5話 ダンジョンへ潜入前
どうも、今回もなんとか書き終えました。
また次話で会いましょう ノシ
2016年2月24日:本文に書き忘れと書き直しをしました。
本文の書き忘れ等、誠に申し訳ありません。
2016年2月29日:本文を追記しました。
2016年6月 1日:本文の編集(竜仙「俺」⇒「儂」に変更)
あれから時間が経ち、竜仙との約束した二時間が経った。現在、俺は竜仙に命令を出した場所に立っている。風呂から出た後、ミーアが腹を鳴らしたので朝食を食べてからこの場所に来た。本来ならミーアたちを連れて行くところなのだが、一ヶ月と言う期間をつけたことで、ミーアが「すぐにでも授業を受けたい」と言ってきたのだ。なので、ライラに頼んで今日の午前八時から授業を始めるように指示を出した。そして、現在は午前九時で
ある。約束の丁度二時間が経過したあたりで、俺が一人でこの場所に立っているわけだ。
さて、集落の中央を中心に周りを見渡して見ると、作業服を着たゴブリンや獣人族の部下たちがスコップやピッケル等の作業道具を片付けていた。彼らの方向へと歩みを進めると此方に気がついたらしく、片付け作業を一時中断してその場で敬礼をした。
「「「「おはようございます、お館様」」」」
「おう、おはよう」
俺の一言を聞くと敬礼を解き、一匹のゴブリンが周りの部下たちに命令を出す。どうやら彼が「現場監督」なのだろう、他の者は指示を受けるとすぐに片付け作業を再開した。部下たちの持っているシャベルには土汚れがあり、作業服の所々に泥あとがついていた。何かを掘ったように思えるのだが、何を掘っていたのだろうか。集落の住人を埋めるための穴でも掘っていたのだろうかと思ったのだが、確か慰霊碑の場所を探していると言っていた筈だ。なら、まだ埋葬用の穴を掘っているとは限らない。そうなると答えは一つとなる。つまり、ダンジョンの通り道を開けていたに違いない。
「お館様、シータ様からの指示でダンジョンの入口へと続く道を作りました。どうやら、かなりの年代物のようで、ダンジョンの入口に鳥居のような物が置かれておりました。実際に、見てもらうと解かりますので、どうぞ此方へ」
現場監督の部下に案内され、ダンジョンの入口付近へと向かった。そこには鳥居のような形をした赤黒い色をしたモノが立っていた。そして、その奥に青紫色の扉があった。どうやら、この門の先がダンジョンなのだろう。我が部下ながら、ダンジョンまでの道筋を階段にしてくれたようだ。降りやすいように石段の階段にしているのを見て、とても良い感じに作られていた。
「おいおい、旦那。儂たちのことを忘れてないか」
背後から聞こえた竜仙の声に、苦笑しながらも振り返った。そこには、両腕を組みながら不満そうな表情をする竜仙と、竜仙の後ろでジッと俺を見つめながら命令を待っている三人の白髪の少女たちの姿があった。また彼女たちの背後には『見覚えのある二匹のドラゴン』の死体があった。身体の所々に深い傷跡があり、翼には数点の小さな穴が空いていた。それ以外の外傷は見られなかったので、多分だが出血多量による死亡だと判断した。だが、ドラゴンがその程度で死ぬとは考えられない。もしかしたら、出血多量により意識が朦朧としたことで飛行が困難となり、そのまま高度からの落下による首の骨を折っての死亡も考えられた。まぁ、どちらにしても『死んでいる』ことには変わりない。
「済まない。お前たちが帰ってくる間に、部下たちの働きを観ておきたかっただけだ。で、報告を聞こう」
俺の言葉を聞いて、三人の少女が俺の下へと歩いてきた。それを見て、竜仙は黙って頷き、その場で報告を始めた。
「まず、この集落付近にいる魔物について報告するぜ、旦那。まず、集落を中心に半径二百kmは、ほぼ焼け野原になっていた。その焼け野原に『この二匹』の死体が落ちていたんで指輪で回収後、二百km先を探索しましたが魔物の気配はなかった。多分だが、竜の戦闘に巻き込まれるのを恐れて、逃げ出したと考えて良いだろう。そうなると、昨日の集落に入り込んだ魔物たちは生き残りだったのかもしれないな。ちと、可哀想なことをしちまった」
久しぶりに見た竜仙の憂いた表情に、俺もどう答えるか考える。確かに、この集落に入った魔物は、そこの死体のせいで住処を奪われたのだ。つまり、彼らもまた被害者だったのだ。そう考えると、殺すことも無かったのかもしれない。食べ物を分けてあげ、新たな部下として向かい入れることもできただろう。だが、悔やんだところで過ぎた事をくよくよしてはならない。今は、やるべき事をやらなければならない。
三人の部下が目の前で歩みを止めると、指輪からあの死体から剥ぎ取ったのか爪や鱗など取り出した。それを見て、俺は黙って三人の頭を右から順に優しく撫でた。すると、目を細めながら「ぬぅぅ」と嬉しそうな声で言う。いや、何故「ぬぅぅ」なのか疑問だが、あえてそこには触れないことにした。
「確かにな。だが、もう過ぎてしまった事を悔いても仕方がない。取り敢えず、今はこの集落をどうにかしないとダメだ。今後、この集落に人が住むようになった時のことを考えなくてはならない。で、その他に何か新たな情報はあるか? 今は一刻も早く集落の周囲の現状が知りたい。危険分子がいるのなら、即刻排除しなければならないからな」
「確かに、旦那の言う通りだな。他に解かったことについてだが、元々この集落は山のカルデラの上に作られたようだ。だから、集落を中心に全ての森が炭になってしまった。木材になるようなものはなかったが、ピッケルで掘れば岩石は手に入るだろうな。後は、部下たちの魔法で森を復活させるが、どこまで復活できるかが問題だがな。まぁ、カルデラの上に立っているとは言え、この山が噴火するかについて部下に専用の装置を持たせて調査している。まぁ、噴火は起こらないと思うが、念には念を入れてだ。その他に、このカルデラから外へ出るためのトンネルを発見してな、そこに人間の血のようなものを発見した。今、科捜研の方に人間のDNAかどうかを調べさせている」
「そうか。この集落がカルデラの上にあり、周辺には街がないか。なるほど、そうなると下山したところに集落があるかもしれないな。ところで科捜研と言ったが、それは俺たちの世界の科捜研で良いんだよな? まさか、この集落に作ったとか言わないよな」
「旦那、流石にこの集落に科捜研なんて作るわけにはないだろう。儂たちの世界の方だ。さて、カルデラの外についてだが、竜の戦闘が原因で所々ではあるが下山するための道に岩が落ちていたのでな、回収して部下たちに渡して加工させている。あの岩を加工すれば、集落を囲う防壁の材料にはなりそうだからな。報告は以上だ」
「なるほど、了解した。ところでお前たちからも、気になるようなことがあれば報告を頼む」
目の前にいる部下に対して言うと、三人ともお互いの顔を見てから首を横に振った。どうやら気になる点はなかったようだ。それならば、俺がダンジョンへ探索に出かけている間、この集落に危険はないだろう。だが、だからと言って気を抜いてはならない。ここは、今後のことを踏まえて話し合う必要がある。俺は指を鳴らし、今日についての役割分担が書かれたクリアファイルを召喚した。クリアファイルから書類を取り出し、竜仙と部下三人に渡した。
「旦那、これはなんだ? 今日の業務内容でも書かれているのか」
「あぁ、竜仙の言う通り『今日の仕事内容』が書かれている書類だ。取り敢えず、急いで作成したから誤字があると思うが、そこは許してくれ。さて、最初の項目だが『この集落の現状を考えて、害をなす者は殺して構わん』と書かれているだろ。これは、盗賊や魔物が該当する。また、貿易商や商業関係、それに冒険者のような者たちが来た場合、追い返すのではなく情報を聞くために中に入れてやれ。ただし、情報を聞くためとは言え、暴力や拷問はダメだぞ? そこは、竜仙たちのやり方に任せる。さて、次は――」
竜仙たちに書類の内容について説明していく。書かれている内容の大半が「集落の修復やミーアの教育場所の建設」である。集落の修復や教育場所の建設に対して、なるべく急ピッチで終わらせるようにと書かれており、事故や怪我をしないように安全な作業を心がけること等が書かれている。その内容を聞いて、竜仙は黙って頷くと部下の三人へ「シータにこの事を報告してくれ」と指示を出した。俺の指示を聞いて、部下三人はシータのいるであろう方向へと身体を向けると指を鳴らし、一瞬にしてその場から消え去った。これは彼女たちの転移魔法を発動させただけである。深いことはあえて言わないでおこう。
(相変わらず、部下たちは無言転移が好きだなぁ。と言うか、報告だけに対して何故、三人で行くんだ? 一人が行けば良いのに、一体誰に似たんだ――いや、俺か)
そんな事を思いつつ、その説明を終えたので『次の件』について話し合う事にした。
「んじゃ、次の話だが――俺たちは、いずれこの集落を離れることになる。それは、俺の部下たちも同様だ。部下たちには元の世界に帰ってもらい、仕事をしてもらわなければならないからな。そうなると、この集落は無人になってしまう。それだけは絶対に避けたいと思っている。なので、この世界の素材を用いて『ホムンクルス』を創ろうと考えている。ボルトにも協力してもらい、集落を守る者たちを作り上げるつもりだ」
「ホムンクルスを創る? シータと同様に創ろうと思っているのか。だが、旦那。今後の事を考えると、やはり部下は残しておくべきだと思うのだが」
竜仙の言っていることは、確かにその通りだと思った。現状、この集落を守る為にも部下を数名ほど常駐するべきだ。本当なら、俺も竜仙の言った通り部下を何人か残して集落の保護を行なってもらいた。その方が安心して仕事ができるのだ。だが、そうするわけには行かない理由があるのだ。それについて、竜仙に説明を始める。
「竜仙の言っていることは良く解かるのだが、どうしてもそれはできない。この世界に対する作業を、俺たちは嬢ちゃんに全て任せている。流石に、アリアの教育等も含めて嬢ちゃんの睡眠時間を削っているんだ。このまま部下を残しておくと、ただでさえ少ししかない睡眠時間を、さらに削ることになる。そんなことで睡眠時間を減らさせるのは避けたい。来たるべき決戦において、決定打がなくなることを意味している。だから、部下を集落に残す事ができないんだ」
「来たるべき決戦。確かに、始祖様の力は狂い神を追い詰めるのに必要だったな。だが、別に少数だけ部下を残しても問題はないだろう。一人や二人残したところで、始祖様の睡眠時間が減ることはないと思うが」
「確かに、その通りだ。だが、どうしても『世界の意思』に対して、救いに来たと知られたくはないんだ。俺たちは、あくまで『監視者及び執行者』として此処にいる。だから、この世界に『監視と執行をしに来た』と思わせなければならない。俺たちが狂い神を殺しに来たと世界が認識してしまえば、確実に狂い神が目覚めるスピードが早まるように調整するに決まっている。だが、俺たちが監視と執行をしに来ただけと思わせれば、世界が勝手な行動を取る必要がなくなる。だからこそ、狂い神が目覚める時間をより長くさせ、俺たちは目的のものを迅速に回収し、狂い神のエネルギー供給を断つ必要がある」
一通り説明を終えると、竜仙は真剣な表情になった。部下を残せない理由を聞いて、納得したのか黙って頷いた。
「なるほど。監視者と執行者が他の世界に関わる場合、旅人と部下を含めて『二人までは干渉が可能』だったな。その規約について、すっかり忘れていた。だから、儂と旦那以外を残すことができないってわけか。それに、今回は『旅人の規約』で、どうしても集落の修復は必要だから、部下に仕事を回せるわけか。なるほど、理解した。全ては『この世界が勝手なことをしないため』の予防だったわけか。それに確か「狂い神の欠片」てのが、彼奴にとってのエネルギー供給装置だと始祖様から聞いた事があるが、それは――」
「それ以上は、ここでは語るな。それは今やらなければならい事が終わってからだ。まずは、目の前にある仕事を片付けよう。部下たちの進捗状況は、ちゃんと教えてくれよ。進捗の微調整とかも含めて、集落を出る日程を変えなくてはならないからな。竜仙、旅館にいるミーアの指導を頼むぞ」
「あぁ、了解した。ミーアについては、儂に任せてくれ」
今回の目的も含めて説明を終えると、急に上空から激しい風の音が聞こえた。太陽が雲に覆われたにしては、規則正しく動く大きな影が足元に写っていた。どうやら『招かねざる客人』が来たようだが、警戒する事もなくそのまま空の上にいるモノへと顔を向いた。そこには、とても綺麗な蒼いドラゴンが飛んでいた。羽ばたく翼を見れば、綺麗な水色の翼膜に波紋のような模様があり、銀色の瞳は俺らを見つめているがすぐに周りを見渡すように首を左右に振っていた。まるで『誰か』を探しているかのように、先程からキョロキョロと見渡している。
「話も終えたことだし、ダンジョンに向かおうと思ったのだが。竜仙、少し待ってくれ。まずは空を飛んでいる竜に対して、話が通じるかどうか確認して来てくれないか」
「旦那が行けば良いじゃねぇ――あぁ、そういう事か。仕方がねぇ、了解した。旦那、ちっとばかし呼んで来るんで、少し待っていてくれ」
そう言うと、竜仙はその場で浮遊して空を飛んでいる竜へと向かった。竜仙が浮遊する姿を見て驚愕したのかドラゴンが目を見開くのを見ながら、竜仙はドラゴンに対して話しかけ始めた。人の言葉を理解できたらしく、竜仙の説明を聞き何度も頷くと竜仙と一緒にゆっくりと此方へと降下する。見る限り全長が約7mはあるので、成熟期ではないだろうか。そのドラゴンが、なるべく地響きを立てないように慎重に降下するのを見届ける。
「旦那、どうやら人語は理解できるようだ。取り敢えず、話だけでも聞いてもらおう」
「そうだな。君は、人語が話せるか? 話せるなら、首を縦に振ってくれ」
ドラゴンは俺の質問を理解しているらしく、首を縦に振ると急に身体が光りだし、みるみると小さくなっていく。しばらくして光が消えると、完全に俺らと同じ人型へとなった。サラサラと風に揺れる腰まである長い蒼い髪に、綺麗な銀色の瞳が俺をジッと見つめている。さらに、青色のシャツに群青色のズボン。そして極めつけが水色のジャケットと言う、紛れもなく、青を統一している服装であった。見た目からして、俺と同い年くらいなのだが、その割には胸が大きい。ライラと同じくらいの大きさはあるだろうが、それについては気にしないことにしよう。精神的に負った古傷をまた開くような行為はもう避けたいのだ。先ほどのことを思い出すたびに、俺の精神値がダダ下がりする。あの馬鹿、俺の子を産むためなら手段を選ばんつもりだろう。今日のせいで『六人目』が出来たら、流石に目眩を覚えそうだ。まぁ、ミーアを先に風呂から出した後だったのだがな。あの時のライラの追い出しか――いや、今はその事は忘れるとしよう。今は、彼女について話し合いを始める。
「なるほど、その姿なら話せるな」
「はい。私は『ブルーソードドラゴン』族のティエ・ロンドです。この集落に住んでいる『リチャード・チェルト』殿の親友だ。今日はミーア・チェルトの誕生日を祝いに来たのだが、これはどういう事だ? 何故、魔物たちと人族たちがこの集落に」
「あぁ、それについて説明させてくれ。実は――」
俺はティエさんに俺たちの事や集落に起こった出来事を説明した。最初は驚いた表情をしていたが、次第に険しい表情へと変わった。話の内容を聞いて、怒りのあまりドラゴンの死体を睨みつける。まぁ、死体になってしまった以上、その怒りのはけ口が無いわけだ。どこかに怒りの矛先を向けたいようだが、この付近の魔物は逃げてしまったため八つ当たりは出来ないであろう。それに、俺の部下にストレス発散の為にぶつけようにも、多分だが手も足も出ないと思う。俺の部下にいるゴブリンについてだが、ドラゴンくらいなら三十分もかからずに討伐できる。なので、ティエさんのストレス発散には不向きであり、不可能だろう。
「さて、ティエさんの気持ちも分からんでもない。取り敢えず、竜仙はボルトを呼んできてくれ。あの死体を解体して、武具を作成してもらう。ドラゴンの肉や骨など、使えるモノは全て使った方が良いだろう。脳や臓器も全て使うから残しておくようにも伝えておいてくれ。後、魂を呼び出して何故この集落を襲ったのかも聞くようにと伝えてくれ。魂はちょいと俺の仕事で使いたいのでな。そうボルトに伝えておいてくれ」
「了解した。そう言えば、先ほど集落に戻る時にベラーダにあったんだが、ボルトが始祖様呼ばれたらしく今はいない。もうそろそろ『呪いの件』が終わるだろうから、戻って来たら伝えておく。ところで、ティエ殿の前でドラゴンの死体についての話をするのは不謹慎だった気がするが」
「いえ、構いません。私にとって、この集落は命の恩人たちが住んでいた。その集落を襲ったのです。自業自得と言うものです。ところで、ドラゴンを解体すると言う話ですが、全て使用するのですか? 使えない部位なども存在しますが、本当に全部使うのですか」
「あぁ、その通りだ。本来なら外道の行為なのだが、今回ばかりは俺たちの事情もあるのでな。この死体を使用して、ホムンクルスを創り出したいと思っている。その代わり、俺たちがみっちり指導する。そして、罪人として『シャトゥルートゥ集落』を守り続けるよう指示する。それで『罪を償わせる』わけだ。俺たちの掲げるスローガンは『犯した罪に対し、相応しい罰を』だ。まぁ、取りあえずはダンジョンを攻略してからだがな」
一通り説明を終えると、竜仙は「んじゃ、行ってくる」と告げてミーアたちのいる旅館へと向かった。まぁ、竜仙に一任していれば問題はないだろう。俺が言うのもなんだが、竜仙がやる気になったようなので問題はないだろう。なんだかんだで、ミーアのことを気に入っているようだ。まぁ、俺もミーアのことは気に入っているし、これからのミーアの成長が楽しみである。だが、その前にやらなければならないことがある。
「ティエさん。貴方がよろしければ、今からでも竜仙の元に行ってミーアの傍に居てくれないか? これから俺はダンジョンへと潜るのでな、出来ればミーアの傍に居て欲しいんだ。先程も説明した通り、ミーアには安心できる『存在』が必要だからな。だから、そばに居てあげて欲しいんだ」
「そうですね。私もミーアに会いたいのです。私にとって、ミーアは親友に等しい関係ではありますが、ダンジョンが存在するのでしたら私もお手伝いしましょう。ダンジョンが存在すること自体、この集落に危険が迫っている事を意味しています。ミーアに安心してもらうためにも、ダンジョンの攻略に協力させていただけませんか? 他世界から来た貴方も、ダンジョンについてそれほど詳しくはないでしょう。私でよろしければ、説明も含めてダンジョンにお供いたしますが」
「確かに、そうですが――」
ティエさんの話を聞き、その後の言葉が詰まり悩んでしまった。確かに、俺はこの世界でのダンジョンの種類などについては知っている。だが、この世界でのダンジョンの歩き方が俺の知る知識と同じとは限らない。なら、ここはティエさんの同行を許した方が得策ではないだろうか。だが、ダンジョンの歩き方に違いなどがあるのだろうか。いや、普通に考えても『マッピング』と『攻略』の二つだけな気がする。だが、ダンジョンに関してみれば、手伝ってもらえるのはありがたいかもしれない。
「うん、そうだな。ティエさん、よろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。イスズさんの足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします」
お互いに握手を交わすと、俺たちはダンジョンのある場所へと体を向けた。道具のダンジョンと言うものが初めてなのもあるが、やはり久しぶりのダンジョン探索に心が弾んでいる。理由はたった一つ、それは『俺の創り上げた技』の試し撃ちができるからである。ただ、今回は『道具のみ』しか落ちていないので、的がいないのは残念である。
(しかし、道具のダンジョンか。魔物がいないダンジョンとは、本当に珍しいダンジョンだな。そして、このダンジョンの奥深くから感じる『不思議な力』について、これが集落にとって災いを呼ぶものなのか、どうか。やはり確認はせねばならないな。いざとなれば、この手で完膚なきまでに叩き潰せば良いことか。取り敢えず、まずはダンジョン最深部に向かうとしよう)
ダンジョンの前にある鳥居を見ながら、部下が来るのを待つことにした。ティエさんの武器を預けるためもあるが、俺のリミッターを制御するための補強薬を貰うためだ。戦闘になると、どうしても隊長達のように『手加減』ができないのだ。もちろん、その原因が解かっている。だが、こればかりは常に制御の練習をしないと治らないのだ。なので、緊急時はいつも力の制御をするために薬を飲んでいる。いつも訓練はしているのだが、未だにその成果が出ない。なので、部下が来るまでは入ることが出来ないのだ。
「お館様、遅れて申し訳ありません。ただいま、薬の方を用意してまいりました」
作業服を来た青髪の狼族の獣人族が、薬の入っている瓶を落とさぬように両手で掴んで持って来た。鋭い目つきの割に、尻尾を左右に振りながら俺を見ている。俺は彼から薬瓶を受け取って、瓶の蓋を開けて飲む。口の中に広がる甘ったるい味に、少し眉間にしわを寄せながらも飲みきった。なんと言えば良いのか解らないが、凄まじく甘ったるい味が口の中に広がる。だが、確実にリミッターの制御が出来るようにはなった。俺は両手を軽く握ったり開いたりして、エネルギーを流しながらどの程度のエネルギーを出すか制御していく。その間も、薬を持って来た部下は尻尾を振りながら、俺をジッと見つめている。
「よし、このくらいで良いだろう。ティエさん、お待たせしました。では、まずこのダンジョンについて話させてもらいます。っと、その前に――」
彼の方へと体を向け「ありがとうな。また、頼む」と言って、そっと左手を彼の頭に乗せ優しく撫でた。すると、嬉しそうに目を細めながら尻尾を左右に振りながら「えへへ」と小声で笑った。昔、竜仙から彼について聞いたことがあり『彼は褒められて育つ系だ』と言っていたこと思い出し、いつものように優しく撫でながらティエさんへと向きを変え、ダンジョンについて話を続けた。
「さて、話を戻そう。俺の部下がダンジョンの波長などを調査した結果、ここは道具のダンジョンであることが解かった。だが、このダンジョンでは道具の持ち込みが不可能らしい。なので、今回は道具の回収をメインとして、最深部にあるアイテム神像の部屋へと向かう。マッピングに関しては、俺の魔法で全地図を作成できるから問題ない。取り敢えず、ティエさんが持っている道具などは彼に預けてくれ」
「はい、分かりました。ところで、ダンジョンの波長とはなんでしょうか? ダンジョンに波長があるなど、私は聞いたことがないのですが」
「ん? あぁ、なるほど。そこから説明しないとダメだったな。ティエさんも知っていると思うが、ダンジョンには最新部にダンジョンコアと言うものがある。そのダンジョンコアから放たれている魔力波動と言うものがあるんだが、それはダンジョンごとに違いが存在する。正確に言えば、ダンジョンごとに魔力波動の波の一周期の長さに違いがあるんだが、その時の波動の長さによって「このダンジョンは道具系ではないか」と大凡は予想がつくんだ。まぁ、どうやって測定するかは、このダンジョン攻略が終わってからだがな。取り敢えず、このダンジョンは道具のダンジョンであることに間違いはないはずだ」
ティエさんに説明を終えたので、部下を撫でていた手を離した。今はダンジョン攻略がメインである。部下がティエさんのそばまで来ると、ティエさんは指にはめていた銀色の指輪を外して彼に渡した。彼はその指輪を見て、すぐに指輪を入れるケースをポケットから取り出し蓋を開け、その指輪を納めてから蓋を閉めた。蓋の上に「ティエ様の所持品」と言う文字が浮かぶのを確認してから、俺たちに向けて会釈すると急いで旅館の方へと向かった。旅館には『俺の私物』が置いてあるから、そこにティエの指輪を預けに行ったのだろう。
「多分だが、旅館にいる仲間へ預けに行ったのだろう。俺の武器も置いてあるから、丁重に保管してくれているから安心してくれ」
「そうですか。分かりました、イスズさんの言葉を信じましょう。ミーアを救ってくれた方々ですから、信じないわけにはいきませんけどね。さて、ダンジョンに向かいましょう。詳しい話は、ダンジョンの中で説明させてもらいますね」
「そうだな。この世界のダンジョンについてある程度は情報を得ているが、ティエさんからの情報の情報も俺にとっては重要だ。ここは『ギブ・アンド・テイク』と言うことで、ティエさんが欲しいモノがあったら提供しよう。他にも武器で欲しいモノがあれば、俺の部下に頼んで作らせる」
「その代わり、情報を提供して欲しいと。なるほど、了解しました。では、その契約で手を打ちましょう。さて、そろそろダンジョンに潜入しましょうか」
「その通りだな。では、よろしくお願いする」
こうして、ティエさんと一緒に『道具のダンジョン』へと潜入することになった。まさか、このダンジョンで『彼女』と出会うことになろうとは思いもしなかった。もしもこれが『偶然』と片付けられるのなら、どれだけ嬉しかっただろうか。だが、これが『運命』だと言うのなら――怒りしかないだろう。まぁ、そんな出会いが待っていることに気づくはずもなく、俺たちはダンジョンへと挑むのだった。