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ミーティングの後、立候補者の三人と、部長の冴と台本担当の真由美の五人で、第二体育館の端で今度はオーディションのためのミーティングが行われた。
立候補者三人は、真由美から、オーディション用の台本と、『いつか王子様が』の歌詞を渡され、最後にくじ引きを行うこととなった。
「このくじ引きは当日の発表順を決めるもので、一から三の数字が書いてあるよ。立候補した順にでも引いて貰おうかな」
くじと言っても、そこにあったのは二つに折りたたまれた紙が三枚、中身が見えないように冴が押さえて扇状に広げているだけのものだった。
立候補した順とのことだったの、最初にくじを引く権利を持っているのはアリーシャだった。
差し出されたくじを、まるでトランプのババ抜きのように、どれを引こうか悩みながら手を動かした。
順番はどれが一番いいのだろうか。
覚えたことを忘れないうちにできる最初か、最初の人がやったのを見て復習できる二番手か。
最初にやってしまうと、審査側の採点の基準となってしまいそうだし、後の方が有利な気もするが、前にやった人が上手だったら、後からやる時気が引けてしまいそうな気がしないでもない。
だが結局、くじの中身が見えてはいないのだから、今それを考えても無駄なのだろう。
アリーシャは腹をくくって、一枚の紙を選び、そっとそれを引いた。
二番手にひく権利を貰った千種も、アリーシャと同じようにどちらにするかをそれなりに悩んでから引いて、最後の美鈴はそのまま残った札を渡された。
「じゃあ順番はこっちで控えておくから、何番を引いたか教えてね」
冴の言葉に、アリーシャは緊張しながら自分の引いた番号を確認する。
緊張しながら開いた紙を、隙間から覗き込むようにそっと確認すると、数字の二が書かれていた。
「三番でした」
最後にくじを引いた美鈴が、自分の引いた紙を広げてそう言ったので、それに倣ってアリーシャも紙を広げて見せながら、自分の順番を言った。
「私は二番」
「私は、最初でしたあぁ」
二番目にくじを引いた千種は非常に落ち込みながらそう伝えてきた。
どうやら当たった順番は望んだものではなかったようだ。
千種は、まだ発表の段階まで行っていないというのに、既に緊張をしているのか、胸のあたりを手でさすりながら深呼吸をしていた。
「はーい。じゃあこれからの練習については、台本を書いてくれた佐藤さんから説明があるので聞いてねー」
そんな立候補者たちの様子を気にすることなく、冴は持っていた小さなメモ帳に、発表順をメモしながら真由美に進行役を投げた。
「はい、二年の佐藤です。台本に関しては、さっきも言った通り練習をしていくうちに変更をする可能性もあるし、皆の意見も聞いていきたいと思っているけど、今回はオーディションという形だから、このまま変更しないでやってもらいます」
冴と違って真由美が話すと、何故か背筋がピンと伸びる感覚がする。
緊張で胸を押さえていた千種も、両手をまっすぐ横に置いて小さく頷きながら話を聞いていた。
「本番で使う舞台の大きさは測ってあるので、体育館の横幅を使って三角コーンを置いて場所を取ります。そのスペースを使って、自分なりに台本を読み解いて動いてほしいと思っています」
真由美の説明を聞きながら、アリーシャはそっと配られた台本に目を落とした。
『逃げてきた森で迷い不安な様子』、『視線を彷徨わせながら舞台中央へふらふらと移動する』。
確かにどのような動きをするかは具体的に書かれておらず、抽象的な文章になっていた。
しかし、具体的にどうしろと書かれていた方が動きやすいかと問われれば、そうでもなさそうである。
「舞台の大きさを想定した練習は三人で順番に。順番は発表順でいいかなって思っています。その他の時間は、ライバルの見学でもいいし、他の部員と混ざって違う練習をしたり、演技を見てもらって意見を貰ってもいいと思うので、自分の思うようにやってみてください」
真由美の言葉にアリーシャの胸は高鳴った。
緊張もある。
だが、挑戦するということへの喜びが勝った。
もう一度、あの白雪姫を見直さなければならない。
あの時の彼女はどのような表情をしていただろうか。
あのアニメはどのような演出を入れ、何を伝えようとしていたのだろうか。
演技を勉強する視点でもう一度、あのアニメを観なければならない。
アリーシャの心は、いつの日かのように燃えていた。
「私も一応台本として関わっている身なので、一年生、二年生関係なく質問はいつでも受け付けます。どういう表現をするべきなのか、どういうつもりで書いたのかとか、わからないことがあったり、相談したいことがあったらいつでも来てください」
真由美はそう言い切ると、立候補者全員の顔を見渡してもう一度口を開いた。
「私は公平な立場で皆に接したいと心がけています。だからみんなも先輩後輩関係なく。あえて口に出して言うけど、人種も関係なく、一番私の心に刺さった演技をした子に私の投票権を使いたいと思っています」
真由美の言葉に、アリーシャの胸がドキリと鳴った。
そして唇を嚙み締めた。
それはアリーシャの心に刺さった棘だった。
気づかないふりをしていれば痛くないのに、気づいて触れてしまえば鈍く痛みを発する棘だった。
真由美はあえてその棘に触れ、そんなものは気にしないと言ってくれた。
ただし、二年生だから、友達だからというそういった贔屓もしないと。
つまりそういうことを言ってくれたのだと思う。
「私は大勢の中で、主役をやりたいと手を上げた皆を尊重し、私の精一杯で手伝わせてもらいたいと思っています。ここにいる全員、おそらく演技なんて初めてやる人ばかりでしょうし、ちゃんとした指導者がいるわけでもない。たかが文化祭でやる劇の一つだけれど、ここまで来たら私は本気でやるつもりです。だから皆も本気で頑張ってください。以上です」




