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カーテン越しの朝の日が眩しい。
小鳥の声が外から聴こえてきて、もう世界は活動し始めたのだと教えてくれる。
「うーん……あら、ハンナ。おはよう。私ったらうなされちゃったのね」
「良かったぁ。おはようルイーゼ。何か嫌な夢でも見たの?」
「ええ。ちょっと、ミカエラさんの夢を見て。内容があまり良くないものだったから、自然とうなされちゃったみたい。けど、最後は異世界転移前のミカエラさんも元気になっていたわ。夢の中でスキルを継承したんだけど」
目覚めると、ルイーゼのスキルは大幅に変わっていた。なんとなくだが、身体中に満ちる魔力のバランスが以前よりも良くなった気がする。
確認のため、ベッドのサイドテーブルの上にある手帳を取り出す。この手帳は、聖女として今後活動するために用意されたギルド冒険者手帳で、自らのステータスチェックが出来る。
「もしかして、ミカエラさんが聖女を廃業したからルイーゼ嬢にスキル継承が行われたってことかしら?」
「おそらく、そういうことみたい。あの夢は、意味のある夢だったのね」
「けど、本人から正式にもらったものなら、堂々と使えるわよ。良かったわね、ルイーゼ」
本来の悪役令嬢ルイーゼが持つステータスは、黒魔法を用いた攻撃系スキルがメイン。とはいえ、奉仕活動がメインの修道院暮らしのため、攻撃魔法のみでは役に立つことは出来ない。この修道院に来てから、適応能力を上げて防御壁魔法や回復魔法を幾つか覚えた。
そして、今回夢の中で美加から継承した聖女ミカエラの補助系スキルが加わると……三分野のスキル制覇の特典としてサブジョブが上位職にランクアップ出来る。
「固定職は一応聖女だけど、もう一つバトル用にジョブが用意されてるんだわ。今まで悪役令嬢ルイーゼの流れで、魔法使いが私のサブジョブだったのね」
「そういえば、攻撃系の黒魔法が得意だから悪役令嬢なんてあだ名がつけられてたって、ルイーゼは以前話していたっけ。私はあんまり黒魔法得意じゃないから羨ましかったけど、最近は基本サブジョブってあんまり人気ないのかぁ」
「けど継承スキルで三分野スキルシステムを達成したから、サブジョブを上位職に出来るわ。賢者、魔法剣士、ダークウィザード……魔法使いベースの上位職って感じ」
一度サブジョブを固定してしまうと、スキルをモノにするまではジョブチェンジ出来なくなるため、慎重に選ばなければならない。
「もう朝ごはんの時間だし、取り敢えずは身支度して栄養補給に行きましょう! 私も、ルイーゼ嬢のお付きとしてジョブ登録するから、バランス取れる組み合わせを考えると良いかも」
「そうね! ここを拠点に活動するようだし、じっくり検討してサブジョブを登録しましょう」
* * *
顔を洗い歯を磨き、いつもの修道服に着替えて、食堂へ。朝の食事の祈りをして、オムレツとトマトスープ、ライ麦パンを愉しみながらサブジョブの相談。
元冒険者の修道女、カナリヤに話しを聴いてみることに。
「へぇ。夢で継承したスキルが現実で反映してたなんて、なかなか素敵な話ね。コンビで基本活動するなら、物理魔法のバランスを整えた組み合わせでいくと良いわよ」
「そういえば、私ハンナがどんなサブジョブなのか知らないわ。確か、メインジョブはメイドなのよね」
「はい! 本当は地方のメイドとして派遣されてたんですけど、就職先のお家が潰れてしまって。行くところを失ってこの修道院でお世話になってるんです。サブジョブはボディガード的なものか、諜報的なモノになりそうですけど……まだ開いてないのでなんとも」
ルイーゼ嬢が貴族に復権するなら、侍女として付き添いたいと語っていたが本来の本職なら当然のセリフだろう。
「サブジョブが未設定なら……プロに相談するとか? まだ仮設状態だけど、ジョブ登録出来るアランツ王国発のギルドセンターが修道院隣の敷地に出来てるから。ギルドでパターン表を確認して、それから正式に登録すると良いわね」
「カナリヤさん的には、どんな組み合わせがオススメですか?」
「うーん。ハンナのサブジョブがボディガードや諜報って聞くと。コンビというより三人組を想定した方が良いかも。私もサポートメンバー的に加われるか、後でギルドに駆け寄ってみるわ。武器防具も最低限購入しないといけないし」
「本当ですか? 頼もしいです!」
(武器や防具か……。聖女の防御壁魔法でアランツ王国の城壁は守られるけど、コルネード王国の土地が契約で踏めない以上、向こうの経路から魔族が攻めてくる可能性がある。この先、戦闘は避けて通れなさそうね)
もともと、コルネード王国は有事の時の備えて国民に魔法教育を施していたし、ルイーゼもそれなりの黒魔法の使い手として、魔族とやり合えるレベルの持ち主だ。しかし、プロの冒険者のような知識やスキルは磨かれていないため、あとは実戦で鍛えるしかない。
状況は刻一刻と戦禍に向かっている。
そして、波乱はもう一つ。忘れられた聖女ミエナの再来という形で訪れようとしていた。




