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第二部 第三章「成果」

 文化祭前日。まだ当日ではないにも関わらず、校舎は熱気に包まれていた。

 二週間ほど前までは

「ちょ、男子~」

 の如くいかにもな状況が各クラスで起きていた。しかし、当日へ近づくにつれてそれらは次第に収まっていった。これには生徒会長もニッコリな状況である。

 そして前日という事もあってか、生徒会室では普段よりも役員の出入りが激しい。

「美鮮、各団体の教室の配置には問題ないよな?」

「うん。大丈夫だよー。全部ちゃんと申請してくれたし、当日の混雑を予想してもこれがベストな配置だと思う。」

「そっか、ありがと。この手のヤツはやっぱり美鮮に任せて正解だったよ。」

 照れたのか、想乃華は少し頬を赤らめる。

「まあね。想志が最初にやろうとしてた配置よりかはマシかも。」

 皮肉交じりに笑顔で返す。

「そんなに悪かったってのかよ、俺の案は。」

「悪くはないよ。ただ、合理的過ぎるってだけだよ。あんなのだと色んな団体から苦情が来ちゃうかもだからね。」

「そーかい。ま、なんにしても助かった。おかげでスムーズに進めたことだし。」

「こらこら、まーたイチャついてるよ。」

 生徒会室へと入ってきた鶴岡の第一声に、想乃華は苛立ちを示す。

「鶴岡先生、何か言いましたか‥‥‥?」

「いや、何も‥‥‥」

 想乃華の無言の圧に鶴岡は押し黙る。内心では『こえ~。やっぱからかうんじゃなかったなぁ』と絶対口にはできない言葉を、心の奥底に放り投げる。

「それで、準備の方は順調かい?」

 こほんと咳ばらいを一つして、先ほどのやり取りなんぞ無かったかのように、極めて爽やかに尋ねる。

「そうですね。こちらでやるべき事は全てやり終えました。あとは、各クラス次第ですかね。」

 想乃華と鶴岡のやり取りを気にも留めずに、想志は答える。

「そうかそうか。うんうん、やっぱり君たちは優秀だね。それじゃあ、明日もこの調子で頼むよ。」

「それと、想志君。忙しいのはわかってるんだけど、あとでちょっと時間取れるかな。」

 その問いに想志はキョトンとする。

「今からなら大丈夫ですよ。」

「ありがとう。じゃあついてきて。」

 生徒会室を後にする鶴岡に続き、想志も教室を出る。


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 職員室はガランとしており、先生らはまばらにしかいない。

「あー、ここ座って。」

 鶴岡は近くの椅子を持ってきて想志へ渡す。

「それで、何の用でしょうか?」

「うん、最近お互いに忙しくてあんまり話が出来ていないと思ってさ。」

 鶴岡は眼鏡をはずし、眼鏡拭きで手際よく掃除を始め、なおも続ける。

「君は少し変わったね。」

 鶴岡の発言の意図するところに彼は気づいていない。それを察してか、鶴岡は微笑みかける。

「一ヶ月近く前の時の会議を覚えているかい?」

「君は全ての団体へのサポートを一人で行おうとしていた。実際に茶道部の時は一人でやっていたね。」

「けれど、気付いた頃には、君は想乃華君と行動して彼女に手伝ってもらっていた。」

『ああ、そのことか』と想志は納得する。

「君がそうして、自主的に彼女に助けを求めるようになったのは良い変化だと僕は思うよ。もちろん、一人でやることを否定しているわけじゃない。だって、その方が効率が良いことなんてザラにあるからね。‥‥‥特に、君みたいな生徒ならなおさらだ。」

「ただ、今までの君だったら取らなかったであろう選択を君は選んでみせた。それがもたらす結果よりも、助けを借りるっていう選択を取るという行為そのものが、君にとっては何よりも大切なことなんだと思う。時には『結果』よりも『選ぶ』こと自体が答えになることも多々あるからね。いわゆる、過程が大事だというのはそういった一面を持っているからなんだろうけど‥‥‥」

 想志は鶴岡が自分のことを心配してくれていたことに感謝を抱き、頭を下げる。

「ありがとうございます。そこまで気にかけてくださって。」

「ちょ、よしてくれよ。そこまで感謝されるような事じゃない。これも仕事のうちだし。」

 謙遜しながらも、全くもって照れ隠しが出来ていない様子に、想志は苦笑する。

「よかった。ちゃんときっかけは掴めたようだね‥‥‥」

「そうですね。生徒会に入って良かったと心の底から思います。」

 言い切る彼の表情に満足し、鶴岡は笑みを返す。


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 生徒会室を出ると想乃華が彼を待ち伏せしていた。

「何か、変なことでも聞かれた?」

『あー、怒ってる。何でか知らないけど怒ってる』

 と察した想志は、想乃華をなるべく刺激しないように優しい口調で答える。

「いや、そういうのは何もないよ。明日のことでいくつか連絡もらっただけ。」

 想乃華はまだ納得していないようであったが、諦めたかのようにため息をついた。

「まあいっか。今日はこの後どうするの?仕事はもうなかったよね。」

 想志は困惑したように目線を泳がせる。その様子に何かを察したのか、想乃華は問い詰める。

「何か予定でもあるの?」

 苛立ちを含んだ声。彼女はそれに怒気が混じっていることに気付いていない。

「まあ、予定っていうか何ていうか‥‥‥」

 言わないと帰さないとでも言いたげな想乃華の様子に降参したのか、深く息を吐いて答える。

「結愛って知ってるだろ?あの子に誕生日プレゼントを渡しに行くだけだよ。」

 途端、想乃華は驚く素振りを見せたが、やがてどこか納得したような表情をする。

「そう‥‥‥結愛とはそんなに仲が良かったんだ‥‥‥。」

 想志は寂しげな様子には気付いていないようだった。

「んー。仲が良いっていうか‥‥‥何なんだろうな‥‥‥アレは‥‥‥」

 想志は考え込むかのような姿勢をとる。

「毎日ライン送ってくれるし、掃除の時もずっと話しかけてくれるし。」

「俺がボッチだと思って気を遣って声をかけてくれてるのかな。」

『ああ、もうダメだ』

 と想乃華は頭を抱える。彼が鈍感すぎることは理解していたが、ここまでとは思っていなかったのだろう。

「そんなわけないじゃない。だいたい、アンタはボッチでもなんでもないでしょ‥‥‥」

 事実。想志はクラスにいる時には誰彼構わず、クラスメイトと仲良くしている。一人でいるなど以ての外であり、いつも引っ張りダコ状態だ。

『こんなんだと、結愛も先が思いやられるなー』

 ポツリと心の中でつぶやく。

「まあいいや。‥‥‥そんなことより、特別仲が良いわけでもないのに、どうして誕生日プレゼントを渡すの?」

「ん。あー、話してたらたまたま誕生日が近いっていう話を聞いてな。日にちまで知っちまったからには渡さない訳にはいかないだろうと思っただけだよ。それに、いつも話しかけてくれる事自体は素直に嬉しいし。その感謝でもあるかな。」

 輝井想志という人間は知ってしまった事を無かったかのように振舞うことができない人間だ。それは彼の矜持、在り方の根底に関わってくるからこそ、彼は決してその在り方を曲げる事はしない。今回もそれに準じているだけの話。もちろん、彼女はこのことに気づく道理はない。だが、一抹の不安を抱いたのは事実。

「そう‥‥‥。早く結愛のとこに行ってあげて。」

「そうする。それじゃ、また明日な。」


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