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勇者36番  作者: ハムリンゴ
第二幕:急なスカウトに、笑うしかない件について。
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29) 入り浸りなのね。

 今日は朝からずっと、工房に入り浸りです。

 新たな魔法陣の構成が3つも頭に浮かび上がり、その描き上げと実験をやっています。


「身体強化の強化版って変な言い回しだよなぁ」


 効果のうちの1つは、確実に筋力だけが上がっている事を実感する。あと2つの効果が解らん。

 掛けてから確認すれば良いのか。


「ステータスオープン」


ぱしん。


「あぁ、なるほど……」


 新しい3つの魔法陣は筋力向上、知力向上、敏捷性向上の効果が得られる様だ。項目に“++”の文字が付いていた。

 通常の身体強化魔法の場合は、全項目に“+”が付いていた。恐らく、新しく覚えた3種は単体で効果の高い“特化型”なんだろうな。

 もちろん、☆導きの書☆には既に強化版魔法陣を“喰わせて”いる。


「んで、筋力向上以外の魔法を使うと、こうなるわけだ……」


 そして今、オイラはブッ倒れている。

 呪いの効果で全ての能力が極端に下がっている為に、知力や敏捷性向上の魔法によって筋力向上の効果が消えると……立てない。

 身体強化の魔法は重複する事が無いようだ。同じ系統のうち、ひとつの効果って感じだな。まぁ、手持ち4つしか検証していないから解らんが。

 ☆導きの書☆が身体強化(筋力)の魔法を掛けてくれた。


「あ、ありがと……っていうか、その魔法を早速使ってみたかっただけだろ?」

ぴょこ☆


 ☆導きの書☆の反応は素直で面白い。貰ったばかりの玩具で遊ぶような感じか?


すすっ☆


どべしっ!


「あ、あのな……遊ぶなよ。本棚にしまって放置するぞ?」


ぴょ……ぴょこ☆


 オイラに身体強化(知力)の魔法を重ね掛けして、筋力向上効果を消された。当然オイラはその場に崩れ落ちるワケだ。

 それより、“本棚にしまって放置”という脅し文句が効くのか?“しまっちゃうよ効果”というやつだな。


「あ、あの……勇者様?また、長が呼んでいます」

「あぁ。解った、行こうか」


 ヒスイちゃんから心配そうに声を掛けられ、オイラは何事も無かった様に自分に身体強化(通常)の魔法を掛け直して立ち上がる。


「よう来た勇者殿、具合は如何かのぉ?」

「同じ台詞で、同じ反応が得られると思っておられるのですか?」


「あいたたた、また酷い風当たりじゃな」

「呪われるより、全然マシですよ」


「全く、その通りじゃわい」


 目の前の少女が見たまんまの存在なら、思いっきり頬を抓ってやるんだが……中身は森の長であり、古龍だからなぁ。


「そろそろじゃの、人間の領域に戻る準備をさせようと思ってのぉ」

「そろそろ、呪いが解けるの?」


「キッチリ解けるのは、あと10日以上は掛かるがな。解呪後に放り出したが野垂れ死ぬってのは夢見が悪いでの」

「なるほど、それで準備とは何でしょうか?」


「先ずは、身元の登録じゃな。あとは……身元が確認出来るモノじゃな」

「長……身元確認用の認識票作成だけではありませぬか。変な見栄を張っても仕方無いでござるよ」


「そ……そうじゃの、それだけじゃ」

「それで、認識票って何ですか?」


「長に代わり、某が説明をするでござる」


 青い龍の人曰く、龍が人として世界に散らばって生活する上で身元の保証は必須らしい。

 身元の確認できない人間は、捕らわれて犯罪者や隷属に服するシステムだという。

 人間には“戸籍”の様な身元を保証したり確認するシステムがある為に、人化しただけの龍は身動きが取れない。

 よって、認識票を“偽造”して潜入するんだと……何の組織ですかココは。


「まぁ、偽造と言っても伝手で得られる正式な物でござる」


 怪しい、怪しすぎる……正式なモノということは、国政レベルにまで龍族が人として潜伏しているという事だよなぁ。怖い怖い。


「その認識票の作成というのは?」

「とりあえず、出身地と名前や生年月日が最低限の記入事項でござるよ」


「世界事情が良く解らないオイラでも、問題無い出身地はありますか?」

「もちろん、あるでござるよ。この森付近の村を設定すると良い、大概の龍族はそこで設定しているでござる」


「名前は偽名でも良いのですか?」

「真名を伏せるのが龍族の習慣なので、それも問題無いでござる」


「年齢は24歳なので、生年月日は逆算して貰えますか?」

「年齢まで詐称するのは、見た目から問題があるでござるよ?」


「いやいやいや……それは誤魔化せない事くらい解ってますよ?」

「某から見れば、人間の10代半ばと見えるのでござるが?」


「ヒスイちゃん、オイラってそんなにガキっぽく見える?」

「勇者様は成人しているようには見えませんよ?」


「いやいやいやいや、それは無いって。ヒゲは生えにくい体質だけど、ちゃんと毛も生えてるし……見る?」

「えっ?だっ、ダメですよっ!毛の確認は必要ないですっ!でも、成人には見えません」


 何かオカシイ、オイラはどちらかと言えば年齢より老けて見られる事が多かったんだが……

 この世界では老け顔は少年期から存在するものなのか?

 軟禁生活で、日本人ばかり集められていたから気付かなかったのか?


「質問!ここに鏡ってありますか?」

「“姿見”でござるな?長のモノですが、あるでござるよ」


 ユウコ龍サン、鏡を独り占めしてなにやってんだ?鏡に向かうユウコ龍……何となく想像できて笑えるな。


「勇者様、確認して下さいませ」


 ヒスイちゃんに誘導されるがまま、全身が映る鏡の前に飛び込んで自分の姿を確認……


「は?誰コレ!?何、オイラ!?」


 鏡の向こう側では古い記憶に残っている少年が、驚きの表情をもってオイラを凝視していた……

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