2日目
「姉ちゃんが彼氏を連れてくる?それも明日?」
僕は思わず茶碗を落としそうになった。母さんはずずっと味噌汁を飲む。
「そ。巴が彼氏を紹介するの、初めてやねえ」
「いやっ、そうだけど。いつ知ったと?」
「昨日、あんたが帰ってからよ。あんたも美里ちゃんだっけ?はよ紹介しぃ」
「や……それはいいんやけど。何でそんな落ち着とうと?」
「巴の性格、知っとろうもん。あの慎重な巴よ?ならちゃんとした人に決まっとろうもん」
僕は白米を口に運んだ。確かに、4つ上の姉ちゃんは兄弟では一番真面目だ。
勉強がすごくできるってわけじゃないけど、控えめで優しい。介護の道に進んだのは天職とすら思えた。
ルックスはちょっと地味めだけど、彼氏はちょこちょこいたような気がする。それでも紹介されたことは、確かない。
将来のことまで考えた上で、家に呼んだのは疑い無かった。
「で、うちはどうするの?まさか兄ちゃんも同席させるの?」
「……辰夫は呼ばんよ。さすがにイメージが悪か。あの子も来たがらんよ」
「そうやね……」
6つ上の辰夫兄ちゃんとは、あまり連絡を取ってない。高校までの兄ちゃんは悪いグループの、その下っ端みたいな立場だった。
その後父さんと大喧嘩し、家出同然で出ていった。幸いヤクザにはならなかったみたいで、筑豊のどこかで板金工をやっている、らしい。
ただ、悪いグループとの繋がりはまだあるみたいで、僕のとこにもその手の先輩が来ることがあった。基本、のらりくらりと対応しているけど。
「で、勇人。お昼、お茶菓子買ってきて」
「明日用の?」
「そ。『葡萄の木』でええよ」
「分かった。原チャでええ?」
「あまり無理するんじゃなかとよ?この辺り、事故多いんやから」
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「よう」
「葡萄の木」に着くと、カタナに跨がる金髪の男がいた。
「藤木先輩……」
「なあ、辰夫どこにいるか知らんと?最近全然連絡くれんのよ」
「お、俺、知らないです」
「ふぅん」
ニヤニヤしながら藤木先輩がこっちに来た。思わず一歩後退りする。
「ホンマか?嘘やったら、宮東会に行って埋めるぞ?」
「ほ、本当です!こ、これを」
僕はスマホを見せた。後ろから肩を組まれ、操作を覗き込まれる。
「ほぉん。親父と部活仲間、それと女か。……この子、メチャ可愛いな。紹介せえ」
「と、友達なら。み、美里はっ」
「取って食わねえよ。味見ぐらいはするかもやけどな」
「そっ、それはっ!!」
向かい合わせにさせられると藤木先輩がニコリと笑った。次の瞬間。
「ゴフッ!!?」
右拳が鳩尾にめり込む。激しい痛みと、胃液が逆流するのが分かった。
「冗談だよ、冗談。……まあ嘘を吐いてなかったからこれで勘弁してやるわ」
ブロロロ……という爆音と共に、藤木先輩は去っていった。