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「ねえねね聞いた? 本当は青木先輩が生徒会長になるはずだったのに、先生が任せられないからって、青木先輩を落として三原先輩を生徒会長にしたって噂があるんだってー」
「マジかよ。うける」
昼休みに生徒会選挙の話題になって、そういえばと美緒莉がそんな噂を聞いたと話した。
「実際そういうことってあるの?」
それでは何のための選挙かわからなくなってしまう。
アリーシャが入れた票は浦崎先輩へのものだったが、そうった工作が行われていたらと思うと、憤りを感じてしまう。
「ないない。青木先輩が生徒会長になっちゃったら、ちゃんと責任を負わせればいいだけの話だし、落選者も生徒会入りしてんだから、会長がダメな奴でもサポートに優秀な人材がいるでしょう。ざわざわ票を工作する必要なんてないんだよ。先生が三原先輩に立候補を勧めたのは、青木先輩が生徒会長になっちゃったらサポートしてもらうためなんだし、本当に投票数が青木先輩の方が上なのに副会長になったって言うなら、青木先輩が生徒会長職を辞退したとかの方が可能性はあるわ」
冴からの否定に、アリーシャはそれもそうかと納得した。
不正が行われた可能性が低いとわかると、憤りは消えて安心した。
「でも、そうしたらなんであんな噂が流れたんだろーね」
噂を聞いてきた美緒莉が不思議そうに首を傾げる。
確かに火のない所に煙は立たぬとは言うが、そこに火があるとするならいったいどういった類のものなのだろうか。
「そりゃあ先輩顔はいいからね。変な信者がいたんでしょうお気の毒に」
「あーね。先輩が生徒会長じゃないなんておかしいみたいに言う輩の妄想かー」
「な、なるほど」
過激思想をする人は、ある一定数どこにでもいるようだ。
「根拠のない噂なんて、本気で薪をくべる馬鹿が出ない限り、広がる前に消えるからほっとけばいいと思うよ」
冴の言う通り、アリーシャがその後その噂を聞くことはなく、そのまま鎮火されたようだった。
その火が燃える前に消えた主な要因として、期末テストがあった。
自分たちにはほぼ関係ないような噂よりも、間違いなく進路に関係するテストの方が大体の人にとっては大事なのである。
文化祭を終えた十一月頃に終えたはずの期末ストが、またすぐそこまで迫っていた。
数学が、歴史が、古文が、漢字が、アリーシャの前に迫っていたのである。
流暢に話すことが出来る英語ですら、スペルミスで減点されるので気が抜けなかった。
ホームステイ先の掘りごたつの一席を陣取ってテスト勉強に勤しむアリーシャの勉強を、ホームステイ先の兄である彰浩が時より見てくれた。
その時の雑談で、演劇の衣装はどうしているのかという話を振ってみたが、大学には先輩方が作った衣装がたくさんあるのだそうで、大変羨ましいことこの上なかった。
ならばと演技の練習はどうしているのか尋ねてみたら、アリーシャたちがいつもやっている運動や声出しの他に、絶対に鞄の中を見せたくない人と財布を掏られたと勘違いしている人みたいな役割だけ渡されて、即興で演劇をするみたいなこともやらされているのだそうだ。
設定によってはちょっとコントみたいになって笑ってしまうこともあるのだとか。
「でもね、結局演技に正解なんてないと俺は思うのよ。だからアリーシャの好きなようにのびのびやればいいんじゃないかな」
こたつの魔力に抗えず、半分くらい寝落ちしそうになっている兄が、テーブルにうつ伏せながらそう言った。




