20
そうした期待と不安を胸に抱えたまま迎えた翌日の放課後。
いつもの四人と、入部が決まった真由美の他に、男子が一人加わった六人が、いつもの自習室の一角に集まっていた。
「で。なんでこいつがいんの」
当然の疑問を口にした凛子の隣に座っているのは、清水 悠紀。
四月の初め頃、留学生のアリーシャと話すことを目的に、クラスに特攻してきた英会話部の男子の一人だ。
凛子とは同じクラスで、アリーシャも会えば英語で会話するくらいの仲ではあるので、顔見知りだ。
「うっす。この度英会話部と演劇部が連携することになったのでご挨拶に来ました、二組の清水 悠紀です、よろしくお願いします」
凛子の冷たい対応にもめげずに、悠紀は何故か敬礼をしながら元気よく挨拶をした。
「連携ぃ? というか演劇部ってちゃんと部活になるには後一人足らないんじゃなかったの」
そんな部活と提携するって何よと、凛子は眉をしかめながら言えば、冴が小さく手を一つ叩いて場を仕切り始めた。
「はい。その最後の一人がこの清水で、ここにいる六人で演劇部として部の設立を申請することにしました。拍手」
冴はそう言い終わるとそのまま自身で拍手をして、美緒莉がわーと言いながらそれに続いて小さく拍手をするので、アリーシャもそれに続いた。
悠紀もそれに続いたが、残り二人はそのままの姿勢で冴の言葉の続きを待っていた。
「はい、ありがとう。それでは、今から第一回演劇部創設者会議を始めます」
「おおー」
アリーシャの隣の席に座って楽しそうにリアクションをしている美緒莉は、なんというか盛り上げ上手だ。
「まず当然の疑問として、そこにいる清水ですが、英会話部と掛け持ちで入部してくれることになりました」
「よろしくー。俺は基本的に英会話部で活動してるけど、文化祭で協力するから、その連絡係だとでも思ってくれるといいかなって感じでー」
いつもより心なしか丁寧な言葉で話している冴に比べて、悠紀は非常に軽い調子だ。
流石留学生がどんな人物かわからないまま特攻してきた英会話部の一人なだけはある。
「それで、清水が言っている連携ってやつだけれど、まずこの英会話部、今年の文化祭の出し物が展示でした」
通常文化祭では、出し物が飲食、展示、体験などの項目に大まかに分けられ、クラスと部活動で出店を行っている。
多くの運動部は体験型の出し物を行い、簡単な部活の体験を行えるようなものを、文化部では部活動中に作った作品などを展示する出し物を行うことが多い。
尤も、その傾向にあるというだけで、必ずしもそうでなければならないという決まりはなく、部活動枠で飲食の出店を行い、部費の足しにするなんていう部活もあると言えばある。
「英“会話”部なのに文化祭の出し物は展示。日頃はちゃんと英語の勉強はしているし、英検もトーイックもちゃんと挑戦して、高得点叩き出している英語の成績優秀な奴らばっかりの部活で、先生の手間もかけずに将来性もある活動をしているいい部活ではあるのだろうけれど、何かの大会に挑戦するわけでもなく、実際の部活の活動内容も、毎日集まってボードゲームを英語縛りでやるみたいなことをやっているだけの、もはやボードゲーム部と化しており、ここって部活である意味あるのと、教師陣と生徒会からつつかれて、一周回って廃部の危機になっているのが現在の英会話部となっております」
「いやあ、照れますなあ」
「何照れてんだよ、どこに照れるとこあったよ」
「ほら、トーイック高得点だとか褒められちゃったじゃん」
都合のいいところだけ切り取って聞いて照れている悠紀を見て、隣に座る凛子が呆れている。
「それで、この間の文化祭の決算後、生徒会に部活動ちゃんとやらないなら予算削るし、なんなら廃部にするかと脅され、漸く重い腰を上げたのはいいが、具体的に何をしていいかわからず、昨日職員室で顧問の先生に泣きついていた英会話部の部長を捕まえて説得してきました」
「で、その部長に売られたのが俺ってわけ」
ウインクをしながら自信を親指で指し、キメ顔を作ってはいるが、悠紀の言っていることは先程からなんだか残念な感じだ。
「英会話部が廃部の危機なのはわかったけど、結局連携って何すんのよ」
長々とした前置きがあったが、結局最初の疑問に答えられていないと凛子がせっついてきた。
「簡単に言うと、来年の文化祭で英会話部も劇をやるので、一緒に協力して大道具や衣装を作りましょうってことになりました」
もはや賑やかし担当となっているアリーシャと美緒莉がわーと言いながら小さく拍手をしている先で、凛子がふと頭に過った疑問を口にした。
「え。それってさ、アリーシャが英会話部に入って英語で劇をやれば、演劇部いらないってことになんない?」
アリーシャは拍手の手を止めて悠紀の方を見た。
確かにアリーシャは英語も流暢に喋ることが出来るが、急に入部して文化祭の方針に口出しをできるものなのだろうか。
「いや、申し訳ないけどこっちはちゃんとした演劇をやるくらいのモチベはないから、そっちが白雪姫をやるのに合わせて、童話の世界観で寸劇とかコントとかしてお茶を濁そうぜってふんわり決まっている感じ」
「英会話に興味を持ち始めた小さな子供たちにもわかりやすい世界観とやさしい英語で、楽しく英語の勉強ができる劇を是非見に来てください。みたいな感じで進めていけば生徒会も納得するだろうって感じよ」
悠紀が英会話部の総意と本音を、冴が取り繕った話をしてくれた。
「部活動、ちゃんとしてないと生徒会とかに怒られちゃうんだねぇ。演劇部も大会とか出る感じじゃないけど大丈夫なのかなあ」
今までの話を賑やかしとして聞いていた美緒莉が、不安に思い疑問を口にした。
「こいつらは日頃の部活も遊んでばっかりで、文化祭も手を抜いていて、それでも目こぼししてもらえてたはいいんだけれど、ついこないだ英語版のクッソ高いボドゲを部費で買ったから、部活動としてどうなのって叱られただけで、普通はそこまで活動に目くじら立ててはこないよ」
「いやあ、あれは英語を楽しく学ぶための教材でして」
へらへら笑って誤魔化す悠紀に、物は言いようだなとアリーシャは感心した。
「紆余曲折ありましたが、何はともあれ、この六人で演劇部結成としたいと思います。異議がある方はどうぞー」
そう言った冴の言葉の後に続いたのは沈黙だった。
そのしばらくの沈黙を確認した後、冴は話を続けた。
「では、異議もないようなので、これから部活動結成のために必要な最後の項目についての話し合いを始めます」
「あれ、まだ何か必要なことあったんだ」
冴の言葉に美緒莉が首を傾げた。
部活動の名前も、活動内容も、目標も、部員も揃って、他に何が必要なのか心当たりがなかった。
「うん、割と最初の方の項目。部長、誰にしよっかって話」




