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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
13/90

12話 二人の子ども

何とか書き終えました。

もう少し、各ペースが上がればいいなぁ(汗


では、次話で会いましょう ノシ


2016年6月9日(木):誤字修正しました。

「なるほど。これは、面倒だ」


 現在、錬成所の三階にて隊長達からの手紙を読んでいた。今、手が空いた事で急いで手紙を取り出して内容を確認していた。ただ機密文書のため、ボルトたちには旅館へと戻るように指示を出した。その為、今は俺以外に誰もいない。まぁ、この部屋だけを世界から隔離するように力を使用したので、誰にも知られることはない。

 ちなみに、ボルトたちは竜仙と合流した後に、ホムホムの着替えや教育などをするように指示を出している。また、ボルトには「今夜、話し合いがしたい」と伝えている。まだ、ダンジョンの作成について話し合いができていないので、今夜あたりにでも話し合う予定だ。

 また、ホムホムは精錬から間もないため衣服などを着ているはずもなく、全裸のまま外へ出すわけにもいかず急いで服を作ることになった。俺が保管していた『蛇竜の翼膜』と、作業台に置かれていた『ドラゴンの爪と牙』に、最後にダンジョンで手に入れた『時刻みの結晶』を用いて、錬金釜に入れて精錬した結果、なんと『蛇竜のローブ』を作り出すことに成功した。ちなみに、時刻みの結晶とは『錬金釜での作成時間を短縮』させる効果があり、本来なら二時間はかかるのだが、この結晶を入れたことで「三分」で完成させられた。さて、蛇竜のローブの見た目だが『緑の生地に黒い斑点模様がついたローブ』である。ちなみに、今回は『使用者に応じてローブのサイズが変わる』と言う効果を付与させたので、ホムホムでも問題なく着ることができる。取り敢えず、出来上がったローブを着せてから旅館へと向かわせたわけだ。


「今回の仕事は、骨が折れるかもしれないな」


 改めて副隊長からの手紙の内容を読み終え、今後の方針を改めなくてはならない状況へと追い込まれた。何故かと言うと、この手紙の内容が関係している。


『五十鈴、久しぶりだな。

 この手紙を読んでいると言う事は、旅人の仕事を開始したと言うことだろう。まずは、休暇だったお前を駆り出すことになったのを詫びる。すまなかった。

 今回の依頼については「お前が適任」だと判断した。お前に報告しなくてはならない事がある。現在、お前がいる世界は『終焉の始まり』の被害を受けた最初の世界だ。そのせいもあり、お前が介入した時に『起源の揺らぎ』を検知した。その事で、何か異常が発生している可能性があると判断された。また、他の世界にも影響を与えている可能性も考慮され、国王からの勅命で全部隊が調査を行なっている。なので、五十鈴には悪いが、他世界に異常が発生していないか確認をしている間は、狂い神の件は一時中断してもらいたい。かなり多くの世界を調査しなくてはならないのでな、早くても四年までには終わらせる。それまでは待機してくれ。問題がないことが解かり次第、手紙か電話で報告する。お前の検討を祈っているぞ。

 以上』


 副隊長からの手紙をもう一度読み直し、何故『緊急』の印を押さなかったのかを考える。これはどう見ても『重要書類』であり、早急に計画の練り直しをしなくてはならない案件だ。それに、まさか『起源の揺らぎ』が発生しているのであれば、確実に部下たちに伝えなくてはならない。何故なら、起源の揺らぎとは『狂い神の吐息』を意味しており、何年――いや、何ヶ月かは解らないが、この世界に封印された狂い神が完全に復活することを意味するからだ。こうなると、竜仙とシータ、ボルトとベラーダでの会議が必要だ。他の六神将を招集したいが、副隊長からの手紙に書かれていた調査に駆り出されている筈だ。ならば、今いる部下を集めて会議をする必要がある。


「さて、許可書は孤児奴隷を連れて行く許可が書かれていたが――これについて、どうしろと」


 副隊長の手紙を作業台に置き、隊長からの許可書の入っていた封筒を取り出した。そこには、許可書の他にもう一通の手紙が入っていた。それが、俺の頭を悩ませる原因の二つ目なのだ。なんせ、ここに書かれているのは『妻について』の事が書かれているのだ。


『よう、五十鈴。例の「十人以上妻を作れ」という件だが、お前が介入している世界の女神三人がお前さんの妻になるそうだ。それでだが、その世界の管理を辞退する事になった。お前の妻になる女神の名前は、以下のとおりだ

 【愛の女神 アリア ・ ダンジョンの女神 メルト ・ 勉学の女神 イリス】

 まぁ、そんなわけで、晴れて国王からの依頼は終わりだ。だが、別に妻を作っても良いからな。お前の身体に植え付けられた『竜の因子』を抑えるためには、最低でも十五人は必要だと思っている。まぁ、お前のことだから『これ以上、妻を作りたくはない』とか言うだろうが、気がつけば増えているだろうから諦めて頑張りなぁ』


「隊長――こう言う内容を手紙にして報告しないでください!! てか、女神三人!! この世界の管理を辞めるとか、ふざけんなぁぁぁあああ!! それに、隊長は未来予知したんかぁぁぁああああ」


 久しぶりに本気で叫んでしまった。あの駄女神たちが急に『俺の嫁になった』のかが疑問だが、俺の予想だと確実に嬢ちゃんが関係しているだろう。それに、隊長の奥さんか息子参加は知らないが、未来予知をして妻が増えていくと書かれている。俺は、これ以上妻を増やしたくないのだが、確実に増えるようだ。そう考えると、頭がすごく痛くなる。だが、もう過ぎたことをクヨクヨしても仕方がないことだ。もう諦めて、この世界の神事情がどうなったのかを確認する必要がある。本当に面倒くさいのだが、嬢ちゃんに連絡して確認しないといけない。


「って、今気づいたが、メルトさんとイリスさんって女神さん同じ名前だったのか。そう言えば、よく生まれた子に信仰している神の名を付けると聞いたことがある。そうなると、彼女たちの両親はダンジョンと勉学の女神を信仰していたのだろうか」


 つい真面目に考えてしまったが、今はそこまで考える必要もないだろうと頭を切り替える。今は、今後の事を考えなければならない。四年も立ち往生しなければならないのが、正直に言って痛手である。早く回収するに越したことはないのだが、まさか俺が介入したことで他世界に悪影響を及ぼしてしまった。そうなると、どうしても動くわけにはいかない。それに、手紙の内容の続きがあるようだ。


『後、もう一つ報告がある。

アリアさんから聞いた話だが、お前が介入している世界にとって『ダンジョンの女神』は、かなり重要なポジションの役職らしい。なので、その代用として他の神にダンジョンの件を任せることにした。名前は「夢の女神 アーシェ」と言う女神で、うちの息子が熱心に教えているから問題はない。それに、他の神々もかなり反省しているらしくてな。異世界人の転生や召喚についての試験を受けている男神もいる。まぁ、仕返しなんて考える奴はいないだろうが、間違えてもやりすぎるなよ? お前の力は、下手をすれば魂をも砕いてしまう程の危険なものだ。力に飲み込まれて、悪さなんかするんじゃないぞ。まぁ、お前のことだから、そんな事は絶対に有り得ないだろうがな。

 さて、最後にだが。この手紙が届いている頃には、その世界の神々が帰還している頃だろう。問題は起こらないと思うが、お前さんが神々と悪魔どもを纏めて断罪したおかげで、なんらかの影響はあると思うが、後は任せた。

 以上』


「あぁ、本当に面倒なことになった。四年もこの場に留まる事になろうとは、予定がかなり遅れてしまう。だが、現状を考えても他世界が受けた影響についての調査は必要不可欠だ。そうなれば、四年間はここに留まらなければならないことも納得せざるを得ない。しかしながら、介入した瞬間に起源の揺らぎが起きた。これは、早急に部下たちを退去させなければならない。しかし、現状を考えればまだ帰すことはできない。だが、部下の危険を最小限に防ぐのも上司の役目だが――あぁ、どうしろって言うんだ!! はぁ、会合を開くか」


 その場で指を鳴らし、隊長たちの手紙をその場から消した。まぁ、簡単に言えば「収納指輪に戻した」だけなのだがな。さて、手紙が完全にこの場から消えたのを確認してから、イリスさんたちが作った粉を試験管の中に入れた。ラベルの方も作り貼り付けてから試験管立てに入れ、棚に置いてから器具類を片付けていく。ドラゴンの素材を棚に置いておくのもどうかと思い、どうしたものかと悩みながら部屋を探索すると、保管倉庫と言う看板が付けられたドアを見つけた。そこに入ると、この世界で回収したモンスターの素材が保管されていた。空調設備もしっかりしており、保管には適した部屋であった。取り敢えず、ドラゴンの素材や棚に置いた試験管立てを保管庫に移してから、壁にかけられている鍵を取り、保管庫のドアを閉めてから鍵をかけた。


(素材の貯蔵もしっかりしているな。この鍵は、魔石を加工して作られているようだな。もし紛失した場合、どうなるのか試してみるか)


 念の為に鍵が紛失した際のことを考え、波動を使用して同じ形の鍵を創り出し固定化させた状態でドアについている鍵穴に差し込んだが、まったく鍵が回らなかった。なので、鍵を引き抜いてから波動で作り上げた鍵を消し、本物の鍵を差し込み回してみるとすんなりと回りドアが開いた。もう一度鍵を閉めてから、コートの内右ポケットにしまった。どうやら、複製では開かないようになっているようだ。確認を終えてから一度周りを見渡し、部屋に置いてある掃除箱から箒を取り出して掃除を行なう。人が歩けばゴミが運ばれると言うように、この部屋の掃除はちゃんと行なわないといけない。ホコリなどのせいで、実験が失敗などもありえるので、なるべく隅々まで綺麗に掃除をした。


「これで終わりだな。さて、どうしたホムホム。ボルトたちと一緒に着替えに行ったのではないか?」


 掃除を終えたので箒を掃除箱に戻していると、背後からホムホムの気配を感じたので振り返ることなく言うと、嬉しそうな笑い声が聞こえた。


「やっぱり、バレたホムか。流石は、パパホム!! やっぱり、凄いホム」


 背後を振り返ると、そこには満面の笑みで飛び跳ねるホムホムが居た。服はボルトのお下がりなのだろう「白のワイシャツ」を着ており、第二ボタンまで開けられたワイシャツの下から見えている『無限大を意味する記号』の形をしたネックレスを首から下げていた。下のズボンは『漆黒の長ズボン』を履いている。確か、あれは「黒龍の翼膜」を使って作られたズボンだった気がする。それに、ズボンと同じ黒色のシューズを履いていた。こう見ると、幼少期のボルトが目の前にいるようで何故か微笑ましく思える。それに、ちゃんと俺が作ったローブを羽織っている。


「まぁ、なんとなく感じ取っただけさ。それで、どうした? ボルトたちと一緒じゃないのか?」


「パパを迎えに来たホム。あと、話したいことがあって――」


 その場で俯きながら上目遣いで見つめるホムホムに、あまりの可愛さからつい頭を撫でていた。その時、俺はホムホムの『異常』に気がついた。頭を撫でているから気がついたのだが、ホムホムの所持している魔力量が異常なまでに高いのだ。この魔力量は、俺たち旅人以外の存在が持てば肉体が耐え切れず、一瞬にして爆発し肉体もろとも消滅するレベルだ。それなのに形を保ち続けているホムホム対し驚きを隠せなかった。これは、ちゃんと教育をしないと『二次災害』を作り出す可能性がある。それに、このレベルはシータでなければ指導が不可能だ。適した場所でちゃんとした教育をする必要がある。この際だ、ミーアと一緒に学ばせることにしよう。


「ん? パパ、どうしたホム?」


「ん? あぁ、ちょっと考え事をしていた。でも、まさかホムホムが迎えに来るとは思わなかったな。ボルトはどうしたんだ?」


「ボルト兄さんは、竜仙様やギルド長、それに商人さんとの話し合い中ホムよ。集落に必要な建物や、奴隷さんたちの今後の扱いについて話し合いをしているホム」


 どうやら、先に集落についての情報整理を始めたようだ。俺がいなくても問題はなさそうだし、今後の事を考えても集落の防衛は完璧にしておきたい。なので、集落の建築や奴隷の件については竜仙に任せ、防衛については俺が請け負うことにしよう。取り敢えず、ロマンを追求して「ホバーリング機能」と「人工知能」を搭載した三体のゴーレムでも作ってみるか。そんな事を考えていると、ホムホムは嬉しそうに微笑みながらジッと俺を見つめている。


「――、ふむ。よし、今後のことは後で考えるとしよう。さて、ホムホムが迎えに来てくれたわけだし、さっさとボルトのもとへと行くとしようか」


「ホム!!」


 撫でる手を離し、ホムホムの左手を優しく握りながら、錬成所から出ることにした。階段を下りていると、二階のフロアから複数名の声が聞こえたので目だけを向けてみた。すると、先ほど一階のフロアにいた奴隷たちの姿があった。皆が生き生きとした目をしており、これからの仕事に対してのやる気を感じられた。


(我が部下に何を仕込まれたのやら。やる気になっただけでも、良しとするか。ところで、仁は派遣奴隷と、竜仙は労働奴隷と言っていたが、正式には何奴隷なのだろうか? まぁ、それについては商人に尋ねるとしよう)


 此方に気がついた奴隷たちが、俺に対してお辞儀をするのを見て軽く手を振った。その後、俺とホムホムが錬成所から出ると、複雑な表情で集落を見て回っていたミーアの姿が目に入った。今まで住んでいた集落の原型が無くなり、新しく生まれ変わろうとしている。生まれ育った集落の生まれ変わる光景を見れば、三者三様ではあるがミーアと同じような表情をするのではないだろうか。ミーアが気づくまで声をかけることはせず、今はその光景を見つめることしかできなかった。


「パパ。僕は、ミーアさんに伝えたんだ。何故、あのドラゴンがこの集落を襲ったのか。それは、復讐なんだ」


「ん? どういう事だ」


 ホムホムが真剣な表情をしながらミーアを見つめている。今思えば、ホムホムは二匹のドラゴンの脳を使用して作られた。そうなれば、記憶を完全にとは言わないが、引き継がれている可能性はある。ホムホムが語尾に「ホム」をつけ忘れていることには触れず、ホムホムの持つ記憶について聞くことにした。


「実はね。あの二匹のドラゴンは夫婦だったの。彼らは繁殖能力が著しくなくてね、ようやく出来た『一つしかない大きな卵』を大事に育てたんだ。もうお互いに歳だった事から、もう卵を産むことはできなかった。だから、大切に温めながら育てていた。でもね、彼らが少し目を離した隙に一人の青年――うぅん、あれは盗賊だろうね。その盗賊が、自分たちが育てていた卵を持って行ったんだ。慌てた彼らは、必死になって盗賊を追ったんだ。でもね、その卵を――待ち伏せしていたもう一人の盗賊の手によって割られたんだ」


 そこまでの話を聞き、俺はあの時の事を思い出した。ミーアと出会ったあの日に確認した『あの記憶』について、こうして裏が取れたわけだ。つまり、集落から逃げていたあの男たちこそ、この集落を滅ぼすきっかけを作った「盗賊団」なのだ。ならば、俺がやるべきことはただ一つである。


「だからね。ミーアさんにすべてを話してから、僕はあのドラゴンの代わりに謝ったの。許してくれたとは思わないけど、でも彼らの代わりに謝るべきだと思ったから」


 申し訳なさそうな表情で微笑みながらミーアを見つめるホムホムの姿が、あの日見た被検体になった子ども達と重なり合う。もう忘却したはずの記憶を思い出すとは、本当に未練がましいと言うか何と言うか。やはり、まだ俺は過去のトラウマを克服できていないようだ。目の前でなんの抵抗もせず俺に『殺された子ども達』のとても悲しそうな笑みが、今も夢の中で何度も蘇り再生される。だから、忘れたい記憶を頭の隅に置いておき、ホムホムの頭を優しく撫でなる。


「なるほどな。ようやく、この集落に起きたことや、裁くべき罪人が何者なのか理解できた。そうなると、後は盗賊団を捕まえる必要があるか。だが、どこにいるのかも解かってないからなぁ」


 どうしたものかと考えながら、撫でる手を離してからミーアの元へと向かおうとした。だが、集落の門の方から発せられる大声により歩みを止まる。その声は切羽詰るような、焦っているような声だった。


「誰か!! 子どもが大怪我して倒れているぞ!! 医療士を急いで呼んで来てくれ!!」


 その言葉を聞き、俺たちは急いで出入り口がある門の方向へと走り出す。錬成所から門のある場所までの距離は直線上のため、それほど距離はないのですぐに着くことが出来た。門の周りには人だかりができており、白衣を着た者たちが患者のもとへと急いでいた。どうやら彼らが医療士のようで、彼らの到着に気付いた者が「医療士が来たぞ」と叫ぶと、すぐに医療士への道を開けて通っていった。


「患者はどこだ!!」


 彼らの後に続いて門の外に向かうと、そこには傷だらけになった二人の子どもが倒れていた。兄妹なのか解らないが、少年の方は体中がズタボロになっており、ところどころに切り傷や殴られた痕がある。少女の方には傷はないものの、かなり衰弱しているようで呼吸が乱れて大量の汗が流れており、顔色も蒼白になっている。その光景を見た医療士たちは、すぐに応急処置を行なっていく。少年の服装にはどこか見覚えがある。確か、ミーアと初めて会った時に映像で見た記憶がある。


「パパ、ちょっと話したい事があるホム。あまり人に聞かせたくないから、一緒に来て欲しいホム」


「ん? 解かった、なら旅館の方で話そうか」


 俺は二人を医療士に任せ、旅館の方へと向かうはずだった。だが、背後を振り返った瞬間、ミーアが立っており何故か険しい表情をして少年の方を睨みつけていた。どうやら、ミーアは少年の事を知っているようで、ホムホムへと目線だけを向けると此方へと歩いてきた。


「ホムホムさん、あの少年って」


「うん、間違いないと思う。でも、その前に彼らの手当をする必要がある。詳しい話は、旅館で話すよ。それに、彼らの手当は医療班に任せても問題はないはずだよ」


「うん、解かった。私としても、何故この集落を襲ったのか理由が知りたいから」


 また、語尾が抜けた状態で話している。真面目な話になると語尾を付け忘れるのだろう。ホムホムにその事を伝えようとしたのだが、医療士の方から何故か慌ただしく何かを叫んでいる。そのせいか、周りの人だかりがざわめき始めた。何があったのか解らないが、このまま旅館へと行くのは拙い気がした。この世界の医療がどこまで進んでいるのか疑問ではあるが、現状の対応についてかなり動揺しているようだ。まるで新人の医療士のようで、どう対処すれば良いのかまだ分かっていないらしい


「――、僕が行ってくる」


 医療士や人だかりのざわめきに不安に駆られたのか、ホムホムは傷だらけの患者のもとへと早歩きで向かって行く。ホムホムの姿を目で追っていると、急に左手のひらに何かが触れる感触を感じた。顔を向けると、気がつくとミーアが俺の手を握っていたのだが、何故か若干震えているのを感じ取れた。やはり不安なのだろう。少しでも不安を取り除くために、何も言わずミーアの手を優しく握り返した。ビックリしたのか耳と尻尾をピンと立たせたのだが、すぐに俺の方へと顔を向けると優しく微笑んだ。落ち着いたようで倒れている患者へと顔を向けると、ホムホムが二人の患者のもとへと近づいた。


「患者の様態は、どうだ」


「俺たちの魔法では、どうにも回復まではいかない!! 少女の方は極度の魔力不足と水分不足と疲労困憊と、少年の方は猛毒による抵抗力の低下と大量出血だ。回復アイテムを持っている奴がいれば、すぐにでも欲しいくらいだ!!」


 彼らの焦る声を聞き、人だかりの中から「ポーションはないか!!」や「ポーションがない、だと」などの声が聞こえる中、ホムホムは少年たちへと右手を向け「なら、コレだけあれば十分かな」と言って左手で指を鳴らした。すると、倒れている患者の身体が一mほど浮遊し、綺麗な黄緑色のオーラに包まれ始めた。少年の方は身体中の傷が徐々に消えていき、先ほどまで蒼白状態だった顔色にも色が戻っていく。その光景を見た者たち全員が、驚きの表情をしながらホムホムを見つめていた。それに対し、ホムホムは平然とした表情で患者である二人を見つめ、彼らの手当は問題ないと判断したらしく、指を鳴らし魔法を解除した。


「これで良いかな。取り敢えず、二人を旅館の方へと運んでくれないかな。」


「りょ、了解しました。ところで、貴方様は、どなた様で」


「僕かい? 僕は、パパ――いや、イスズ様たちに創られたホムンクルスだよ。イスズ様の血を用いて創られたから、イスズ様の息子だと思ってくれて構わないよ」


 ホムホムの言葉を聞いて、この場にいる全員が俺の方に顔を向けたのだが、何も言わずに黙って頷いた。その瞬間、この場にいるホムホムやミーア以外の者たちが「あぁ、なるほど」と何故か解らないが納得した表情で頷いた。何故、俺を見て頷くのだろうか。これでは「イスズさんの息子なら仕方がない」と言っているようで、なんだか複雑な気持ちになった。


「まぁ、良いか。取り敢えず、旅館の一室へ運んでくれ。あと、お前たちも仕事に戻りなさい。お前たちの住む宿舎については、完成していると報告を受けている。仕事が終わり次第、部下に案内させるので安心して仕事に努めてくれたまえ」


「「「はい」」」


「では、解散」


 その言葉を聞いて、全員がこの場から撤退していた。このまま患者たちを「お姫様抱っこ」や「おんぶ」するれば、一時的に治したとは言え体調の悪化もありえる。なので、俺は指を鳴らし、二台の「折りたたみ式ストレッチャー」を創り出した。その上に患者たちを乗せ、俺たちはこのまま旅館のある方向へと向かう。その間、ホムホムは何度か自身の力を確認するためか、指を鳴らして様々な武器や回復アイテムを入れる瓶などを創り出し、また指を鳴らして消すなどを繰り返していた。


「ホムホムさん、凄いですね」


「そうホムか? なんとなく武器の構造が分かったから、武器の生成ができたホムよ。でも、これほどの性能を作り出せるなんて、正直思わなかったけどね」


「そっか。ホムホムさんの能力って武器生成かな? でも、武器生成の他にもポーションとかも生成できたし、なんだろう? うぅん、やっぱり物質生成か何かなのかな? 謎が多すぎるけど、やっぱり気になるなぁ。やっぱり、分析したいなぁ。ホムホムさんの身体構造とか、調べてみたいなぁ」


 なにやらミーアのやる気スイッチが入ってしまったようだ。ホムホムの力について調査したいようで、目をすごく輝かせながらホムホムを見つめている。まぁ、しっかりと俺の手を握りながらなので、前方不注意による激突はありえないだろうが、やはり前をちゃんと見て歩いてもらいたい。そして、ホムホムは「ん? 僕もよく解からないホム。後で、分析魔法使って確認してみるホム?」と言って、満面の笑みでミーアに言っている。その言葉で火が付いたようで、ミーアは「ヘットバンク」と変わらない程の速さで何度も頷いた。


「ぅ、こ、ここ、ど、こ」


 背後から小さい声だが少年の声が聞こえ足を止めて振り返ると、ストレッチャーの上で寝ていた少年の目が開いていた。どうやら目が覚めたらしいが、まだ思うように身体が動かせないようで目だけを此方に向けていた。ここがどこなのか気になるらしく、俺は少年の前まで近づき言う。


「ここは、シャトゥルートゥ集落だ。まだ、安静にしてもらいたいのだが、念の為に聞く。何故、集落の門の前で傷だらけで倒れていたのか。そして、もう一人の少女は何者なのか。今は、前者の事を話してくれれば良い。君は、何者だ」


「ぼ、くは――」


 か細い声ではあるが、俺に伝えようと必死に声を出して言う。


「ジュ、デッ、カ。とう、ぞ――」


「それ以上は後で聞こう。今は、ゆっくり体を休めなさい」


 俺はそう言うと、彼の頭を優しく撫でながら考える。ジュデッカ、それは昔、とあるゲームで聞いたことがあった。確か、面白かったからそれについて調べた記憶がある。ジュデッカは神曲に記載されている地獄界『第九圏 裏切り者の地獄「コキュートス」と呼ばれる氷地獄』にあり、同心の四円に区切られており、その円の名前の一つが『ジュデッカ』だった気がする。確か、最も重い罪である『裏切を行なった者』が首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らしながら永遠に氷漬けとなる』とか。

 こういう事には少々興味があるため、俺は指を鳴らし時間を停止させてから『ある物』を取り出した。それは、俺がいつも愛用している黒色の電子辞書である。早速、ジュデッカについて調べてみると、意外にもちゃんと四つの円についても説明が書かれていた。


「第一の円カイーナは『肉親に対する裏切り者』で、肉親を裏切り実の弟を殺す兄の名が由来か。次に、第二の円アンテノーラは『祖国に対する裏切り者』か、ふむふむ。そして、第三の円トロメーア『客人に対する裏切り者』で、由来は祝宴(しゅくえん)に招いた者たちを殺害した長官の子の名が由来なのか、なるほどねぇ。そして、最後は第四の円ジュデッカ。なるほど『主人に対する裏切り者』か。本当に不吉な名だが、彼は盗賊団の主を裏切った。そして、ボロボロになってこの場所にやって来た。なるほど、確かにその名の通り、主人に対する裏切りだな」


 指を鳴らし辞書を消してから、時間停止を解いた。気持ちよさそうに目を細める少年を見つめながら、彼の体力が完全に回復してから質問攻めを始めるとしよう。それに、どうもこの少年よりも、隣のストレッチャーに横たわっている少女の方が気になるのだ。特に、彼女から発せられる歪な力。先ほどから、この世のすべてを歪め、食い殺そうとするような感情を俺に訴えてくる。間違いなく、この少女は俺が探そうとした一人なのかもしれない。誰にも聞こえないように、俺はとある一言を呟いた。


「狂い神の破片を受け継いだ者。この少女が、俺が探している『狂いし者』の一人か」


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