335:【TRI-PLETTE】死神(ラ・モルテ)vs幽霊(ファンタズマ)!!
前回までの「DYRA」----------
ハーランの罠に掛かったマイヨは、身体を休めつつ、少しでも回復を早めるために硫酸マグネシウム液に身を浮かべる。過去を思い出しながらも、決してそこには溺れず、自らの役目を果たさんと心を新たにした。
キリアンと別れたDYRAは、夜陰に紛れ、ネスタ山の奥へと気配を消して進んだ。やがて、焚き火の光が見えた。もう薪が減っているからか、さして明るくはない。恐らく、熊などの動物が来てしまったときにすぐわかるようにするためだろう。
キリアンは陰からタヌたちを守るために離れた場所にいた。なら、あそこの焚き火の周囲にタヌがいると見てほぼ間違いない。DYRAは上りやすい木を見つけると、蛇腹剣を顕現させてワイヤー代わりに使い、太い幹に絡める。そしてその剣を使い、一気に木に登った。
木の上からあたりの様子をうかがう。焚き火が目印となり、それなり程度に見える。普通の人間なら焚き火と人影がせいぜいだが、DYRAには性別や体格などもわかる。
視線の先にはタヌとロゼッタ、それに金髪の若い男がいる。キリアンからの話と合っている。だが、彼らの周囲が何かおかしい。ハッキリとは見えないが、陰に隠れながら何かが微かに動いているのが見える。動物だろうか。アオオオカミではなさそうだ。連中は数頭群れて動く。単独で動くことはほとんどない。
DYRAは目を懲らし、動くものをじっと見つめる。しかし、それが周囲を警戒しつつ焚き火を囲む三人の方へと近寄る人間だとわかったときにはもう遅かった。
「なっ!」
一瞬、何か光るものが見えるや、眼下の視界が真っ白になった。激しい光と凄まじい量の白煙があたりを包み込む。
「──うわっ!」
「──何だっ!?」
「──あっ!!」
短い驚きの声や悲鳴。DYRAは何が起きているのか把握しようと努める。が、思い通りにいかない。
「くそっ」
DYRAが毒づいたときだった。
「……!」
微かに呻き声が、続いて足音が聞こえた。光と白い煙の中から微かに、何かを抱えて走り出す陰が見える。DYRAはそれが何かわかると、上から奇襲するべく、飛び降りた。蛇腹剣が直列状の剣に変化していく。DYRAが剣を振り下ろしたときだった。
「っ!」
剣を受け止められる感触が伝わる。続いて、DYRAは腹部を正面から蹴られた。吹っ飛ばされ、臀部から倒れたが、すぐさま立ち上がった。
「──まさかここで」
白い煙の中、DYRAのほぼ正面から聞こえてきたのは、聞き覚えがある声だった。自分を蹴り飛ばした人物だとすぐに察知した。
「お前……ハーラン!」
DYRAはそのとき、ハーランの背後に誰かが迫っているのを察した。
「邪魔だ! 死にたくなければ下がってろっ!!」
言い終わるより先に、DYRAは蛇腹剣を鞭状にするや大きく振るった。振るった動きで白い煙が晴れ、大柄な男の姿が見えるようになる。胸部に胸当てのような上着を着用し、腕も肘下から手甲で、足も膝下から脚絆を思わせる覆いを填めている。
煙が晴れてくる。
蛇腹剣を手にしたDYRAと、ソウトゥースナイフを持ったハーランが対峙する。ハーランから離れた場所の大木の陰にディミトリがおり、ロゼッタは走り出したもう一人を追って走り出している。
DYRAはここですぐにタヌがいないことに気づいた。同時に何が起こったか理解した。誰かがタヌを拉致して、それをロゼッタが追っているのだ、と。
「そこをどけ!」
DYRAは直列状に変えた蛇腹剣を振り下ろす。ハーランはそれをすかさず、だが最小限の動きで避けると、すぐさまソウトゥースナイフをDYRAへ振る。しかし、リーチが短いため、DYRAへ届くことはない。
「そうは、行かない」
ハーランが自分を通す気がないのだとDYRAは理解する。それでも、引き下がらないし、引き下がるわけにはいかなかった。
「ならば!」
蛇腹剣を構え直すと、自身の周囲に青い花びらを舞わせながら、DYRAはハーランへ挑む。剣が振られる度、黄金色の粒子をまとった青い花びらが舞う。
「ぐっ!」
矢継ぎ早に二の太刀、さらに次手を次々と繰り出す。DYRAはあれよあれよの間にハーランを防戦一方に追い込み、畳み掛ける。
大木の陰にいるディミトリが何かを叫んでいるが、ハーラン排除に全神経を集中するDYRAには聞こえない。意識を逸らせば反撃されてしまう。
「どけっ!」
「お嬢さんの頼みでも、それは聞けない」
ハーランも引き下がらない。
木々が蛇腹剣を使うことに制限を掛ける。DYRAは場所が悪いと気づくが、場所を変える以外の有効な対策が浮かばない。だが、向こうもそれをわかっているのが何となく伝わる。ここで挑んだ時点で、術中に填まってしまったも同然だ、と。
状況を打開するには一気に勝負に出るしかない。そう。今ここでハーランを仕留める。これしかない。
DYRAが一気に距離を詰め、ハーランの首を狙ったときだった。
再び、激しい光と真っ白な煙が至近距離で炸裂し、広がる。
「しまっ……!」
だが、先ほどと違い、自分への攻撃はなかった。
煙が晴れ、暗闇が戻って来たとき、そこにハーランの姿はもちろん、気配すらなかった。
「まだっ!」
DYRAは諦めない。まだ数秒も経っていない。今なら追いつける。記憶を頼りに海側へと続く山道を走り出す。それは奇しくも、ロゼッタが先に走ったのと同じ方向だった。
煙に視界が邪魔されないようになると、視線の先に、走る人影が見えた。一目で男だとわかった。ハーランに違いない。DYRAは蛇腹剣を鞭状にすると、走りながら、先を走る人影の足下に狙いを定め、振り下ろす。
直撃こそしなかったものの、地面ではない何かに当たった感触が手に伝わる。先行する人影の速度が遅くなったのがわかるや、DYRAは一気に距離を詰め、背後から飛び掛かった。
「ぐわっ!」
「っ!」
前につんのめって倒れるハーラン。そこへDYRAが彼の背中に覆い被さる。彼女は迷わず、鞭状になった蛇腹剣の刃の一部をわしづかみするや、ハーランのうなじに押し当てた。ワイヤーやバラバラになった刃の角が少し食い込む。
「ハーラン! 答えろっ!!」
「そういう趣味はないが、お嬢さんの質問には答えられる範囲で」
DYRAは少しも緊張の糸を緩めることなく、質問を発する。
「フィリッポの本名をフルネームで言え」
「……そんなことか。フィリッポ・クラウディージョこと、フィリッポ・クラウディオ・カッソン・ニムローテだ」
「ではそのニムローテとは、お前にとって何だ?」
「親族であり、宗主だ」
「では、フィリッポとタヌはお前にとって」
ハーランは溜息にも似た息をわざとらしくこぼしてから話す。
「……俺を大事にしてくれたエリゼル様の子孫、だな。嘘だと思うなら、クソガキやネズミの親玉に聞いてくれても構わない」
初めて聞く名前だ。だが、DYRAはそちらへ意識をやらない。
「大切なヤツの子孫がフィリッポなら、タヌだって……」
言い掛けたとき、どこからともなく飛んで来た軽い何かがDYRAの頭にカツンと当たった。
そちらへ意識を向けてしまったそのとき。
ハーランが一気に立ち上がった。その勢いでDYRAが今度は倒れてしまう。
「しまっ……」
だが、ハーランはその隙にとばかりに足早に海が見える方へと脱兎の如く走り去った。
DYRAは立ち上がると、足下に目をやった。銀色の丸い筒のようなものが落ちていた。時代が違うなら、空き缶、というものだ。誰かがこれを投げつけ、自分の注意を逸らしたのだとわかったとき、DYRAは忌々しげな表情を浮かべた。
335:【TRI-PLETTE】死神vs幽霊!! 2025/12/17 20:35
335:【TRI-PLETTE】死神vs幽霊!! 2025/12/16 23:40
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寒暖差大きな日々が続いておりますが、冬コミは1日、1日と近づいております。
皆様如何お過ごしでしょうか。
リワード入ったり、SFでランクインしたりと本当に嬉しいです。リワードについては、0→1が一番難しいので、正直言って、あのときはお赤飯炊こうかとすら考えたくらいです。
これも皆様の応援あってのことです!
唯一無二のゴシックSF小説、応援よろしくお願いいたします!
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!
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【宣伝】即売会参加まわりについて
姫月のサークル「11PK」は、以下のイベントに参加いたします。
12月31日(水)、東京ビッグサイト全館「コミックマーケット107」 西む39a
Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と! 最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違う……!
さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!
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