報われない努力
「Fクラス、3点4点3点2点5点」
は?
「どー言うことだよ、ありえねーだろっ」
マージが叫んだ。
気持ちは同じだ。
だが、生徒たちの顔を見渡すと、おかしい、変だ、ありえないという顔をしている人間は少ない。
「うわー、もっと点数出ると思ったのになぁ」
「がんばったのに、サーシャ。でも1人5点つけてくれたね!」
と、クラスメイトからさえ納得できないという声は上がってない。
分からない……のだ。
レンガの数だとか、磨いた剣の本数だとか、はっきりと数字で示されない評価は……分からないものには分からないのだ。
フィギュアスケートなど、審査員による点数が付く競技。
綺麗だなと思った選手が優勝するとは限らない。すごいと思った選手の点数が伸びるとは限らない。
採点基準……きっと、それが、私には分からないだけだ……。
バクバクと、言い知れぬ感情が溢れそうになる自分自身に言い聞かせる。
上級生の表情を見ると、にやりと笑ったり、クスクスと笑ったり、何かささやきあっている人間もいる。
なぜか5点を出した先生を、他の4人の審査員が驚いた顔で見ていた。
まさか、5点満点を出すなんて、信じられないという顔をして見た。
採点基準が分からないのに、審査員を疑うなんて、目が曇るようなことを考えては駄目だ。
フレッドたち、最後の選手の型の披露が始った。
――型の見本のような動きだ。
サーシャのは芸術的な美しさがあると思った。
フレッドは機械的な正確さがある。そう、金属のような研ぎ澄まされた型。
やはり、他のクラスの選手より、頭2つ分はとびぬけているように”私”には見える。
だが、点数は、3点3点4点2点5点だった。
頭二つ分劣っているように”私”には見えるクラスの選手よりも、低い。
5点をつけた教師を、他の審査員が今度は睨みつけた。
その目は「なぜ5点を出したんだ」「勝手なことをするな」「Fクラスには5点はつけない決まりだろう」とでも言っているように見えて……。
点数操作、Fクラスというだけで、点数操作が行われているとは考えたくはない。
だけれど「ない」とはっきり言える確証もない。
「審査員ってよ、全員剣の先生なんだよな。見る目のない教師に何が教えられるっていうんだ。俺は、あの人以外先生だとは認めねぇ」
マージが怒りをにじませ5点をつけた先生を指さした。
「うん……あの先生に教えてもらいたいね」
点数操作が本当に行われたか行われていないかは分からない。
だけれど、マージの言う通りだ。
私が最高だと思ったサーシャとフレッドの剣の型の良さが分からない人間に剣を教えてもらいたいとは思わない。
剣の型班が戻ってきた。
「期待に沿えず、申し訳ありませんでした」
結局剣術班は、合計点で最下位になってしまった。
フレッドが頭を下げると、他の選手も頭を下げた。
「おい、フレッド、お前の型は完璧だったぜ!感動した!」
マージがバンバンと背中を叩く。
それで、選手たちが顔を上げた。
「サーシャの型があまりに綺麗だったから、もっと見たかった」
サーシャに声をかけると、嬉しそうに笑う。
フレッドが、他の三人の選手の顔を見た。
「この3人も、練習を始めてとてもうまくなったんですよ」
と。
言われた一人が涙を流した。
「で、でも、私がもっと、もっと頑張ってれば……最下位にはならなかった、かも……」
ヒックヒックと嗚咽を漏らしながらなくクラスメイト。涙を袖口でぬぐおうと上げた手の平には、つぶれた手の豆が真っ赤になって痛々しいのが見えた。
いつもありがとうございます。
努力はいつも報われると限りません。
だけれど、捻じ曲げられ、努力を踏みにじるのは許せませんね。
あ、それから、報われない努力は無駄な努力じゃないですよ。
努力した事実っていうのが本当に大切。
「どうせやったって無駄」って初めから何もしないと、何も身に付かない。
ところが、結果が出なかった努力って、「何か」が身に付いているんですよね。
何かをコツコツと続ける根気だとか、運動なら筋肉とかさ。それがいつかきっと役に立つんですよ。
だから、結果は出ないかもしれない、何のためにするのか分からないってことも、まぁ、やってみるといいですよ。勉強して東大には入れないかもしれないけど、その勉強したことがクイズ番組で優勝につながるとかあるかもですし。




