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悪と呼ばれたネクロマンサー 〜拾えない命を拾うために、僕は悪を選んだ~  作者: よすが


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第78章「鐘の音」


 牢の前で、

 足音が止まった。

 クロは、

 顔を上げなかった。

 もう、

 期待しないと

 決めていた。

 鍵の音。

 ひとつ。

 ふたつ。

 看守の手つきではない。

 重さのある音。

 扉が、

 開いた。

「……久しぶりです」

 クロは、

 ゆっくり顔を上げる。

 そこにいたのは、

 リィナだった。

 王都の外套。

 整えられた髪。

 埃ひとつない靴。

 けれど、

 目だけが違った。

「……なんで」

 声が、

 かすれる。

 リィナは一歩入ると、

 内側から扉を閉めた。

 鍵をかける音。

「兄たちが、

 退いてません」

 それだけ言った。

 クロの喉が、鳴る。

「……退くように

 言った」

「ええ」

「それでも、

 残ってます」

 沈黙が落ちる。

 リィナは、

 白い箱を床に置いた。

 封印札は、

 すでに裂けている。

「封印を破りました」

 静かな告白。

「記録にも残ります」

「もう、

 戻れません」

 クロは、

 目を伏せた。

「……処分される」

「三日後に」

「その前に」

 箱が開く。

 黒い杖が、

 静かに横たわっている。

 空気が、

 わずかに沈んだ。

 クロの指が、

 震える。

「触れれば、

 ここも騒ぎになります」

「時間は、

 長くありません」

 遠くで、

 怒号が響いた。

「封印番号が合わんぞ!」

「誰が触った!」

 足音が増える。

 廊下を走る音。

 クロは、

 杖から目を逸らせない。

「……逃げろとは

 言いません」

 リィナは、

 真っ直ぐに言う。

「行ってください」

「守る側のままで」

 クロの視線が、

 ようやく彼女に向く。

「……勇者が

 来る」

「ええ」

「正義のまま

 来ます」

 足音が、

 牢の手前で止まる。

 鍵を確かめる音。

「中に誰かいるぞ!」

 リィナは、

 鍵束を差し出す。

「三つ曲がって、

 裏階段」

「馬はありません」

「走ってください」

 クロは、

 立ち上がる。

 足が、

 一瞬揺れる。

 それでも、

 杖を握った。

 鼓動が、

 胸の奥で強く鳴る。

 鉄格子の向こうで、

 別の鍵が回る音。

 時間がない。

「……ありがとう」

 クロが言う。

 リィナは、

 首を振る。

「まだです」

 外から、

 叫び声。

「開けろ!」

 衝撃。

 鉄が震える。

 リィナは、

 自分の外套を脱ぎ、

 床に投げた。

「私はここにいます」

「あなたは、

 ここにいなかった」

 一瞬、

 目が合う。

 クロは、

 何も言わなかった。

 一歩、

 外へ出る。

 その瞬間、

 牢の反対側の扉が破られた。

「いたぞ!」

 叫び。

 兵の視線が、

 リィナに向く。

 クロは、

 振り返らなかった。

 足音が、

 石の廊下に響く。

 後ろで、

 誰かが叫ぶ。

「裏だ!裏階段を塞げ!」

 リィナの声は、

 聞こえなかった。

 鍵束が、

 床に落ちる音だけが、

 やけに大きく響いた。

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