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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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69日目

今頃、勇人は点滴を受けているのだろうか。私は窓の外をぼんやりと見た。

勇人の具合は、かなり良くなさそうだった。癌自体が問題なんじゃなく、むしろ副作用が厳しいらしい。


もちろん、薬がちゃんと効いているのは喜ばしいことだった。今までの話を信じるのであれば。

ただ、それにしてもキツそうだ。勇人は弱音をあまり吐かないのだけど、無理しているのは明らかだった。

何回も、辛かったら甘えていいんだよとは言っている。でも、勇人がそれをしないのは……きっと、お兄さんのことがあるからなのだろう。

気丈に振る舞っていないと、不安で押し潰されそうなんだ。


そして、不安なのは私も同じだ。それを知ってるから、なおのこと勇人は無理をしている。

その無理が、彼を蝕んでいるのでは。何度も口にしそうになった。でも、それだけは言ってはいけない気がした。



問題は……状況はさらに悪くなっているということだ。



一昨日の勇人からのメッセージで、私がまた狙われているかもしれないと知った。

狙っているのは、宮東会じゃない。次期総理候補の、川口財務大臣だという。


もちろん、その確証があるわけじゃない。スカウトは本物で、私を本当にアイドルにしようとしているのかもしれない。

もし何もなければ、私はそれに喜んで飛び付いただろう。この街を出られるし、ママの助けにもなる。断らない理由がない。


でも、勇人のお兄さんの彼女も、スカウトされた直後に姿を消した。私が狙われている可能性は、ゼロじゃない。そう思うと、この話には乗れない。

スカウトの人とは、今日の夕方に小倉駅の喫茶店で会うことになっている。昨日は電話をかけたけど、繋がらなかった。実際に会って、断りを入れるしかない。

もし本物のスカウトなら、とても勿体ないことだと思う。でも、やっぱり今はそれどころじゃなかった。


「久住、どうしたんね」


ぼーっとしている私に気付いて、先生が渋い顔をした。……どうにもこういうことが多くなってしまった。何とかしなきゃ。


#


「そうですか……」


若い女性のスカウトが、残念そうに言った。上司と思われる男性が、彼女を制し身を乗り出してくる。


「いや、ここで諦めるにはもったいない。久住さん、君には華がある。どうか、考え直してくれないかな」


「……さっき言ったように、家のことで手一杯で。母子家庭ですし」


「お金ならこちらで何とかする。どうかな」


私は静かに首を振った。勇人のお兄さんからのお金はある。あれは手を付けてはいけないお金だけども、このまま頑張れば何とかなるとも思えた。


「……結構です。それに、人前は恥ずかしいので」


「おい、ちょっと!?」


引き留める彼らをよそに、私は席を立った。ストロベリーフラペチーノはほとんど飲んでないけど、気にもならない。

あの必死さは、ひょっとしたら本物のスカウトなのかもしれない。でも、万一のことを考えたら、やっぱり受けるわけにはいかなかった。


#


K崎駅で降りると、私は歩いて家に向かった。住宅街に入り始めた、その時だ。



……ぞわり



一瞬、妙な気配がした。慌てて振り返るけど、誰もいない。しかし、明らかに今のは、後ろからついてくる人の気配だ。



宮東会の柳澤って人の部下は、最近は見ていなかった。それに彼らは、私に見える距離にいることが多い。だから多分違う。

それなら、彼らと対立する黒原ってヤクザの手下がいるのだろうか。……それは十分あり得ることだった。


今、私を守ってくれる存在はいない。そう思うと、早足はやがて駆け足へと変わった。

家までは数分。しかし、そこまでの道のりがやけに長く感じられる。



「はあっ、はあっ……!!」



家にはまだ誰もいない。だからママに何かあることは、多分ない。帰り着けば、何とかなる。



……お願いだから何も起きないでっ……!!



ブロロロロロ……キキッ



そんな私の願いは、無残にも断ち切られた。目の前を塞ぐように、黒いワンボックスが停まる。

そして、男たちが3人飛び出してきた……!!



「きゃああああああっっっ!!!」



その時だ。



ブオォォォォンッッ!!!



私の横に、何かが止まる。……バイク!!?

そしてフルフェイスの男が、懐から何かを抜いた。



バンバンバンッッッ!!!!



「ぐおっ!!?」


……銃??弾は男たちに当たらなかったようだけど、一瞬彼らはたじろいだ。

そして、フルフェイスのヘルメットの男が叫ぶ。



「後部座席に乗れっちゃ!!!」



私は頷き、慌ててバイクに飛び乗った。男性の腰に、しっかりと捕まる。



ギュルルルルルッッッ!!!



激しい加速の重圧を感じる。振り落とされないように、私はライダースーツをしっかりと掴んだ。



「追えッッ!!!」



その叫びは一気に遠くなる。バイクは幾つかの信号を無視し、南へと向かっていった。


#


どれぐらい時間が経っただろう。バイクは林道の入口で止まった。


「すまんっちゃね。さすがにもう大丈夫たい」


男性がバイクを降り、「んー」と伸びをした。……どこかで聞いたことがある声だ。


「あ、ありがとうございます……」


「すまんね。お母さんには、俺から連絡入れとく。しばらくは、家に帰らん方がええっちゃね」


「え……」


「仮住まいは用意しとるから、安心し。少し不便かもしれんけど。

あと、警察に言うなら110番はやめとき。この前の刑事さんに直接言わんといかんよ」


「……あなたは??」


ヘルメットの男性が肩をすくめた。


「……ま、それはおいとこか。いつでも助けになるけん」


そう言うと、男性はバイクにまたがった。


「仮住まいはこの先っちゃ。じゃ、また会うことがあるかもしれんけど」


ブロロ……という重低音と共に、バイクは去っていく。


……あの人は、ひょっとして……



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