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100日後に死ぬ僕  作者: 変愚の人
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24日目

「……やっぱりさっぱり分からない」


僕はモニターを見て呟いた。辰夫兄ちゃんが持っていたというUSBメモリにはパスワードがかかっていた。昨日夜にも調べたけど、これが何か、そしてメモリの中身が何かは全く分からなかった。

そして今日もその状況は変わっていない。


もっとも、それでいいのかもしれない。これを僕が持っているという事実さえ知られなければいい。

藤木先輩に会った時、兄ちゃんから何も受け取らなかったと言ったわけだけど、宮東会の連中はこれをきっと兄ちゃんが持っていると思い込んでいるはずだ。


問題は、これを捨てるかどうかだ。兄ちゃんは捨てようと思えばきっと捨てられたはずだ。

なのにわざわざ残していた。しかも、喫茶店のマスターもそれを察していたようだった。


……一体何なのだろう、これは。


僕は首を捻りながら、それを机の引き出しにしまい、鍵をかけた。

もうそろそろ、美里と会うために家を出ないといけない。


#


昼間のK崎駅は、人がまばらだ。着いてしばらくすると、バスから降りてきた美里が手を振った。


「お待たせ!!待った?」


相当久しぶりに見る美里の私服を見て、僕は一瞬息を飲んだ。

薄桃色のゆったりとしたシャツに、明るめの色のジーンズ。胸元にはネックレスがあった。

ブランドものってわけじゃないのだろうけど、快活な美里のキャラクターには良く合っている。


「い、いや。さっき来たとこ。……似合っとるよ」


「えへへ、ありがと。久々に週末に会えるから、ちょっと気合い入れたっちゃ」


「うん……ちょっとびっくりした。で、どこに行くと?イオンにする?」


美里が少し恥ずかしそうにした。


「えっと……うちに来て欲しいっちゃ」


「え?」


「ママ、今いないの。うち、そんな遠くないし……」


僕の体温が一気に上がった。それって、つまり……そういうことだよね。


美里とエッチするのは初めてじゃない。もう何回かしているし、今更それ自体に恥ずかしがることはない。

ただ、今日誘われるとは思わなかった。それに、美里の家に上がるのは初めてだ。


「……ええの?そんなに時間ないんじゃ」


「うん……ママが帰ってくるのは夕方だから。それまでなら。

私のバイトのシフトも、今日は少し遅めだし……」


僕はゴクリと喉を鳴らすと、彼女に原チャリの後ろに乗るよう促した。いつもより心なしか、僕を抱く美里の腕の力が強い気がする。

そこそこ豊かな彼女の胸が背中に押し当てられ、僕の心拍数が上がった。


#


「ここ」


黒崎駅から10分ぐらい。結構年季の入ったアパートの前で、美里は止まるように言った。

僕の家もそこまで大きくはないけど、これは……


「……どこ停めればええかな」


「アパートのあそこに停めて。うち2階の奥だから、待っとるね」


カンカンカン、と階段を上るたびに金属音が響いた。

薄汚れた扉を開けると、キィという音と共に芳香剤の香りが漂ってくる。どこか美里の匂いにも似てるかな。


家の中はきちんと整理されていた。部屋はふすまで隔てられてるけど、居間からの音とかが気にならないんだろうか。


「勇人、こっちこっち」


呼ばれた方に向かうと、美里がベッドに腰掛けていた。女の子の部屋に入るのは姉ちゃん以外では初めてだけど、やっぱり部屋の色合いとか全然違うものなんだな。

全体的にパステルカラーで、ふわりとした美里の匂いがそこかしこにある。それが愛しくて、僕の鼓動はさらに早まった。


「やっぱ、きれいやね」


「えへへ、勇人のために掃除したんよ。お茶飲む?大したの出せんけど」


僕はどぎまぎしながら小さく頷いた。すぐに美里が麦茶とチョコレートを持ってくる。


「何か、美里らしい部屋やん。女の子らしいけど、あんまりギャルっぽくもないというか」


「そ、そうかな?……嬉しいっちゃ」


他愛のない話をしているうちに、ベッドに座る僕と、麦茶のグラスを持った美里の距離が徐々に縮まる。

抱き寄せようとしたらすぐできる距離になったけど、その前に訊きたいことがあった。


「……どうして、家に呼んだん?」


「そりゃ……勇人と2人きりでいたかったし……」


「ホテルでもよかったやん?それに、今日準備してないと」


美里の顔が曇った。……しまった。


「……いつまで一緒に入れるか、分からんっちゃ……。勇人がもし癌なら、いつ死ぬか分からんとよ??

もっと私のこと、知ってもらいたかったっちゃ!!それに……もっと、もっと想い出も欲しいっちゃ!!

できれば……その……それ以上のものも、欲しい……」


美里の目から涙が溢れ出した。……そうか。この前あんなことを言ってたけど、美里だって平常心でいられるわけがないんだ。

それに、いつ僕が死ぬか分からないなら……全力で、今を大切にしたい。そう思うのが美里だっけ。


僕は急に申し訳なく思った。……彼女ほど、僕はこの関係をかけがえのないものだと思っていただろうか。


僕は強く、彼女を抱き締めた。


「……ごめん、美里……そういうことだったんか」


「ううん……私こそ、ごめん……何か、急に怖くなっちゃって……。

この前しゃきっとせいって言っときながら……また、大切な人が死ぬの、辛いっちゃ。

金曜会うの断られて、ひょっとしたらという思いが強くなったけん……だから、こうやって」


僕は彼女を少し離すと、顎に手をかけ上を向かせた。


「分かったっちゃ。少しの間だけど……いっぱいしよな?」


美里は無言で頷くと目を閉じる。キスの味は、涙のしょっぱい味がした。


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