336:【TRI-PLETTE】ラ・モルテとは、その心の奥底に誰よりも深い慈愛を抱えている
前回までの「DYRA」----------
タヌたちを案じていたDYRAだが、一瞬遅かった。最悪の事態はもう起こっていた。ハーランの姿を見つけたとき、DYRAは全力で斬り掛かった。彼を追い詰め、「ニムローテ」とは何かを問いつめる。しかし、一瞬の隙を突かれ、逃げられてしまった──。
「くそっ!」
ハーランに逃げられた。タヌの姿もない。何と言うことだ。DYRAはあたりを見回した。夜なので真っ暗と言われればそれまでだが、普通の人間よりは見える。だからこそ、何か手掛かりでも取っ掛かりでもいいからないかと探す。
海の方へ繋がる獣道をじっと見つめたときだった。
「……」
微かに人の呻き声が聞こえる。DYRAは顔を上げると、声が聞こえた方へ走った。
「……っ」
遠くの方に海があることが辛うじてわかる光が見えたあたりだった。足下の方から何かが聞こえる。
人が倒れていた。女性だ。DYRAは誰かわかると助け起こす。
「おい。何があった?」
「タ、タヌさんが……」
倒れていた女性が痛みを堪えながら、ゆっくりと身を起こす。
「お前。RAAZに命令されたのか?」
ロゼッタが首を横に振った。
「RAAZに助けられて、死なずに済んだ命をどうして」
DYRAは周囲を警戒しつつ、あたりを見回す。自分たち以外に誰かがいる、身を潜めているといった気配はまったく感じられない。確かめてからロゼッタに肩を貸した。
「理屈じゃ、なくて……こういうのは」
「タヌは?」
「あの男に……どさくさに紛れて連れてかれて」
「あの男?」
「ああ、あの男だ」
「ハーランか?」
「ハーラン?」
「髭面の男だ」
「違う。西の海岸で遭遇した、あの」
DYRAはここで、ロゼッタが誰のことを話しているか理解した。ピッポだ。だが、今はそれで断定するのはいささか早計だ。DYRAは同じ姿の人間がもう一人いることを知っているのだから。もう少し話を聞いた方がいい。DYRAは彼女を連れ、焚き火があった方へと戻った。
焚き火があった場所にはもう煙も何もなく、僅かな種火と二人の男の姿があった。戻った頃には少しずつではあるものの、東の果ての空が明るくなり始めているのが木々越しからでも見えた。
「お前……来たのか」
キリアンがいるのを見たDYRAは声を掛けた。
「そこの兄さんが軽い怪我しとったからな。それに、タヌ君がいなくなった以上、隠れる理由もなくなったからな」
言いながら、キリアンが手首あたりから手の甲に包帯を巻いたディミトリをさした。
「大したことねぇよ」
ディミトリが言い返したとき、ロゼッタがDYRAから離れる。それを見たキリアンがすぐに駆け寄った。
「肩、ぶつけたか」
言いながら、キリアンがロゼッタの左肩まわりに触れる。
「関節ヤバいな。ちょっとガッツリ痛むけど、治すわ」
そう言って、ロゼッタの肩まわりと二の腕のあたりを掴むと、慣れた様子でボキボキと鳴らす。
「あああああっ!!」
あまりの激痛にロゼッタは悲鳴を上げた。
「今だけや。すぐ治る。終わりや」
キリアンはそう言って、ロゼッタの肩まわりをマッサージした。
「たし、かに」
目に僅かな涙を浮かべたまま、ロゼッタは肩を少しずつ動かし、本当だ、と言いたげな表情をした。
「だろ? まぁ、どうしても違和感と痛みは今日明日は残るかもやがそれも治まるから安心しぃ」
ロゼッタの件が一段落したところで、DYRAは改めて三人を見る。
「キリアンがタヌと一緒だったのは想像がつくんだが……お前たちも一緒だったのか?」
「俺とそいつ、いや、彼女はモラタで一緒になった」
ディミトリはそう言って、キリアンとタヌがモラタへ着き、再会してからの顛末を語った。
「二人、いたのか」
DYRAは、同じ顔の人物が二人いたこと、タヌが「父さん」と呼んだ人物だったこと、副会長とも縁があったこと、混乱の最中でキエーザが死んだことなどをディミトリから聞いた。
「タヌを連れ去ったのは、二人のうち、どっちだ?」
質問を聞いたロゼッタは一瞬、DYRAの方を見た。
「一言も発してなかったから、どちらと言われても」
「確かに。あたりが真っ白になって、気がついたらアンタとオッサンがいた。俺もそれしか見てねぇ」
ディミトリは率直な印象を伝えた。
「肝心なところは、誰も何も見ていない、か」
それはそれでいい。DYRAは二度、自分自身に言い聞かせるように頷いてから続ける。
「タヌの件は、私がすべて引き受ける。キリアンにはもう一度言うことになるな。……お前たちは西の果てのあの塔には近寄るな。あと、近寄るヤツは全部排除しろ」
ディミトリとロゼッタは小さく頷く。
「私やタヌは、あの場所へ行く明確な理由がある。だが……ここから先、部外者は邪魔だ。見つけたら、容赦しない」
それだけ告げると、DYRAは一路、西へ走り出した。
走り去ったDYRAを、誰も追うことはなかった。追えなかった。
「……俺たちはお呼びじゃない、か。できることなんて、ねぇしな」
ディミトリがぼそりと呟いた。
「いや。それがそうでもない」
キリアンが気持ち、明るい声で返す。
「西の果てのあの塔へ行くなってだけで、オレらにやれることはまだある」
「できることが、まだ、ある?」
ロゼッタが問うた。
「ああ。オネエチャンが言いたいのは要するに、『誰も近づけるな』、だ。これから起こることに、関係ないヤツが来て気を散らされたり逸らされたりすることを一番嫌がっとるんだ」
「あのマイヨも似たようなこと頼んでいたけど、ラ・モルテ……言い方」
ディミトリが頬を膨らませながら、呆れたと言いたげにぼやく。
「DYRA様は、タヌさんを助けに……?」
「タヌを、ラ・モルテが助けるから邪魔するなってことか」
「それだけじゃないだろう」
「確かにそうだよな。下手に邪魔をしたら……」
「オレらで、野次馬で来るような連中は全部退かすんや。今のオネエチャンを怒らせたら何が起こるかわからん」
「けれど、どうやって……?」
ロゼッタの疑問の呟きを聞いたディミトリは、考える仕草をしてから、ハッと顔を上げた。
「オバチャン」
ディミトリより一瞬早く、キリアンが口を開いた。
「モラタの人なんやろ? だったら、今からモラタへ戻って大急ぎで、他の街へ片っ端から飛ばせるだけ鳩を飛ばしてくんか?」
キリアンはロゼッタが何かを言う前に続ける。
「街には何でも屋の組合がある。あと、大口の行商人や両替商宛にも」
ディミトリも声を出す。
「それ! 錬金協会の支部にも出しといてくれ!」
「兄さん、それや! 錬金協会なら、両替商とも連携しとるはずやから確実に伝わる」
「オッサンが乗っ取ったっても、組織の上だけだ。末端なんていつもと同じだ。内容は『西には来るな。詳しくは各支部の危機管理部と監査部に従え』って。差出人は、会長とイスラ様、それにキエーザと俺の連名で」
「それがええわ。多分あの会長サンなら、今日だけは勝手に名前使っても許してくれるさ!」
キリアンの指示を聞いたところで、ロゼッタは力強く頷いた。そして残っていた小さなランタンを手にすると、下山するべく東南へ、これまで歩いてきた道をそのまま戻る形で走り出した。
「オレらも急ご!」
「ああ!」
二人は崖と海がある西へ向かって走り出した。
空が微かに白み始めていた。
336:【TRI-PLETTE】ラ・モルテとは、その心の奥底に誰よりも深い慈愛を抱えている 2025/12/22 22:05
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2025年もあとわずか。そして1日、1日と近づく冬コミ。
寒かったり、季節外れの暖かさだったりでしんどい日々、皆様如何お過ごしでしょうか。
ラストまであと僅かとなりました。わずかと言っても、あと1回とかではなく、恐らく、フェラーリのナンバリングみたいな回数で終わりそうな気配ですが、575とか599みたいな極端なアレではないと思います(348とか355とか……)。
そして、ここに来てランキングに入り始めて本当に嬉しいです!
唯一無二のゴシックSF小説へ、一層の応援、よろしくお願いいたします!
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!
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【宣伝】即売会参加まわりについて
姫月のサークル「11PK」は、以下のイベントに参加いたします。
12月31日(水)、東京ビッグサイト全館「コミックマーケット107」 西む39a
Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と! 最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違う……!
さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!
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