輪スペースの端に、一台の古いバイクが停まっている


 銀色のタンク

そこを走る青いライン


 ホンダ、CB750F


 陽一が生まれるより、ずっと昔に作られたバイクだ

カバーを外して畳み、しゃがんで車体を確認する

タイヤ、チェーン、地面を見る


 油は落ちていない


「よし」


 キーを差し跨がる

エンジンをかけた

 古い四気筒の音が、静かだった朝を破る

陽一はこの音が好きだった

 エンジンがかかる

それだけで少し安心する


 クラッチを握り、ギアを入れた

ゆっくりと走り出す、工場までは三十分ほどかかるが少し前までは、一時間半かかっていた

 今では随分近くなった


 朝の街を走る


 新しい家が並んでいる


 綺麗に舗装された道路


 新しくできた店


 その間に、半分崩れたままの建物が残っている


 雑草の生えた更地


 焼けた壁だけが残っている場所もある


 新しい街と古い傷跡が、当たり前のように隣り合っていた


 陽一にとっては見慣れた景色だった


 信号が赤になる

歩道を学生たちが通っていく、高校生だろう

 陽一と、それほど歳は変わらない

自転車に乗った男子学生が数人が何かを話しながら笑っている。


 少し後ろを、男女二人が並んで歩いていた。

女の子が何か言い、男が笑った

 今度は女の子が笑う


「…………」


 陽一は少しだけ目で追った

高校に行きたかったかと聞かれたら、分からない

 行けるなら行ってみたかった気もする

でも、もう終わった話だった


 自分は自分


 あいつらはあいつらだ


 信号が青になる、陽一は前を向いた


 CBを走らせれば学生たちは、すぐミラーの中へ消えていった


「おはようございます」


「遅え」


 工場へ着いて最初に言われたのが、それだった

陽一は壁の時計を見るが始業二十分前


「まだ二十分ありますけど」


「俺より遅い」


「山本さんが早すぎるんですよ」


「若え奴が年寄りより遅く来てどうすんだ」


「時間に間に合えば同じでしょう」


「朝から屁理屈ばっか言いやがって」


「山本さんに教わりました」


「俺はそんなもん教えてねえ」


 山本源一

七十を過ぎている

 それでも陽一より早く工場へ来ていることがある


「山本さん、家に居場所ないんですか」


「ぶん殴るぞ」


「図星です?」


「田島」


「はい」


「表出ろ」


「今来たばっかりですよ」


「ほんっと可愛くねえなお前」


 そう言いながら山本は少し笑っていた


 陽一も笑う


 工場にいる間は、一人ではない

機械の音がする、誰かが歩いている、誰かが話している

 それだけでも、家とは違った


「田島」


「はい?」


「F、どうだ」


「普通です」


「普通じゃ分かんねえ」


「走りますよ」


「それは見りゃ分かる」


「じゃあ何が聞きたいんです?」


「オイル」


「減ってません」


「異音」


「ないです」


「始動」


「一発」


「最初からそう言え」


「最初からそう聞いてくださいよ」


「面倒くせえ奴だな」


「山本さんがですか?」


「お前だよ!」


 朝から怒鳴り声が響いた


 いつものことだった


仕事が始まる

 金属が削れ、機械が回る、油の匂い

陽一はこの時間が好きだった

 金属は分かりやすい


 削れば小さくなり


 削りすぎれば戻らない


 熱を入れれば膨らむし


 冷えれば縮む


 間違えた時には、どこかに原因があり正解もある

人間より、ずっと分かりやすい


「田島」


 また山本だった


「はい」


「これ見ろ」


 加工品を渡され、陽一は測った


「入ってますよ」


「何が」


「公差」


「んなもん見りゃ分かる」


「じゃあ何です?」


「ここ」


 山本が加工面を指でなぞる


「気に食わねえ」


「使えますよ」


「使えるかどうか聞いてねえ」


「じゃあ何を聞いてるんです?」


「お前これ見て気持ちいいか?」


 陽一は加工面を見る


「製品って気持ちで作るんですか?」


「作るんだよ」


「初めて聞きました」


「今日覚えろ」


「会社の基準です?」


「俺の基準だ」


「一番面倒くさいやつじゃないですか」


「聞こえてんぞ」


「聞こえるように言いました」


「お前な!」


 近くにいた作業員が笑った

陽一はもう一度部品を見る

 規格には入っていて使える


 問題はない


 でも


 言われてみると、確かに少し気になる


「……やり直します」


「最初からそうしろ」


「山本さんのせいで時間増えましたからね」


「俺のせいにすんな」


「山本さん以外誰がいるんです?」


「口動かしてねえで手動かせ!」


「はいはい」


「はいは一回!」


「はい」


 陽一は機械へ戻った

この何気ないやり取りに自然と口元が緩んでいた


昼


「茶色いな」


 向かいに座った山本が言った。


「人の弁当勝手に評価しないでください」


「野菜は」


「あります」


「どこだ」


「下」


「なんで隠してんだ」


「場所がなかっただけです」


「出せ」


「なんで?」


「食え」


「食べますよ」


「今食え」


「子供じゃないんですけど」


「十九なんて俺から見りゃガキだ」


「山本さんから見たら大体の人がガキでしょう」


「口だけは一人前だな」


 陽一は肉を食べる

山本が見ている


「……何です?」


「野菜」


「後で」


「先に食え」


「順番まで決めないでくださいよ」


「おかぁに言うぞ」


「なんで和子さんに報告するんですか」


「昨日聞かれたんだよ。陽一はちゃんと飯食ってるかって」


「食ってますよ」


「肉と米だけじゃ飯食ってるうちに入らねえんだと」


「それ山本さんも言われたんじゃないですか?」


「……」


「図星じゃないですか」


「うるせえ。食え」


「はい」


 キャベツを食べる

山本も自分の弁当に戻った


「山本さん」


「なんだ」


「俺の親ですか」


「こんな可愛くねえ息子いらねえよ」


「じゃあ放っといてください」


「それとこれとは別だ」


「意味分かんないですよ」


「そのうち分かる」


「便利ですね、それ」


「便利だぞ。七十まで生きたら使え」


「覚えときます」


 陽一は少し笑った

昼休みは、すぐ終わった


夕方


 一日の仕事が終わり手を洗う

 爪の間に入り込んだ黒い汚れは、なかなか取れないし、小さな傷も増えている

 いつついたのか分からない傷ばかりだった

洗っても落ちないので諦める


 朝の雲は消えて、夕焼けが見える


「田島」


 山本が後ろから出てきた


「はい」


「気ぃつけて帰れよ」


「はい」


「飛ばすなよ」


「飛ばしません」


「この前飛ばしてただろ」


「見てたんですか」


「音で分かるわ」


「怖……」


「何がだ」


「山本さんが」


「お前なあ」


 ヘルメットを被る


「じゃあ、お疲れさまでした」


「おう。また明日な」


「はい。また明日」


 エンジンをかける

走り出す直前、山本を見る

 まだこちらを見ている


「…………」


 軽く手を上げた


 山本も上げる


 クラッチを繋いだ


 夕暮れの街を走る

朝より人が多い

買い物帰りの家族、仕事帰りの人


 学生


 店には明かりが灯り始めている

信号で止まった時、道路の向こうに小さな映画館があった

 上映中の作品のポスターが並んでいる


 一つ、面白そうなものがあった


「……今度観るか」


 休みの日なら時間はある


 そう思った時


『これ観たい』


「…………」


 陽一の目が止まった。


『陽一君、これ観たい』


『また映画?』


『嫌?』


『別に。何時から?』


『十時』


『朝の?』


『うん』


『早い』


『陽一君がいつも遅いの』


『遅れてねえよ』


『この前十分遅れた』


『十分は遅刻じゃないだろ』


『遅刻だよ』


 声だけが妙にはっきりしていた


 顔まで思い出しそうになる


 ププッ!


「……っ」


 後ろからクラクションを鳴らされた

いつの間にか信号が青になっている

 陽一は片手を軽く上げた


 CBを走らせる


「……何やってんだ、俺」


 映画館が遠ざかるのをミラーを見る

すぐに見えなくなっていった


 もう考えなかった


     *


 アパートへ帰り、CBを停める

カバーはまだかけない、少しエンジンを冷ました方がいい


 部屋へ上がり鍵を開ける


「ただいま」


 返事はない


 朝と同じ部屋


 少しだけ暑くなっている

シャワーを浴び、汗と油を流す


 それから夕飯

豚肉を焼き朝のキャベツがまだ残っていたので、一緒に炒める

 匂いはいい


 皿に盛る


 ご飯


 味噌汁


「いただきます」


 一口食べる


「……うまいな」


 思っていたより上手くできた

もう一口、やっぱり美味い


 そこで、ふと思う


 誰かに食わせたら、なんと言うだろう

美味いと言うだろうか、味が濃いと言われるかもしれない

 野菜の切り方が雑だと笑われるかもしれない


「…………」


 向かいを見る


 誰もいない


「……まあ、いいか」


 食事を続けた


 こういう時だけ


 一人なのが少し嫌になる


     



 まだ寝るには早い

本を読むことにした

 棚から一冊取り何回も読んだ本だった

新しい本を買う金が惜しい時は、同じ本を読む

 不思議なもので、何度読んでも面白いものは面白い


 三十分ほど読む


 栞を挟む


今度は携帯を手に取った


 映画を一本観る


 小さな画面


 音量は控えめ、一人で観るには十分だった


 物語の終盤


 主人公が、大切な人と別れる


 陽一は黙って画面を見ていた


 少し鼻の奥が痛くなった


『泣いてる?』


「…………」


『陽一君、泣いてるでしょ』


『泣いてねえよ』


『目赤いよ』


『映画見てたからだろ』


『ふふ』


 まただ


 陽一は一度、再生を止めた


 部屋が静かになる


「…………」


 何年経ったと思ってるんだ


 心の中で呟いた


 五年


 もう五年だ


 忘れたわけではない


 忘れられるとも思っていない


 ただ


 毎日思い出していたら、生活できない


 仕事をして


 飯を作って


 本を読んで


 映画を観て


 CBを触って


 そうやって何かをしていれば、一日は終わる


 終わってくれる


それを毎日繰り返す


 陽一は再生ボタンを押した


 最後まで映画を観た


     


 午後十一時前

布団を敷いて電気を消す前に、棚の前へ立つ


 首から十字架を外した


 朝と同じように握る


 父親


 母親


 そして


 今度は途中で止めなかった


 淡い髪


 青い目


 いつも少し後ろを歩いていた、小さな女の子


 笑っている


 記憶の中では、いつまで経っても同じ顔だった


「…………」


 陽一は目を開けた


 寂しい


 そう思った


 五年経っても


 一人で暮らすことに慣れても


 飯を作れるようになっても


 働いて金を稼げるようになっても


 父親のバイクを走らせられるようになっても


 寂しいものは、寂しかった


 ただ、それを誰かに言ったところで、どうにかなるものでもない

 陽一は十字架を棚へ戻した


「……おやすみ」


 父親へ


 母親へ


 もう一人へ


 電気を消し、布団に入る


 明日も仕事だ

朝になれば起きる

 飯を食う

工場へ行けば山本がいる

 仕事をして、帰ってきて

また一人になる

 それが嫌なら、どうすればいいのか


 陽一には分からなかった


 昔は、そんなことを考える必要すらなかった

学校へ行けば会えた

 休みの日になれば、一緒にどこかへ行った


 映画でも


 川でも


 祭りでも


 どこだってよかった


 明日もいる、来週もいる、来年もいる


 子供の頃は、それが当たり前だと思っていた


 だから――


「……馬鹿だよな」


 暗闇の中で、小さく笑った

何が馬鹿なのか自分でもよく分からない

 目を閉じもう考えないことにした

明日になれば、また仕事がある


 それでいい


 少なくとも


 今は、それでよかった

自分がこんな作品みたいなと思い書き出したのが始まりです

小説書いたこともないので文章力無さすぎて書きたいこと書き出してAIにて清書しております

それでも勝手に内容変更してきたりするので腹たちながら元の流れに戻してたりするのでめちゃくちゃ時間かかりました

涙しか出ません

次もよろしくお願いします

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