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次に眷属化するのは大豆だ。
大豆は植物でありながらタンパク質が豊富にとれるスーパーフードだ。
栄養素で言うところの「体を作るもの」に該当する食材である。
では早速やってみる。
「ふんぬっ」
魔力を力任せに打ち込む。さっきの小松菜もそうだったが、この力任せ眷属化は基本的に原型をとどめない場合が多く、元の姿をベースとした別物になってしまう。だけど、この大豆くんも民に食わせる様の奴なので味より栄養素重視だ。原型などとどめていなくとも構わんのだ。
「でーきた」
かなりデカイ。オリーブ大の真っ黒な豆だ。一つ一つが眼球の様な見た目で気色悪い。まるで死神の食べ物であるかのような不吉さを感じる。
おいおい、マジで原型とどめてねーぞ。別にいいけど。
では早速実食だ。
「おぇ、まっず」
今度はストレートにまずい。
さっきの禍津菜はあくまで「食えなくはない」くらいのまずさだ。なんというか禍津菜は苦酸っぱい……
コーヒーにオレンジジュース入れた感じだろうか。
まずいんだけど、食えなくは、ない。
だが、この魔改造大豆は本気でまずい。
淡白で油っこくて、それでいて何故か炭臭い。結構最悪な味だ。
なんというか、豆乳に結構な量のエクストラバージンオリーブオイルをいれて、そこに墨汁をぶち込んでミキサーした感じだ。
控えめに言って、無理。
だけど栄養素的にはすっごい。
プロテインくらい高タンパクだし、植物性の体にいい系な油も潤沢、イソブラボンも豊富で女性にも優しい。その他諸々、禍津菜で補えなかった分の栄養をおおよそ補っている。とにかくすごい奴ができた。とんでもなく不味いけど。
「これは、そうだな…… 冥府のように不吉なオーラを放ってるから冥豆にしよう」
さって、次、次。
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とりあえず、禍津菜と冥豆さえあれば必要な栄養素は足りる。不味いけど。
残る栄養素は糖質。つまりデンプン質だ。
そして北国でデンプン質で育てやすいといえばもちろんこれ。じゃがいもだ。
「さっそく眷属化するよ」
はい魔力込めました。
ああ、これはまた邪悪な感じに仕上がりましたね。真っ黒い芋に赤い血管が生えてるような見た目だ。
こんなのは人の食い物ではない。
では、実食。
「うん、不味い」
この芋はとにかく飢えをしのぐことと、育てやすさを重視して魔改造した。
禍津菜と冥豆は「栄養素豊富」って気持ちで魔力込めたが、これは「飢えを絶対しのげる」って気持ちを込めて作った。
結果、どんな悪状況でも驚きのしぶとさで生き残り、バチクソ大量に収穫できるけどやっぱり不味い、栄養素的にはじゃがいもとほぼ同じで主にデンプン。そういう作物になった。
不味さレベルで言えば禍津菜と同じくらいの「食えなくはない」レベルだ。じゃがいもから味を抜き去っってボソボソにしたような味がする。なんというか、固めのスポンジでもしゃぶっているかのような不味さである。
「うん。邪悪な見た目だけど飢えはしのげるということで、邪餓芋にしよう」
さぁ、とりあえずの最後で、後一つ作るぞ。
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最後は麦だ。
これは先の三つとは違う。この麦は商業用に作る。
禍津菜と冥豆は栄養のため、邪餓芋は主食、そして麦は売りに出す。そういう感じだ。
そして、売り出し方は酒だ。
異世界転生ではよくある酒作りに着手する。
作るのはもちろん、ウィスキーだ。
この世界はワインやビール、果ては日本的な酒も何故かあるが、どうやら度数の高い酒はないようなのだ。
だからこそ、そこに商機をかけようと思う。
ただ……
麦を発酵させて蒸留して木樽で寝かせるってのはわかるんだけど、どうやって発酵させればいいのかとか、どうやって蒸留すればいいのかはわからない。
あと、一口に麦と言っても何の麦がいいのだろうか?ここにあるのはライ麦らしいのだけど、これでいいのだろうか?
まぁ……
よくわからんが、こまけぇことは魔法でなんとかなるだろう。
「よし、やるぞ」
ライ麦の眷属化だ。
これは味を損なう訳にはいかないのである程度慎重にやる。
じっくり、だけど適度に適当に、やる。
「むぅ…………」
とりあえず、まぁ三時間はかかった。