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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
9/125

8日目

「勇人、こっちこっち!」


K崎のロータリーで美里が手を振っている。僕は通学用の原チャのハンドルを切った。


「早かったやん、珍しか」


「へへー、会えるの週一やもん。会いたくて仕方なか」


美里は笑いながらぴょんと跳んだ。


「で、行きたいとこあると?ラブホは金がなかよ」


「んー、私給料日だからお金あるけど……映画見る?」


「映画?何観るとね」


「へへー、着いてのお楽しみ」


僕は2人乗りのためにカゴからヘルメットを取り出した。美里はそれを被ると、ぎゅっと後ろから抱き付いてくる。


「こら、強すぎ」


「当ててるっちゃっ」


原チャはゆっくりと走り出す。目的はT畑駅近くの商業施設だ。


昔はK崎にも色々あったらしいけど、人口減で色々潰れてしまった。駅前の百貨店も、一度は閉店が決まった。地元の反発で大幅縮小になったらしいけど。

勢い遊ぶ場所はK倉まで足を伸ばすか、T畑の商業施設になる。さもなきゃ、先週みたいにすぐにホテルに行くかだ。


「バイトは忙しいん?」


「んー、まあね。勉強する時間がなかとよー」


美里の家は母子家庭だ。裕福では決してないから、美里のファミレスでのバイトは生命線だ。

ほとんどフルでシフトを入れているから、会えるのは金曜日しかない。普段会えない分、週一のこの時間はとても楽しみだし、いとおしいんだ。


「もう高3たい?進路どうすると?」


「へへ、勇人のお嫁さん……じゃダメ?」


「……困ったこと言いよんな……せっかくそこそこ頭のいいとこおるんやし、もったいなかよ?」


「でも、ママがね……」


表情は見えないけど、美里の表情は何となく想像がついた。僕を抱く腕の力が強くなる。

僕は溜め息をついた。彼女はこの街を離れられない。でも、僕は離れたい。


彼女だって、本音じゃ福岡なり大阪なりに行きたいはずだ。ひょっとしたら、東京かもしれない。

でも、それは叶わぬ夢なんだ。美里はそれを知っている。……そして僕の気持ちも。


だから美里は、限られた残りの時間を、僕と一緒にいたがるんだろう。そしてできるだけ、愛情を交換したいと思っているんだろう。

でも、それはいつまでも続かない。……そう遠くないうちに、何かを決断しなきゃいけないんだ。


#


「ひぐっ、ひぐっ……うさちゃん、良かったねえ……」


映画を観終わると、美里がポロポロと涙を流していた。僕の目頭も、結構熱くなっている。


美里が観たいのは人気のゆるキャラ映画だと聞いて「えー……」と思ったけど、これが予想外に良かった。というか、本当に泣ける出来だなんて思いもしなかった。

……こういうささやかな奇跡と救いの話って、本当にあるといいのだけど。僕は指を手に当てて、涙を誤魔化そうとした。



……ズキンッ



「痛ッ!!?」


「……どうしたん?」


「い、いや。何でもなかよ」


まただ。右手の中指。爪の辺りが、鋭く痛む。……昨日の部活で突き指した?……いや、何か違う。


しばらく待つと、それは少し収まった。まただ。何でこんなに痛むんだろう。


ふと爪を見る。そこにあった血豆は、心なしか大きく、グロテスクになったように見えた。



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