08) 初めての魔法なのね。
「ところで、魔法陣はちゃんと使えてる?」
「あぁ、バッチリだ。全く解らんわ」
「ダメじゃん……」
「ダメだな」
という訳で、今回の小柄ちゃんの授業は魔法陣について……です。
小柄ちゃんはオイラのお供え物置き場から纏められた羊皮紙を手に取り、一枚一枚目を通す。
用途や効果は書き留めてあったが、使い方が解らなかったのを御教授頂けるようだ。
「それじゃ、演習場へいくのよっ!」
「あいあいさー!」
今回、演習場へのガタイ君タクシーは肩に担がれるという格好でした。
これは……マトモな運搬方法が見つかるか、オイラが諦めるかの勝負だな。
「それでは、キミのMP最大量は呪いによって期待できないレベルに落ち込んでいると思うけど、初級程度なら大丈夫なはず?」
「はず?一番大事なトコロが疑問形で括られてるぞ!?」
普段から疑問形で終わる話し方だけど、今の言い方は確実に不安が残る言い方だ。
「なので、簡単な炎の魔法から行きますね?」
「聞こえてないようだな?」
「このタイプは最初に範囲を、次に威力、最後に発動距離を指定するのよさ?」
小柄ちゃんは取り出した羊皮紙を広げ、魔法陣の周囲を指でなぞる。
基本的な三軸設定ということらしい。右回りに合計3回クルクルっと触れて羊皮紙を突き出す。
すると、轟音と共に10m程先で10mの高さの炎の渦が巻き上がり、周囲の人達から驚嘆の声も上がる。
オイラ的にもメジャーな魔法だが、その火炎は実際に見ると大興奮モノだった。
「さ、やってみて?」
「了解!」
小柄ちゃんがやっていた様に、右回りにクルクルっとなぞると……何も起きない。
「あれ……?」
「ちゃんとイメージしながらじゃないとだめよ?」
「なるほど、イメージか。」
「うん、妄想レベルのイメージでいくのよ?」
(妄想って、どれだけやねん)
まぁ、ツッコミは声に出さずに置いといて、イメージが重要なら問題無い。妄想してから寝る時代で育ったからな。
炎が吹き出る事をイメージして魔法陣の外側のラインをクルっとひと撫で。
一瞬目の前に星がチラついたが、無視して2周目。
ちょっと、クラっと来たが魔法が使える興奮で3周目。
……気付いたらベンチの上だった。
「ごめんね、大丈夫じゃなかったね?」
魔力切れを起こしたと言われた。魔力が切れると気を失うんだと。
そしてオイラは発生した炎の中に前のめりに突っ込んだと……
鼻血と火傷は近くの監視人が回復魔法で対応してくれ、事なきを得たと小柄ちゃんは話す。
ただし、髪の毛は少し焼けたようだ。これは回復出来ないらしい。
「いきなり炎がダメだったのかも?次は火の魔法でいこうね?」
「先生、教えるのに疑問を持たないで下さい。」
「はい、これ飲むのよさ?」
「あ、テンプレ的な小瓶だな。魔力回復薬か……」
「正解、見ただけで解るってすごいね?」
(この状況でソレ以外を渡すとは思わないんだが?)
小柄ちゃんに手渡された小瓶を見ると、怪しげな緑色の液体が入っている。傾けるてみると結構な粘度がある。
緑色は毒ってイメージがあるので躊躇っていると、飲んで?と催促される。
思い切って飲んでみると、ヤッパリ不味かった……草の味しかしねぇ。
結果、火の魔法の行使でもブッ倒れました。
教訓、魔法は座って発動させましょう。
「魔力はね、限界ギリギリまで使うとイイのよ?」
「限界ギリギリというか、枯渇して倒れたんですけど?」
それでもOKらしい。危ないのは意識を失って倒れてダメージを喰らうことくらいだそうだ。
たまーに、呼吸停止とか心停止とか起こるらしいが……要するに息の根が止まるってか。
(それでもOKとか言うレベルじゃねぇぇぇ!)
まぁ、筋肉と一緒で鍛えれば鍛えるほどチカラが付くそうだ。もちろん限界はあるようだが。
「とりあえず、気力のあるうちにバンバン鍛えようね?」
意外と小柄ちゃんはスパルタ方式が好みのようだ……
何度か気を失っているうちに、出力調整で加減ができるようになった。意識を手放す一歩手前で魔法を発動させる。
そして草の味のする飲み物で魔力回復、そして魔法発動を繰り返し。
「そういえば、他の魔法はどんなのがあるんだ?」
「あ、これしか持ってきてないよ?」
「そうスか」
戻ったら、調べてみるか。
などと思ってたら、大変なことになっていた。
身体が凄く重い、呪いの追加効果か!?
「大丈夫だよ?単純な疲労だからね?」
「そうか……だいぶ調子に乗ってたからなぁ」
「うんうん、このまま夕食まで横になるといいのよさ?」
なんて優しい小柄ちゃん、スパルタの後は優しい介護ですか。良い性格してるじゃないか。
「これで、大した抵抗もされずに心起きなく解呪スキル上げができるのよ?」
本当に良い性格してるじゃねぇか……