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早めの昼食を終えた一行は、アリーシャのホストブラザーである彰浩(あきひろ)の出し物を見に行くために移動した。

彰浩(あきひろ)とはアリーシャを通じて三人とも顔見知りのため、見に行くのも乗り気で、楽しみにしてくれているようだった。

大学にいくつかある体育館のうち、目的の体育館まで辿り着くと、飲み物やお菓子の販売とパンフレットの配布などがされていた。

各々飲み物を購入し、パンフレットを受け取り席に着いた。

早めに来たため、いい席をとれたが、それでも既にちらほら人が入っているのが見えた。

アリーシャは席に座ると、演目が始まる前にと配られたパンフレットに目を通すことにした。

コピー用紙を折りたたんでホチキス止めしてあるだけの簡素なパンフレットだ。

表紙には美しいイラストが、中身は二日間にわたり、この体育館で行われる全ての演目が順番に紹介されていた。

どうやら各々作ったものが最終的に合体されてパンフレットとなっているようで、中身は各ページごとに個性があって面白かった。

昨日と今日で、過ぎ去ってしまった演目のページをめくり、今から始まる演目のページまで辿り着くと、キャストの一覧の中に、兄の名前を見つけることが出来た。

彼は、ヒロインの二人いる兄のうちの一人の役を貰っているようだ。


「おおう」


アリーシャの隣の席に座り、同じくパンフレットを見ていた(さえ)の、思わずといった声につられてそちらを見ると、アリーシャの視線に気づいた(さえ)と目が合った。


「いや、演目がさ。聞いてなかったから」


「そういえばそうだったね」


(さえ)の言葉にアリーシャも、そういえば確かに劇をやるから見に来てとは言われたものの、どんな劇をやるかは聞いていなかったと気づいた。

アリーシャは改めてパンフレットを見てタイトルを確認した。


「あお…」


書かれていたタイトルは、漢字でアリーシャには少し難しいものだった。

読めずに首をかしげていると、(さえ)が声を出してタイトルを読んでくれた。


青髭(あおひげ)。フランスのジル・ド・レェがモチーフとされている、ちょっとホラーみのある童話だよ」


その解説にアリーシャは納得のいったように頷いた。

なるほど、あの兄の好きそうな題材である。


***


「ホラーとか聞いてなかったし!」


最終的に満員御礼となった演劇は、とても迫力のあるもので終わった。

話の流れとしては、童話の青髭(あおひげ)のそれだったが、金持ちの男は軍人上がりの男爵となっていたり、男爵が不在になった屋敷は、知人を集めてパーティーを行うどころか、男爵夫人が屋敷に一人だけで残され、幽霊の声を聴いたり、ポルターガイスト現象が起こるホラーハウスのようになってしまっていたり、いくつか内容に改変はあった。

ヒロインである男爵夫人が預けられた鍵を開けて、部屋にしまわれていた宝物に出会う度に、どんどん狂気じみていくようになり、最終的に開けてはいけない小部屋の前で、沢山の亡霊たちの声が、開けろ開けろ、開けてしまえと誘惑してくる。

それでも抵抗していた夫人は、亡霊により勝手に手を操られ、そこの小部屋を開けてしまう。

開け放たれた小部屋の中で、死体となっていた今までの妻たちが、一斉に新しく(めと)られた妻に視線を向ける演出は、まあ間違いなくホラーだった。

肝心の兄の出番は、その死体を見て叫びながら逃げ出した夫人が助けを求めた二人の兄のうちの一人で、男爵を問い詰めるために立ち上がるが、途中で軍人上がりの男爵に斬り殺されていた。

最終的に男爵は、もう一人の兄に殺されることになるが、死に際まで妻が約束を破って部屋を見たことに大変憤慨しており、許さないと繰り返し言いながら絶命するという、なんとも後味の悪い終わり方となった。

終わり方の後味は悪かったが、演劇としては大変面白く、拍手喝采で幕を閉じ、四人は外の休憩スペースで(くつろ)いでいるところで、凛子(りんこ)が耐え切れず感想を叫び今に至る。


「確かにちょっと怖かったよねー」


「いや、でもちゃんとパンフレットに『青髭(あおひげ)』って書いてあったじゃん」


美緒莉(みおり)の同意にすかさず(さえ)のつっこみが入った。


「知らないよ青髭(あおひげ)なんて。ロミオとジュリエットとかにしておけよー」


凛子(りんこ)はよほど怖かったのか、テーブルで頭を抱えて項垂(うなだ)れている。


「ロミオとジュリエットは知ってるんだな」


劇中で飲みきれなかったジュースをすすりながら、冷めた声で言う(さえ)は、始まる前にちょっと引いたような声を出していたが、怖くはなかったようだ。

ついでにアリーシャも恐怖を感じはしなかったので(さえ)側だ。


「そりゃあ、あたしだって世界三大悲劇くらいは知ってるし」


恐怖から立ち上がったのか、胸を張ってすまし顔で威張る凛子(りんこ)には悪いが、アリーシャの知っているそれとは違った。

正そうかと口を開きかけたアリーシャより先に、(さえ)がとても楽しそうに、凛子(りんこ)へと質問をした。


「へえ、それじゃあ後二つが何か言ってみなよ」


「ええ?! ええっと」


まさかそんな返しをされると思っていなかった凛子(りんこ)は、見栄を張った手前、知らないとは言いだせず、ひとしきり考えを巡らせて、知っているタイトルを口にした。


「オ、オセロとか」


なんとか絞り出した凛子(りんこ)の答えを(さえ)は鼻で笑った。


「残念だったな凛子(りんこ)。世界三大悲劇にはロミオとジュリエットもオセローも入っていない。そもそも()()三大悲劇をシェイクスピアだけで独占してるわけないだろう」


尤もな話である。

いくら偉大な劇作家とはいえ、世界レベルのランキングを独占していいわけもない。

代わりに彼にはシェイクスピア四大悲劇なんてものがあり、そこには偶然にもオセローが入っているが、それはまた別の話だ。


「嘘ぉー、ロミジュリも?!」


「ええー、そうだったの?!」


アリーシャが(さえ)の言葉に頷いているていると、凛子(りんこ)と一緒に話を聞いていただけの美緒莉(みおり)からも驚きの声が上がった。

(さえ)は、思ってもいなかった場所から驚きの声が上がって、逆にそのことに驚いた。


「ブルータス」


お前もか。

(さえ)の呟いたその言葉は、シェイクスピアの書いた悲劇の一つ『ジュリアス・シーザー』の劇中で、襲撃に遭ったシーザーが、敵襲の中に最も信頼していた友のブルータスを見つけ漏らす言葉だ。

日本ではネタとしてよく使われている。

そしてこの『ジュリアス・シーザー』も、世界三大悲劇には入っていない。

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