爺による爆弾投下
サブタイトルはいつも適当につけてます。
ストックが無いので亀更新ですよ~。
死体が蘇った。
確かにこの世界にはゾンビやスケルトン、ゴーストといった死者から発生する魔物というものが存在する。
しかし、それはあくまで魔物であり、人間の敵と呼ばれる存在である。
今回のように死者が魔物にならず蘇るというケースは奇跡に近かった。
…お分かりだとは思うが、実際は本当に蘇ったわけではなく、源三郎の魂が団長の空の肉体に入り込んだだけなのだが。
そんなことを周囲に居た人間が知る由もなく、慌ただしく葬儀は中止され、源三郎の言葉も全て無視し、病院へと連行された。
白く殺風景な病室は源三郎の居た元の世界の病院とあまり変わらないようであった。
医者や看護師と思われる人物に体中を調べられ、ぐったりとしながら源三郎は固いベッドに横になっていた。
「先生…団長は大丈夫なんですか?」
騎士の出で立ちをした若い男が白衣に身を包んだ初老の男に話しかける。
「身体の方なら驚くほど問題はない。ただ…」
「ただ?」
白衣の男は言いにくそうに源三郎をちらりと見る。
暫くして決心したのか白衣の男は源三郎から視線を外し騎士に視線を戻して口を開いた。
「記憶がだな…無くなっているようだ」
空気が凍るというのは正しくこの事だろう。
騎士達の顔は驚くほど青ざめており、開いた口が塞がらないまま表情が固まっている。
心なしか病室の気温も下がったようである。
源三郎の近くに居た女騎士が源三郎の肩を強く掴んだ。
「団長!私の事が分かりますか!?」
そのまま強く源三郎の身体を揺さぶる。
揺れる身体に気分を悪くしながらも申し訳なさそうに源三郎は眉を歪める。
それがなにを意味しているのか理解した女騎士は強く握っていた源三郎の肩から手を離し、その場に糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
源三郎としてはこのまま記憶喪失として扱って貰うことが一番都合が良いと考えていた。
理由として上げられるのが、源三郎には周囲の人間との記憶などないということと源三郎が入り込んだ身体の元の持ち主が団長というそこそこ高い地位に就いているからだ。
源三郎はこの世界で自由気儘な生活を送りたい。
そのためには団長という地位が邪魔だと考えたのである。
団長だったのなら多少の貯えはあるはずだし、仕事内容の分からない源三郎が団長を続けたとしてもうまく行くとは思えなかった。
元の身体の持ち主がどのような性格だったか分からないが源三郎は基本的にめんどくさがり屋な性格であるため騎士のような規則の厳しい仕事に苦手意識を持っているのも原因だろう。
兎に角、団長という地位を捨て、のんびりライフを送るためには周囲の人間を騙して記憶喪失であるという設定を定着させる必要があった。
周囲の人間が絶望の表情を浮かべていたが今後のことを考えれば仕方のないことだし、彼等が求めているのは団長であって自分ではない。
因みに団長の魂はとっくにあの世に行っており、転生待ちで優雅に過ごしている。
関係のない話だが団長の来世は羊である。
まあ、そういう事なので団長が彼等の元に戻ってくるということはもう無い。
あるとしたら牧場でこんにちわか食卓のお肉だろう。
源三郎が団長の現在の状態を知る術は無いが、なんとなくもう居ないということは感じており、彼等の求めている団長でないことに少しの申し訳なさを感じたがそれだけであり、自分が団長の代わりになるという考えは一切起こらなかった。
源三郎は今後の生活のためにどんどん騎士達に爆弾を投下していくことにした。
申し訳ないと思っていても全く罪悪感というものは沸いて来ず、逆に今後の生活に思いを馳せて心が踊っているのを必死に隠す。
顔は申し訳ないような表情を保ったまま嬉しさで震える身体は端から見れば不安や恐怖で震えているように見えるのだから質が悪い。
「儂は団長という役職に就いていたようじゃが、記憶がない。だからの…引退しようと思うのだ」
その言葉を聞いた騎士達がぎょっと目を見開いた。
友人に「題名:源ちゃんが行く!とかでもよかったんじゃない?」と言われました。
書く前は主人公普通の高校生の予定だったから仕方ないのだよ。
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