51) 職に就いてみたのね。
“職の宣言”
何だか仰々しい響きを持っているが、単純に自分の就きたい職業を選択して宣言する事のようだ。
どんな職業でも、宣言さえしてしまえば成れる。そう、宣言するだけなら自由だ。
しかし、素質と実績が無ければ、ただの“自称なんたら”になってしまう。
例えるなら、魔法が使えない“魔法使い”や、計算が苦手な“商人”“政治家”など使えないヤツになる。
なので、無理して素質の無い職に就くと後々苦労するそうだ。
「で、ここが神殿なのか?」
「そうよ?何処をどう見ても神殿でしょ?」
オイラは神殿と言えば仰々しい雰囲気を醸し出すような風格のある建物を想像していたのだが……
どうみても、冒険者ギルドに毛が生えた程度にしか見えない。
違うトコロといえば、入口に飾られている“七五三縄”だ。神社か?
「まぁ、いい……深く考えたら負けた気がするわ。」
「何をブツブツ言ってるのよ?ほら、入るわよ。」
少々強引に手を引かれ、建物の中に入っていく。中も殆ど冒険者ギルドと同じだったりする。
受付や掲示板があり、看板を見なければ間違えそうだ。
「えっと、どうすりゃいいんだ?」
「冒険者の職なら1階よ。受付に行って相談もできるから行っておいでよ。」
む……何故かミューがお姉さん口調だぞ?一般知識で遅れを取った所為なのか?
まぁ、仕方ないといえばそれまでなのでオイラは受付へと進んだ。
「ようこそ、如何致しましょうか?」
「えっと、冒険者としての職に就きたいのですが、何とも要領が解らなくて……」
「承知致しました。では、先ず何の職業に就くと効率が良いのか判断して頂きますので、コチラのジョブプレートにて御確認下さい。」
ヤバイ、これは冒険者ギルドで発生したイベントと同じ状況になりそうだ……また取り囲まれて目立つ危険性がある。
「あ……えっと。ソレは冒険者ギルドで確認してきました。」
「そうですか、では続けますね。職業はお決まりでしょうか?」
“魔王”って、つい言ってみたくなった。
いい響きだよなぁ、オイラの適正に“勇者”は無かったが……魔王に就いても討伐されてしまうのはイヤだ。しかし、残念で仕方がないぞ。
「はい、魔法使いになれる様なので、それを。」
「承知しました。次は“魔法使い”としてのランクを簡単に御説明させて戴きます。」
魔法使いにはランクがあり、系統やレベルによって呼び方が変わるという事だ。
ただし、認識票や公になる表記は詳細な呼び名は出てこない。普通に魔法使いと表記されるだけのようだ。職の弱点を晒してしまうのを防ぐ為だという。
他の職業でも同様に一般名で表記される。
例外として“通り名”でバレてしまうんだけど、通り名で呼ばれるレベルというのはその弱点を克服しているケースが多いらしい。
結局、オイラは“奇術師”となった。魔術師ではなく、奇術師。
就いた理由は……説明文にあった“魔術による翻弄”の一点に尽きる。
攻撃云々よりも防御や回避するのではなく、“離脱系”のスキルを習得できるらしい。戦闘すら行わない、うん。
「承知致しました。奇術師として登録致しますので、認識票を預からせて頂きますね。」
「宜しくお願いします。」
オイラは認識票を受付嬢に手渡し、待つこと数分……
受付嬢がもうひとりの女性を連れて戻ってきた。
「少し、宜しいでしょうか?」
「あ、はい?いいですけど?」
見た感じ受付嬢の上役っぽいお姉さんに問われた。
「冒険者ギルドで、初期レベル上限について……何かお聞きになっていませんでしたか?」
「初期レベル?上限?」
「っく!丸投げかよアノ野郎……あ、失礼いたしました。暴言でした、申し訳ありません。」
「いえいえ、何か問題でもありました?」
もう慣れてしまいそうなトラブルの予感に、オイラは不安を感じた……
「大丈夫です、問題はありません。通常通りの対応で何とかしますので、もう暫くお待ち下さいませ。」
カウンターの向こうで受付嬢と上役のお姉さんが、あーでもないこーでもないとペンを走らせて何やら論議している。
また数分で納得したかのように、お互いに頷いて打ち合わせは終了したようだ。
「お待たせいたしました。」
「お疲れ様です。」
「結論から言いますと、特例として現職の上位職へ移行と副職が選択できるように致します。」
「さっき選んだばかりの職なのに、上位職ってなんです?」
「初期レベルについて最大値となった場合にもうひとつ職が選択できるようになります。それが“副職”となります。」
「はぁ、そうなんですか。」
「通常であれば、最大値に達した初期レベルは固定されて二次レベルの上昇に移行するのですが、貴方の場合は初期レベルが最大値を超えてしまっています。」
「その最大値を超えた場合、問題があるのでしょうか?」
「問題はありません。ただ前例が無かっただけの話です。それと、このレベル云々は職業選択の基準値としているだけなので、冒険者ギルドでは関与しなかったのかもしれませんね。」
それで、“丸投げ”と悪態をついたのね……
「続けて、上位職については、二次レベルが最大に達した時に就ける条件として設定しております。」
「それで上位職や副職など選択できるんですね。」
「ハイ、そうです。大雑把な計算となってしまいますが、恐らく二次レベル最大に相当する初期レベルと判断致しました。」
レベルが上がると色々能力値が上がるとか、ステータス調整が出来るのかと期待してたのに、ちょっとハズレたな。
「その選択は後回しでも良いですか?」
「えぇ、よく御考えになって決めて下さいませ。」
カウンターを後にすると、ミューがベンチに座っていた。どうやらオイラを待っていたようだ。
「ナナシノ、お疲れ様!」
「お、おう。待っててくれたのか?」
「うん、何の職業になったのか聞きたくて。」
首を少し傾けながら微笑む彼女に少しドキリとした。
「あぁ、そうだな。奇術師を選んだ。」
「え?魔術師じゃないの??」
「あぁ、魔法は魔道書で使うからね。奇術師で身を守る術を身につけたくて。」
「そっかぁ、私は“シーフ”にしたの。」
あら、シーフは日陰者って言ってたのに心境の変化でもあったのか?
「ナナシノの言うとおり、才能があるのならやってみないとね?」
「お、おう……頑張れ。」
オイラ、そんなこと言ったっけ?




