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会食ダブル

ヒューイ「ソラと上手くやっていけそう?」

スカラー「それはこの話を読めば分かる」

翌日。

時刻が十時を過ぎた頃、俺はティカに呼ばれて事務室にいた。

いつも通り扉の前で深呼吸をして、ひとりでティカと会う覚悟をして入ったのだが、そこにはソラもいて覚悟は水の泡になってしまった。


『揃いましたね。次の依頼です』


早速話題に入ったティカは、高級そうな漆塗りのデスクの上に散らばった資料のうち一枚の紙を俺に渡した。


『それが依頼内容です』


ソラが背伸びをして俺の手の中にある依頼書を覗きこもうとするので、手の位置を下げて見えるようにしてやる。


「依頼主……来栖……?」


聞いたことがない名前だ。ということは平民か。


『その人は帝都から来ました』


「は……?帝都……?」


そりゃあ、聞いたことがないわけだ。俺は別国に行ったことがない。知り合いもいない。


『有名な貿易商人の護衛です。その商人は(おおとり)といいますが、彼が王都に来ているので付いてきたようです』


「じゃあ、王都には長期滞在するんですか」


『いいえ、滞在するのは三日程度です』


「三日……?」


たったの三日。それくらいしかここにいないのに解決して欲しいことがあるのだろうか。すぐ帰ってしまうなら、王都で困ったことがあって依頼を出して成功してもあまり意味は無いような気がする。


不信感を覚えながら依頼内容に目を通す。

そこには、パーティ会場の警備と書かれていた。パーティの開催日は今日の午後七時。警備は六時には集まって欲しいらしい。


「パーティ?」


隣でソラが言う。何だか少しキラキラした顔をしているのは気のせいではないだろう。


「……お前は楽しめないぞ」


勘違いされてはいけないので言っておく。上級貴族だったなら、パーティにだって出たことはあるだろうし、チヤホヤもされたはずだ。


……というか、待て。

何故ここにソラがいる。


「ティカ、もしかしてこの依頼、俺はソラとペアを組むのか……?」


『そうですよ』


と、当たり前のように、何でもないように、むしろ今気づいたのかと呆れたように言われた。


「え、でもこいつ、」


使い物になるのか?!

依頼内容は会場の警備だ。何も事件が起こらなければそこにいるだけで金が貰える。けれど、もし戦闘になったら……。


「バカにするな。逃げることは出来る」


逃げるのか。しかもそこは威張るところではない。


俺はソラの視線から逃れるように依頼書へと目を戻した。


備考。当日は現場の警備にあたっている他の兵士リーダーの指示に従うこと。

なるほど、俺の他にも警備をしている兵士がいるらしい。リーダーも決まっているとなれば、複数いるのだろう。


「警備の人数が足りなかったってことですか」


『それもありますが、一番の理由は人を殺したことがある兵士がいないからです』


殺人の経験が無い兵士は珍しくない。むしろ当たり前だ。今では帝都との関係も平和で、兵士といっても給料泥棒になりかけている。一昔前には騎士団の制度が廃止された。

ちなみに、街の治安を守るのが今では兵士の主な仕事で、数年前に警察と合併した。


話を元に戻すと、今のティカの言葉では、まるで人を殺す必要がある依頼のように思えてならない。


『備考の続きを読んでください』


備考の続き。もし会場が何者かに襲撃されたら、捕獲するか顔が確認できる状態で殺して欲しい。


「この来栖は会場が襲撃されることを危惧している……」


『しかも、これまでにその何者かと接触があったと考えるべきです』


一度も接触したことがないなら、こんな危惧は浮かばないはず。例え心配症だったとしても、顔が確認できる状態で殺して欲しいとは頼んでこないはずだ。


「そこまで分かっていてソラを連れていくんですか?」


『指定されたのは二人でした。カヤを連れていくよりはいいでしょう』


神獣が暴れて会場が混乱するよりはマシか。


『あと、これは私からのお願いなのですが、スカラーのみ会場では名字を名乗ってください』


どうして急に。理由が想像出来なくて無意識に首をかしげた。しかし、それについての質問の間を与えずにティカが口を開く。


『依頼について他に何か質問はありますか?』


ティカが自ら説明しないで話を強引に進めるようなことをしたのだ。聞いても教えてくれないだろう。


「……ありません」


「オレも!」


俺に続いてソラが答える。

依頼についてティカが自分から説明しないことは聞く必要も無い。聞かされていないところは俺の独断に任せられることばかりなのだから。


『スカラーとソラへの依頼はそれで以上ですが……』


普段なら質問の有無を聞いて終わるのだが、ティカは少し困った顔で話を続けた。


『この会場には私も行きます』


「は……?」


『今回、二つの依頼が同時進行しています』


言いながら、デスクの上からもう一枚紙を拾いあげてひらひらとして見せた。ティカがそれに目を落として説明を始める。


『依頼主は鳳』


来栖が護衛している主人で有名な貿易商人か。


『依頼内容は、私のパーティへの参加です』


「……どうしてティカが誘われるんだ」


『私はここに住んでいる以上、一応上級貴族という括りなのです。貴方たちは使用人のようなものですね』


貴族でない人間は、貴族街には住めない。それまで住んでいても没落したら追い出される。


『鳳は、帝都から高値で取引される希少な鉱石を王都に持ち込み、それの披露パーティを主催しました。貴族の殆どが招待を受けています。私は断ったのですが……』


依頼として出されると断れない。


「そうまでしてティカに参加して欲しかったんでしょうか」


『その辺りは分かりません。私が行くので勿論護衛部も動きます』


「護衛部はヒューイだけですか」


『シンもです。いい機会なので』


「シンも行くのか?!」


またソラがちょっと嬉しそうにする。同じ依頼ではないし、作戦中に会えるとも限らないが。


『シルヴァも情報を取りたいそうなので参加することになっています。鳳にも許可を取りました』


シルヴァは元々平民で、こういうことには慣れていないはずだが大丈夫なのだろうか。


『では、解散にしましょうか』


ティカは最後に微笑んで話を終えた。

俺はソラを連れて事務室を出る。


「くれぐれも間違いの無いように」


という言霊を背に受けながら……。


次に俺がソラを連れて向かったのは、訓練所に備え付けられている武器庫と、そこと繋がっている倉庫だった。武器庫には練習用の武器から、自分の武器が使えない時の緊急用の武器まで様々な種類が揃えられている。倉庫には弾薬を始め、依頼に必要な小道具が集められていた。


「ソr……」


「おおお!すげー!」


武器庫の扉を開け、後ろにいたソラを振り返ろうとした時、ソラは物凄い勢いで俺の隣を走り抜け、武器の山を見て目を輝かせた。


…………、先行きが不安だ……。

俺はため息をつきながらソラの背中に声をかける。


「警備の仕事なら見える武器がいい。ナイフの他に武器を選べ」


「おう!」


「……一応言っとくけど、持てる重さのやつな」


「分かった!」


……心配だ。

俺はもう一回ため息をつき、ソラを追い抜いて倉庫に入った。

すぐ右手側の壁に接して並んでいる棚の中から、Aと書かれたものを引き開ける。そこには十二センチ掛ける十六センチで横長のタブレットが入っている。見ると、ニ台だけ持ち出されているようだった。


「……ヒューイとシルヴァか」


シルヴァが依頼の場所にいる時は決まってこれを持っていく。すぐにシルヴァから発信された現場にいる全員の位置情報や、地形、地図の情報が手に入るので動きやすくなるのだ。

しかし、シルヴァがいない時はほとんど役に立たない。何故なら、俺たちはマイクがあればどこにいても話せるが、離れた相手の状況を見ることは出来ないからだ。シルヴァは現場にいなければ、現場に関する情報をリアルタイムに更新出来ない。


タブレットを一台だけ取り出し、次にBと書かれた引き出しを開ける。そこには予備のマイクが入っている。俺たちには専用のマイクが支給されているが、ソラはまだ来たばかりなので代用品が必要だろう。


と、マイクを手に取った途端。


「お、重っ!」


という声とともに、金属の何かを落としたような音が響いた。

まさか、真剣を落としたんじゃ……!


「馬鹿……!」


俺は思わず声に出し、急いで武器庫へと引き返した。

石床に落ちている片手剣。うずくまっているソラ。


「ソラ! 大丈夫か……?!」


慌てて駆け寄ると、ソラがハッとした様子で顔を上げ、目が合う。……その目は武器の山を見た時と同じように輝いていた。


「すっごい! 本物ってこんな重いのか! これ扱えたらカッコイイよなあ……!」


「は……?」


「俺もいつか使えるようになるよな?!」


「あ、ああ……」


……心配して損した。

ソラが剣の扱いに苦戦する中、俺はソラ自体の扱いに苦労しそうだ。

とはいえ。


「それと同じ形で軽いのはこれだ」


床に落ちていた片手剣を元の場所に戻し、すぐ隣にあるやつを手渡してやる。次はソラでも軽々と持ち上げられた。


「おお……!」


「振り回すなよ」


やりかねないので言っておく。元々鞘に入っていたので、ソラの腰のベルトに固定するのを手伝い、外れないのを確認して次はマイクを手渡す。


「何だこれ?」


珍しそうにまじまじと見つめるソラに使い方の簡単な説明をする。

マイクは耳に装着するが、話したい相手の決定や、誰からの通信を受け取れるようにするかなどのほとんどの操作はそれと連動しているスイッチで行う。スイッチはマイクに接着していないので、人によってポケットに入れていたり服の襟部分に付けていたりと様々だ。


「そのマイクは電波を発生させる。それを取られると自分の位置情報が一瞬で相手に渡る。場合によっては話の内容を聞かれる可能性もある」


「じゃあ使わない方がいいのか?」


「相手が少数だとか、森に住んでる魔物ならいい。でも今回は極力使わない方が賢明だな。何かあったらすぐに誰からも通信を受け取らないように操作しろ」


シルヴァがいて、タブレットがあるならマイクを使わなくても大丈夫なはずだ。


「分かった」


あと、依頼前に説明しておくべきなのは……。


「……ここにいるのは、全員が異能者だ」


「スカラーが来る前にティカから聞いた」


「そうか。なら……」


相手にも異能者がいないとは限らない。そして、異能者についてはまだ分かっていないことが多いし、この間の魔法陣だって強力過ぎて誰にも扱えないと言われていたものだ。どんな異能があるのかも、今世界中に異能者が何人いるのかも分からない。


だから。


「剣が伸びないとは限らないし、弾丸が真っ直ぐ飛ぶとも限らない」


人間は、予想をはるかに上回る状況にすぐ対応出来ない。


「俺が緊急事態だって言ったら、俺の指示に従え」


依頼内容によると、俺たちは現場では兵士リーダーの指示に従わなければならないらしい。


「分かった」


――くれぐれも、間違いのないように


ティカの言霊は、俺の意識の隅に残り続けた。

間違いの内容が分からない中、間違いを犯せない。

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