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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
15/90

14話 アジト襲撃

遅れて申し訳ありませんでした。

もう少し早く投稿できれば良いのですが、私の文才の無さに少し絶望を覚え、書き直し作業しておりました。

今度は、遅れないように頑張らねば!!


2016年5月19日(木):文書の修正を行いました。

2016年5月23日(日):文面の修正を行いました。

 集落に到着すると、広場に二十人――もとい、二十匹のゴブリンが縦四列に整列していた。肌の色は茶色に長い耳、そして皆の身長が百五十cmはある。ただ、何故か皆が軍の迷彩服を着ており、背中には長剣などの武器を背負っていた。そして、先頭にはボルトと頬に二爪の傷がある一匹のゴブリンが部隊の方向を向いて立っている。ボルトは先ほどと変わらない服装で、ゴブリンの方は燕尾服を着ている。さらに言えば、一人と一匹は武器を持っていない。と言うか、持つ必要がないと言った方が良いような気がする。

 さて、集落の復興をしていたゴブリンたちが急に広場に整列していることに興味があるのか、仕事を終えた奴隷達の他に冒険者や商人たちが此方を見ている。だが、そんな事を気にするはずがなく、ボルトの隣にいるゴブリンが俺に気づいたのか両手を広げながら叫んできた。


「おぉ、お館様ではございませぬか!! お久しぶりでございます!!」


 ゴブリンが深く頭を下げるのを見て、ついつい苦笑をしてしまった。何故なら、目の前にいるゴブリンは燕尾服を着ており、整列しているゴブリン部隊の中でも筋肉量が凄まじいからだ。燕尾服が破れてしまいそうなほどの筋肉で、サイズがまったく合っていないのかピチピチな状態である。それに正直に言って、彼が誰なのか全く思い出せない。と言うか、このゴブリンが部下にいた記憶がない。これでも部下のことは全員把握しているし、顔や体型の他にも魔力や魂の色を見ればすぐに解かる。だが、この方の魔力や魂の色には見覚えがあるのだが、どうしても『あの人』と違う気がする。だって、あの人は人間だし、どうやってもゴブリンじゃなかった気がする。


「いやはや、御館様に申し訳ありません。諸事情でゴブリンの姿になっておりますが、私は『ガーランド・ディル・ソフィーリア』でございます」


「あぁ、ガーランドか。いやぁ、まさかゴブリンにへ――って、ガーランド!? まさか、ボルトと同様にベラーダの件の被害を受けたのか!!」


「えぇ。ですが、以前と変わらないパワーで戦えますので、問題はありませんよ。ただ、姿が変わってしまいますが、ご命令とあらば――この手、血に染めましょう」


 両手の拳を強く握りながら、肩を広げボディービルダーでの『ラットスプレッド』と言うポーズの中にある『フロント』のポーズをする。その後、バックポーズ、サイドチェストと言ったポーズを行なう。その後、満足したようでガーランドさんはポーズを解くと頭を下げた。その姿を見て、何とも言えぬ気持ちに駆られた。まさか、ベラーダの事故に巻き込まれたのは『ボルトだけ』だと思っていたのだが、俺の弟子であるガーランドまでもがゴブリンになっていたとは予想できるはずないだろう。このままで良いのか頭を悩ましていると、隊列の後方から此方へと走ってくる忍び服のゴブリンが俺の方へと走って来た。


「御館様、遅れてしまい申し訳ありません」


 その場で右膝と右拳を地面に付け、鋭い目つきでジッと俺を見つめていた。背中には刀を背負っており、腰に巻かれた黒いベルトにはクナイのような物がぶら下げられている。彼が俺の弟子であり、ボルト部隊の副隊長を勤めている。彼が遅れたことに対して叱るべきだとは思うのだが、一度として遅刻をしたことのない彼が何故遅れて来たのか疑問である。何かしらの事情があったとしても、これについては追求するべきだろう。だが、彼は懐から一枚の手紙を取り出すと、その手紙を俺へと差し出した。


「御館様の所属しておられます副隊長殿から手紙を預かって参りました。今回の件に関する許可書です」


「そうか、副隊長からか。確かに受け取った。では、今回の任務についての説明はジャックに任せる。任務の概要を、部下たちに説明しなさい」


「御意」


 ジャックは立ち上がるとボルトの傍まで向かい、一礼をしてから部下たちの方へと体を向ける。これから説明を始めるので、先ほどよりも空気が重たくなった。この場に緊張感が漂う中、ジャックは一度深呼吸をしてから部隊に向けて説明を始めた。


「今回は、盗賊団アジトの襲撃と囚われている冒険者及び子どもたちの救出だ!! これから襲撃する盗賊団は、この集落が襲われた原因を作った者たちだと理解しろ!! これより行なうは、罪人どもへの報復だと思え!! この集落に住む者たちの苦しみを、悲しみを胸に刻み、ミーア殿のためにも全てに決着をつける。これはこの集落に住んでいた者たちへの弔い合戦だと思え!!」


 ジャックの説明を聞いてか、ゴブリン部隊の目つきがより鋭くなっていた。拳を強く握るゴブリン部隊の姿を見て、今回の任務がどう言ったものなのか理解したのだろう。彼らはジッとジャックの説明を聞き黙って頷くと、この任務の重要性について理解したと判断しジャックの説明は続く。


「今回、我々が向かうアジトは『旧ダンジョン』を寝座にしている。囚われている冒険者たちと罪人どもの部屋は別々か、同じフロアの可能性がある。今回は隠密行動で全フロアを探索し、罪人を見つけ次第各個撃破をする。また、この集落に来た二人の患者の後を追跡していた罪人が二名いたが、先ほど捕獲しアジトの場所を吐かせた!! 竜仙様とシータ様がゲートを用意してくださった。故に、失敗は絶対に許されない!!」


 ジャックの声が徐々に大きくなるにつれて、部下たちの目つきが鋭くなっていく。


「また、今回はボルト様が直々に司令塔として、参加してくださる。どのような事があろうと通信は絶対に切るな!! 今回は時間との勝負でもある。ボルト様からの指示があり次第、そちらを優先にして行動をしてもらいたい。また、御館様からの指示については、第二波である我々が行なう。我々を怒らせればどうなるか、罪人どもに教えてやれ!!」


『了解!!』


 部下たちの叫び声が集落に響く度に、何事かと集落にいる者たちが此方に体を向けた。彼らの声が大きかったからもあるが、まさか彼らの怒りがこれ程のものなのかと驚かされてしまう。あの時の集落の悲惨さを見たからこそ、彼らは本気で怒っているのだろう。それはジャックも同じらしく、奥歯を噛み締めながら怒りを抑えていた。だが、今回の作戦についての説明が終わっていないため、彼らに向けて作戦の説明を始める。


「では、今回の作戦について説明をする。今回は部隊を二つに分けて行動してもらう。第一、第二部隊は、ガーランド殿と共に第一陣として罪人どものアジトを襲撃する。注意事項として、罪人どもについては生きたまま連れて帰ること!! 理由についてだが、人質を取られた状態で無理やり罪人どもの手伝いをさせられている可能性がある。故に、生きたまま連れて帰るのだ!! 次に、第三と第四部隊は俺と共に第二陣として、囚われている冒険者及び子どもたちを救出する。第一波の突撃による混乱を乗じて、囚われている者達を全員救出する!! 誰一人として、救出漏れをするんじゃないぞ」


ジャックの説明が終わると、この場にいる部隊全員の目つきが鋭くなった。殺気は出してはいないが、彼らの目が怒りに満ちていることはすぐに解かる。説明を終えたジャックは、背後にある門へと体を向けて俺の指示を待つ。だが、ボルトは門の方へと体を向けると五歩ほど歩くと、俺の方へと体の向きを変え敬礼をする。どうやら準備が整ったらしく、真剣な表情を崩すことなくジッと見つめている。俺は黙って頷いてからボルトの方へと近づいていく。


「御館様、最後に部下たちに一言お願いします」


 ボルトの近くに立ち、俺は部隊の方へと体を向ける。ピリピリとした空気の中、皆が俺の一言をジッと待ち続ける。先程も言った通り、今すぐにでも罪人どもを引っ捕まえ、囚われた者達を救いたいのだ。ならば、無駄な時間などかける必要はない。だからこそ、たった一言を彼らに向けて叫ぶ。


「お前たち!! 我らの怒りを、罪人どもにぶつけて来い!!」


『了解!!』


 その言葉を最後に、部下たちは敬礼をした。部隊の背後から竜仙とシータが現れると、俺の方へとそのまま近づくと、その場でお辞儀をしてから集落の門へと歩き出した。そのまま竜泉の向かう方向へと体を向けると、竜仙たちは門の前で立ち止まり、お互いに顔をだけを向けると黙って頷いた。これから盗賊団のアジトへと続くゲートを開くために、防壁と門に挟まれるように立っている木材で作られた門柱の方へと目線を向けた。そこには綺麗な赤色の宝石が埋め込まれており、その宝石に俺たちの持つ力を込めることでゲートが開く仕組みだ。もともと、この集落を守る為に作られたレンガ上に組み立てられた防壁との見た目を考え、出入り口となる門はすべて木製で作られている。ただ、この門には物理攻撃を無効にする調合液によって塗装されており、丸太や鉄球などによる攻撃ではビクともしない仕様になっている。また、この材木はこの集落周辺の自然を復活させた際に、その影響を強く受けた木々を使用して作られており、魔法防御に関してもかなり強いらしい。


「では、これよりゲートを開く。皆、準備は良いな」


「はい、問題ありません。竜仙様、シータ様、よろしくお願い致します」


 部下たちの方へと振り返ることなく告げる竜仙の問いに、ボルトの答えを聞くとシータが柱に埋め込まれた宝石へと手をかざした。その後、シータに続いてボルトも宝石に手をかざすと、門の扉が消えて空間が歪み始めた。徐々に黒く染まっていくと、少しずつだが目的地である盗賊団のアジト手前にある林の風景が現れ始めた。どうやら、ゲートが繋がったようだ。竜仙とシータが門柱から離れる頃には、完全に風景が固定化され目的の場所である『アジト前の広場』が現れた。その光景を確認すると、先ほどの指示通りガーランドがゲートへと向かって走り出す。音もなく、気配すら完全に消した状態でアジトへと向かって走り出すガーランドに続き、部下たちも後に続いてゲートへと向けて走り出した。


「さて、命令の方は任せるぞ。俺は、キャティさんを連れてくる」


「了解いたしました。ミーア様たちもお連れになられるのでしょうか?」


「いや、出来れば連れて行きたくはない。だが、きっとついて来るだろう。だから、なるべき殺しは避けてもらいたい」


 ボルトは黙って頷くと、すぐにベラーダへ『広場への警戒』や、罪人がこの集落へと侵入することを考えて『侵入者を確保』する為に部下たちの配置などを指示出しする。その姿を確認し、竜仙たちに「ここは任せた」と伝えてから旅館へと歩く。これから、俺の手で罪人どもの首を刎ねる事になる。そのために、身を清める必要がある。そして、その光景をミーアたちが見ることになるかもしれない。


「はぁ、彼女たちには見せたくないな」


 そんなことを呟きながら、重い足取りで旅館へと向かうのだった。



Side ガーランド



 罪人のアジトは飾りっけなどない、ただの洞窟になっている。現在、私ことガーランドは、地下第一階層の中央広場にて第一部隊からの報告を待っている。第二部隊はそのまま地下第二階層へと潜入し、罪人どもの無力化を行なわせている。では、私は何をしているのかと言うと、先ほどから天井に貼り付けになっている罪人が目覚めないように見張っている。


『こちら、第一部隊。地下第一階層、鎮圧完了。これより、罪人を其方へと連れて参ります』


 耳に着けているイヤーフック型ヘッドセットのイヤホン無線から、第一部隊の部下から報告を受けた。その後、部下たちが五名の罪人を担いで運んで来ると、手際よく鋼鉄製の縄で縛り上げていく。現在、アジトの外を警備していた二名と、この地下第一階層にいた十数名の罪人に対して、音を立てることもなく意識を狩り取り、地下第一階層は安全になった。正直に言って『手応えがなさすぎる』せいか、戦っている気分にならない。隠密で行動しているからと言うのもあるが、もう少し抵抗してもらいたいような気にもなる。だが、隠密という訳もあり、今は無意味な戦闘は避けるべきだろう。


『こちら、第二部隊。地下第二階層、鎮圧完了しました。地下第二階層にいた罪人五名を捕獲しました。ですが、地下三階層に通じる道が二つ発見し、今後の行動に支障が出る模様。どう致しましょうか』


 イヤホンから部下の報告を聞き、どう動くべきか悩んでしまった。第一部隊と第二部隊で分かれて行動すると言うことは、つまり戦力を分散されると言うことだ。もしや、これが目的に作られている可能性がある。片方の通路には、大量のトラップが配置している可能性も考えられる。そう考えると今は分散させるのは、危険ではないだろうか。だが、このまま第二階層へと罪人どもが上がって来て、この現状を目撃し異変に気がつかれるのも困る。ここはボルト様からの指示を待つべきだろうが、そんなことを考えている暇などあるはずがない。だが、ここはボルト様に伝えることにした。


「こちら、ガーランド。私の指示があるまで、待機だ。こちら、ガーランド。ボルト様、報告があります」


『どうした、ガーランド』


「現在、第二部隊から『地下第二階層にて、地下第三階層へと続く二つの階段を発見した』と報告がありました。私としては二手に部隊を分け、地下第三階層へと向かうべきか悩んでおります。ここは、部隊を分けるべきでしょうか? 指示をお願い致します」


 話を聞いてからボルト様が誰かと相談する声が聞こえた。どうやら相談している相手はシータ様のようで、会話のところどころで竜仙様の「勘弁してくれぇ」と言う声が聞こえた気がした。約五十秒が経過したところで話がまとまったらしく、ボルト様が次の指示を伝える。


『ふむ、解かった。リミッターを二段階まで解放することを許可する。その後、第一部隊と第二部隊は分かれて行動をしてくれ。ジャック、聞こえているか? お前の部隊も同様に第二階層に着き次第、部隊を二つに分けて行動してくれ』


『御意。では、これより第三、第四部隊突入します』


「御意。では、我々はこのまま地下第三階層へ向かいます」


 私は背後にいる部下たちに手で合図を送り、地下第三階層へと向かおうとしたのだが、ボルト様から急に「ちょっと待ってくれ」と言われ通信を切らずその場で立ち止まる。何事かと思ったらしく、部下たちもヘッドホンを手で押さえながらボルト様の指示を聞く。


『地下第三階層の道が二つあると言ったな。片方の階段の先で冒険者たちが囚われている可能性もある。地下第二階層階段前で、ジャック達が来るまで待機して欲しい。ジャックの気配察知能力については、ガーランドも理解しているな』


「えぇ。彼の気配察知能力があれば、確かに下の階層にいる者たちの人数は分かるかと。了解しました。第一、第二部隊は地下第二階層にてジャック部隊と合流後、地下三階層へと突入します」


『了解した。健闘を祈る』


 ボルト様からの通信が切れ、すぐに第二部隊へ「第一部隊が到着するまで、気配を消しつつその場で待機」と指示をだし、背後にいる部下たちの方へと体を向けた。そこでは、罪人を鋼鉄製の縄で縛りあげている姿がそこにあった。当然だが、頭を麻袋で覆い隠してから口元を鋼鉄製の縄で縛り上げている。そして、絶対に身動きができないように、我が部隊恒例となっている天井に貼り付けしている。取り敢えず、天井に打ち付け終えたようなので、そのまま第二部隊の待つ地下第二階層へと急ぐ。

 地下第二階層へと到着し、階段を下りた次の部屋に入ると第二部隊が整列して待っていた。どうやら、地下三階層から上がって来た罪人を無力化したのか、報告を受けていた罪人は五名だったはずだが、天井に貼り付けにさられた罪人は十名に増えていた。何とも言えない光景だが、今回の任務は「罪人どもを、生きたまま連れて帰れ」とのこと。ならば、生かしておかなくてはならない。面倒ではあるが、何とかなるだろう。


「ガーランド隊長。第二部隊が待つ場所へと、案内いたします」


 第二部隊のゴブリンが敬礼をする。その姿を見て黙って頷くと、敬礼を解き地下第三階層へと案内を開始する。第二部隊が発見したと言う地下第三階層へと続く階段のあるフロアへと向かう。フロア自体はとても広く、第一陣である我々でも問題なく全員入れるほどの大きさである。また、地下へと続く階段が左右に分かれており、第二部隊が警戒しながら壁越しで地下第三階層の覗き警戒をしていた。本来ならばこのまま下の階層へと向かっても良いのだが、ボルト様からの指示に従いジャックの部隊が来るのを待つ。

 しばらくすると、ジャックたち第三、第四部隊が同じフロアへと到着する。ジャックはボルト様からの指示を聞いていたらしく、すぐに私のもとに近づくと「気配察知を開始する」と伝え、その場で座禅を始めた。蒼色のオーラがジャックを包むと、このフロアに鈴虫の鳴き声がなる。澄んだ綺麗な音がフロアを包むなか、ジャックは私へ呟くように伝える。


「左階段の方が人間の気配が多い。数は二十から三十人くらいだが、一箇所に密集してはいない。各自バラバラに行動しているようだが、此方には気づいていないようだ。右階段の方は、人間が密集しているな。数は左階段と同じなのだが、二人ほど密集している場所から離れているな。二人のうち一人が左右をフラフラと歩いている。これは、右側に冒険者たちが囚われている可能性があるな。それに、フラフラと動いている奴は、罪人どもの中でも強者の分類に入りそうだ。どうやら、このアジトは『地下第三階層』までのようだ。右側はガーランド好みだと思うが、どうする?」


 気配察知を終えたので座禅を解きつつ立ち上がるジャックを見て、両腕を組み先程のジャックの発言について考える。確かに、右側の階段を下りた先にいる者については気にはなる。だが、ここで私の欲望を叶えるためだけに部下を連れて行くべきなのだろうか。我々の部隊は、私を含めて四十二人だ。ならば、私の部隊の半分をジャックに渡し、左側の罪人どもの相手を任せるべきだろうか。だが、人数的にも私が左側を請負い、ジャックに右側を任せるべきではないだろうか。しかし、こんなことで時間を無駄にすることが勿体無い。ここは、ジャックの誘いに乗るとしよう。


「ふむ、解かった。では、私は右の階段に行くとしよう。その代わり、人数が人数だ。私の第二部隊を連れていけ。第一部隊は私について来い!! ここからは、時間との勝負だ。さぁ、大人の時間を楽しむとしよう」


「フフフ。お前が「大人の時間」と言うと、なんだか寒気が走るな。ボルト様には俺から伝えておくから、好きなだけ暴れて構わんぞ?」


 何やら楽しそうに微笑むジャックを横目で見つつ、私は部下たちにジャックに従うように指示を出してから右側の階段へと歩き出す。第二から第四部隊の部下たちが私に向けて敬礼をする中、右側の階段を下りた先にいる強者との戦いに心躍らせていた。このアジトにいる罪人の中でも強い罪人となれば、制限をかけられている私と互角の勝負ができるはずである。つまり、私を楽しませてくれる存在がこの下にいると言うわけだ。階段の前で立ち止まり、ゆっくりと深呼吸をする。


「では、行ってくる。旦那様の件も含めて、後は任せるぞ」


「あぁ、任せておけ」


 そのまま第一部隊を連れて右側の階段の先へと走り出す。階段を下りる足音を立てることなく駆け下りるなか、下の階から何やら悲鳴やうめき声が聞こえた。乾いたムチで誰かを叩いているような音が聞こえ、これは急がなければならないと心が焦る。間違いなく、この先に囚われた者たちがいる。部下たちに手で急ぐように指示を出し、私は足に力をいれ地下三階層の広場へと向けて加速した。

 階段を下りてフロアに着くと、そこには檻の中に囚われた冒険者たちの姿が合った。私の姿を見て怯えているのだが、そんなことを気にするはずもなく部下たちに「もう一人の者を助けに行く」と手話で伝えフロアの周りを見渡した。畳十畳ほどの広さで、フロアの奥半分は檻で仕切られ、冒険者は集落の者たちが檻の中で囚われている。そしてフロアの左側には鉄製の扉があり、そこからムチの音が聞こえる。部下たちが彼らの状態を見て、すぐに檻の方へと駆け寄ると「我々は、シャトゥルートゥ集落から君たちを救いに来た者だ」と伝え、彼らに事情説明を始めるのを確認してから鉄扉の方へと歩き出す。


「ぁ、あの!! そこの燕尾服のゴブリンさん」


 鉄扉の前で立ち止まり何事かと思い、檻の方から声が聞こえたので振り返ると、一人のワンピースを着た少女が私へと手を振っていた。ムチで叩かれたのか、ワンピースから見える素肌には青い痣が付いており、ワンピースも所々が土で汚れていた。それに、よく見れば、少女たちの足には鉄球のついた鎖が付いている。


「お姉ちゃんを、助けて!!」


「お姉さん? 貴方のお姉さんがこの先にいるのかい?」


「うん!! 私を助けるために、わざと捕まって――」


 今にも泣き出しそうな声で、必死に私へ伝えようとする少女。その姿が今は亡き私の娘に似ているせいもあるだろう、私の堪忍袋を完全に切らすにはちょうど良い刺激だった。その刺激のおかげなのか気がつけば、先程まで見ていた景色が変わっていた。どうやら身長が伸びたようで、檻の中にいた者達を見上げていたのだが、気がつけば見下ろしている状態だった。本来の私の身長は百七十センチあり、その身長なら間違いなく見下ろすような形で彼らを見る事になる。それにゴブリンだった頃の細い腕が、人間だった頃の研ぎ澄まされた筋肉に戻っていたのだ。つまり、どうやら私は『怒り』によって、呪いが解けかけているのかもしれない。服の方は、体の成長に合わせてか成人用の大きさに戻っていた。


「ご、ごご、ゴブリンさん!?」


 少女は驚きのあまり空いた口が塞がらないようだった。だが、あえて気にする必要もない。私は、少女の願いを叶えるために行動に移すのみだ。


「お嬢さん。貴方の願いを叶えましょう。この、筋肉に誓って」


 サイドチェスト決めた瞬間、私の体を覆う力が跳ね上がる感覚に襲われた。本当に呪いが解けかけているようだが、ゴブリンから元の姿へと戻るまでまだ時間がかかるようだ。それにポーズをした瞬間、私の着ている燕尾服の上着のみが完全に破れた。どうやら、私の筋肉に耐えられなかったようだ。これは新しい服を用意するべきだが、このまま破れた服を着るわけには行かない。


「上着が邪魔だな。ふん!!」


 自分の着ている破れた上着を引きちぎりその場から投げ捨て、拳をその場で鳴らし軽く首を回した。一時的にとは言え、元の姿に戻りかけているせいで私の力がまだ上手く制御できていない。だが、この扉の先で待つ少女の姉を救う為にも、そのような弱音を吐くことは許されない。右手の拳を強く握り、ゆっくりと右腕を引いていく。ジャックからの指示を待つはずもなく、鋼鉄の扉に向けて振り下ろす。それは轟音と共に、扉を、壁を、地面を完全に爆散させた。その衝撃の凄まじさに、檻の中にいた者たち全員が悲鳴をあげる。だが、私は止まらない。粉々に砕けた土壁のせいで、土埃が部屋を待っている。埃が晴れるのを待つ中、無線からジャックの声が聞こえ耳を傾ける。


『こちら、ジャック。無事、罪人どもの確保完了と資料の回収を終えた。あと、やりすぎだ。此方の方まで衝撃が来たぞ。被害はないが、あまり激しく暴れるな』


「こちら、ガーランド。すまない、少々やりすぎた。囚われた者たちの確保は終わったが、救出せねばならない方がいるようでな。これより、罪人に対し体罰を執行する」


『了解した。捉えた罪人どもに対しては、部下たちにシャトゥルートゥ集落に配置された牢屋に入れておくように伝えてある。今から、私と第二部隊で其方へと向かう。あまり、無茶をするなよ』


 ジャックからの通信が切れた瞬間、目の前の視界を覆っていた土埃が晴れた。その先には、ムチを持った全身黒ずくめの者と土壁に取り付けた鎖の手錠を両手首に付けられた、ボロボロの女性が頭を垂れながら地面に座っていた。彼女の着ているシャツとズボンは、黒ずくめの者が右手に持つムチで叩かれたせいでズタボロになっていた。そして、その黒の者は此方へと振り返る。全身を黒服で揃え、目元と髪の毛以外を隠すように黒いスカーフで鼻まで隠している。だが、これだけは解かる。目の前の彼が男性であり、私に対して『恐怖』をしている。彼の目には、動揺しているのか忙しなく動き、右手に持つムチが体の震えで揺れている。まぁ、誰だって『今の私』を見れば震え上がるだろう。なんせ、ゴブリンがマッチョになり、オークと変わらない身長にまで伸びているのだ。


「貴様は、何者だ」


 彼で最後なのだろう。私は罪人である彼を見ながら、何か違和感があった。彼は、人間なのだろうか。何故か、彼から魔物と同様の気配を感じたのだ。だが、今は少女の願いを叶えるために、御館様の仕事を終わらせるために、私は彼へと告げた。


「私か。私は、貴様を倒す者だ。さて、罪人よ――」


 ゆっくりと両手を広げ、不敵な笑みを相手へ向ける。私の声が聞こえたのだろうか、鎖に繋げられた女性がゆっくりと顔を上げる。その目は、生きる希望をまだ捨てていないのだろう、微かだが炎が灯ったような気がする。なら、心配する必要はないだろう。彼へと目を向け、私は死刑宣告を告げる。


「お仕置きの時間だ」




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