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勇者36番  作者: ハムリンゴ
第三幕:捨てられても、頑張ろうと思う件について。
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53) 新しいスキルを覚えたのね。

 奇術師マスターのハマールさんに勧められ、オイラは椅子に座った。

 もしかして、また悪戯じゃないかと思ったが何事も無く警戒は杞憂に終わってしまった。


「えっと……ゴメンなさいねぇ。」


 ハマールさんが手に持ったペンを振ると、オイラの頭の上で小さな旋風が巻き起こった。


「入口の事だけど、ほんとにゴメンネ。いつもの冷やかし連中かと思ったの。」

「あ、っと……いえいえ、オイラも注意不足でした。」


 頭の上の旋風が黒板消しの白粉を綺麗に飛ばしてくれたようだ。


「ところでナナシノ君、奇術師に就いたというのは本当?」

「はい、魔術による翻弄ってフレーズが気に入ったので決めました。」


「うんうん、意表を突く事で効果的な連携攻撃をしたり、回避したりする事を重点的に考えられてるのよねぇ。」


 ハマールさんは机に両肘を突き片方は顎に、残りの手はくるくると耳の上の髪を弄りながらオイラを見つめている。

 なんだか不信感を買っているようなので、オイラはフードと仮面を外した。なんだか失礼な気がするし。


「あら、意外ね。もっとワケあり感のある人かと思ったわ。」

「ワケありですよ?なので、目立たないように生きて行きたいんですよ。」


「それで、本当のトコロはどうなのよ?」

「本当のトコロ?」


「えぇ、最初の職に“奇術師”を選ぶ人は殆どが嫌々なのよねぇ。仕方がないと言えばしょうがないけどね。」

「仰る意味が全く解らないのですが?」


「それ、本気で言ってる?」

「解りませんよ、全く……もしかしてギルド入りを拒否されるんですか?」


「拒否なんてしないわ、寧ろ大歓迎よ。ただね、動機が見えないから心配なのよ?」

「動機って……さっきも言ったけど、目立たないように生きたいんですよ。」


「ただ、自主的にココへ来るなんて珍しい事なのよ。」

「何故に?」


 ハマールさん曰く、直接的な攻撃を行わなず撹乱させたり混乱を引き起こすだけという職業は人気が無いとの事。

 また、攻撃支援職としての扱いが強い為に命じられて就く……つまり隷属者が多いのだそうだ。

 さらに、戦闘以外でも大道芸としてのスキルも持ち合わせているので、これも職に溢れたワケありなヒトが就くらしい。


「また、隷属っすか……」

「あら、ナナシノ君も隷属なの?」


「違いますよ、オイラがよく使う魔法がそんな呼ばれ方してるんですよ。」

「あぁ、無属性魔法ね……その話はもう止めて、就業特典を刷り込もうっか?こっちに来てちょうだいな。」


 そう言ってハマールさんは棚に無造作に積まれた幾つものA4サイズの板の中から一枚をを選別して机の上にゴンと置いた。


「それじゃ、手を置いて下さいな。」

「この上に……ですか?」


「そうよ?あら……職に就くのは初めて?」

「はい。村から出てきたばかりなので、こういうのは初めてです。」


「あら?職無しだったんだ?村で就かなかったの?」

「ずっと放置されてましたからね、仕方無かったんですよ。」


 オイラがA4の板に手を置くと、ハマールさんが上から手を重ねてきた。

 ちょっと驚いたが、その間に板が暖かくなって手と板の隙間から白い光が漏れ出してきた。

 その光を見たオイラは召喚時の魔法陣を思い出して不安になったが、それも数秒で光が収まった。


「はい、完了です。就業特典が刷り込まれました。改めて、ようこそ奇術師ギルドへ。」

「え、ええ……宜しくお願いします。」


「そうそう、就業特典というのは各種職業に就いた時に与えられる能力向上の魔法みたいなものよ。」

「なるほど、魔術師なら“知性”が上がる等ですね。」


「そういうこと。ちなみにウチのギルドでは“体質”のみ向上するわ。」

「体が資本ってワケですね?」


「ナナシノ君……あなた本当に隷属じゃないの?」

「隷属じゃないですよ。確認します?」


 オイラはローブと籠手を外して両腕をハマールさんに見せた。

 腕には小柄ちゃんから貰った腕輪と、精霊契約の2本の刺青が施してあるだけだ。隷属の腕輪や首輪などが無い事を証明した。


「何もソコまでしなくても良いのに。変な気遣いをさせてしまったようね、ごめんなさい。」

「え?別に気にしていませんよ?誤解されたく無かっただけですし。」


「んじゃ、次はスキル習得よ。何かリクエストはある?」

「あ……イリュージョンってスキルでお願いします。」


「あら、面白い選択ね?どうしてそれを?」

「戦線離脱用ですよ、範囲外へ逃げる時に使えると思って。」


 イリュージョンは職の神殿で奇術師のスキルリストに載っていた。マジックショーであるような箱の中から脱出するアレだ。

 おそらく、テレポート系の魔法じゃないかと思っている。隠れて別の場所へ転移とか奇襲や離脱には使えるはず。


「えっと……戦闘中に使うスキルとしては、お薦め出来ないスキルよ?」

「やっぱり、壁の中にいる!とか……なっちゃうんですか?」


「ありえるわね。ぶっちゃけると小転移の魔法で使用条件が厳しいのよ。まず大気以外のモノ、とりわけ生物と重なると大惨事ね。」

「うわぁ……」


「転移先の物質との入れ替わりを無理矢理行う魔法なんだけどね、魔法抵抗力のあるモノだと融合か反転しちゃうのよ。」

「つまり、失敗すると一部が引っ付いたり、一部が元の場所に残ったりというワケですねっ!」


「それと、使用する魔力が多すぎるのも欠点ね。日に一回の戦闘ならともかく、ダンジョンに潜るには向いてないと思うよ。」

「そうなると、他のスキルで使えそうなのって、火吹き・煙幕・投擲・ラップ・暗器……くらいですかね。」


「どうする?希望のものが無いのならギルド退会の手続きをするけど?」

「ここに来たのも何かの縁だと思うので、スキルは“投擲”でお願いします。」


「あら、縁なんて老人っぽい言い方ね。気に入ったのでオマケして“暗器”も付けちゃおう!」

「いいんですか?」


「問題無し!これで活躍してもらえばギルドのイメージアップにもなりそうだしね!」


 そうやって、オイラは“投擲”と“暗器”のスキルを身につけた。

 投擲は、そのまんま投げるもので威力と命中度を上げるパッシブスキルだ。魔道具のミトンと相性が良いはず。

 暗器は、任意の場所で空間に穴を開けて中から武器などを取り出せるそうだ……“なんちゃらポケット”だな。それは込めた魔力で入る容量が変わるらしい。


 無事?スキルレベル“0”を習得したオイラは魔術師ギルドを後にして宿へと戻るのであった。

 もちろん、奇術師ギルドから出る際にはチャンと扉の上を指差呼称して、罠が無いことを確認した。後ろでハマールさんが大きな溜息をついていたが気にしない。

設定で躓いて足掻いて沈んで、やっと……

ペースは落ちそうですが、頑張ってみます~

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