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「アリーシャが本気で文化祭で演劇をやりたいなら、美緒莉と凛子にも、アリーシャの言葉でそう言って。そした私は全力で手伝ってあげる」
冴との通話はそうして終わった。
美緒莉と凛子が賛同してくれなくても、冴はアリーシャに協力してくれるという。
通話が終わった後、アリーシャは目を閉じて考えてみた。
自分は本当に演劇をやってみたいと思っているのか。
一時の衝動に流されて、そう思い込んでるだけではないのだろうか。
そうして目を瞑って考えているアリーシャの頭に浮かんだのは、小さかった頃の自分自身の姿だった。
買ってもらったお気に入りの白雪姫のドレスを着て、鏡の前でくるくると回って楽しそうに笑っている、自分自身の姿。
アリーシャはゆっくり目を開けて、そして覚悟を決めた。
確かに自分は、演劇をしていた兄を見て、楽しそうに演じていることを羨ましく思った。
自分がもし、演劇をできたならばと思った。
そしてもしやるのならば、友達に馬鹿にされてしまうかもしれないけれど、それでももし、許されるのならば、『白雪姫』を演じてみたいと思った。
この思いを伝えるのは、メッセージではいけないような気がした。
ちゃんと自分の言葉で伝えたいと思った。
『明日みんなに相談したいことがあるんだけれど。放課後時間はありますか?』
だからアリーシャは一生懸命言葉を選んで、そうメッセージを送った。
割といっぱいいっぱいで緊張しながら送ったメッセージに対して、一秒待たずに返事が返ってきた。
『やだ』
『ここで話して』
それは凛子からのメッセージだった。
『明日まで待ってたらいろいろ考えちゃう』
『悪いことかもってへこむ』
『メンタル弱いんだから待ってられない』
文面と返信の早さからして、どうやら真剣にアリーシャが元気のないことについて悩んでくれていたようだ。
心配をかけてしまい、申し訳ないやら嬉しいやらで、顔が少しにやけてしまう。
『私もどういう話するかくらいだけでも知りたいかなあ』
凛子のメッセージが途切れたところを見計らってか、美緒莉も控えめにメッセージを送ってきた。
壁から顔を覗かせる猫のイラストがその後に続いた。
『だってよ、アリーシャ』
そのメッセージを受けて、一番の関係者が全く関係ないふりをしてアリーシャに発言を促してきた。
本当は自分の言葉で伝えたかったが、せっかくこういう流れになったのだから、先に伝えておくのも悪くはないだろう。
変な心配をかけてしまうよりよっぽどいい。
アリーシャは慣れていないローマ字入力で、一生懸命に言葉を文字に起こした。
『来年の文化祭で演劇をやりたいので、力を貸してくれませんか』
アリーシャの精一杯のお願いに対するみんなの反応は好意的だった。
凛子は自身でも冗談めいて発言したくらいには興味があり、やりたいと賛同してくれたし、美緒莉もみんなで一緒にイベントをやるということ自体が楽しそうだと喜んでいた。
前の話で凛子に対して、文化祭で劇をやるのは現状現実的ではないと否定していた冴は、現状は無理だけれど手段がないとは言っていないと宣って、凛子にキレられていた。
そうしてその後、明日具体的な話をしようと約束を取り付けた。
昼休みには全員顔を合わせる仲ではあるが、話が長引く可能性もあるため、放課後にということになった。
一人でマイナス思考になって考えていた分、皆にすんなりと受け入れられて、アリーシャは心が追い付かないくらいだった。
もし、本当にこのまま文化祭で演劇をやると決まったならば、演目はどうなるのだろうか。
アリーシャは舞台に立つことが出来るのだろうか。
白雪姫をやりたいと言ったなら、馬鹿にされたりしないだろうか。
演劇をやれるかもしれないという喜びから、またマイナス思考になった自身の頭を振って、その考えを追い出した。
とりあえず今、アリーシャが出来ることは何もない。
気持ちを切り替えて、軽く勉強をして、明日の準備をして、そして映画を一本見てから眠った。
観た映画は『白雪姫』
世界初の長編カラーアニメーション映画のそれは、アリーシャが昔何度も何度も繰り返し観た作品の一つだ。
オープニングの映像が流れた途端に、過去この作品を見ていた時の自分や周囲の景色や匂いやらが胸の中に押し寄せてきて、懐かしさで涙が零れ落ちそうになり、話が進むにつれ、今尚色褪せないアニメーションに心をときめかせ、アリーシャが生まれる前に、こんなに沢山のキャラクターが、まるで生きているかのように動き回るアニメ映画が、沢山の人が関わって手書きで作られていただなんて、どれだけ凄いことなのだろうと想像し、幼かった自分が感じた感動と、成長した今感じた感動が混ざり合い、胸をいっぱいにした。
ハッピーエンドで終わったその物語を観て、心が満たされた気持ちになったアリーシャは、その後そのままとても幸せな気持ちで眠った。




