影内視点第1話:反乱の終わり
※本作は影内視点と志信視点が交互に進みます。
俺は仰向けのまま四肢を咥えられ、抵抗を封じられた。
もう動けないと分かっているのに、身体のどこかがまだ震えている。
長年、親父に噛まれ続けた記憶が蘇り、自然と体が固くなる。
孤軍奮闘したつもりだった。
手下にも声をかけ、必死に鼓舞した。
だが、結局は多勢に無勢。
親父は「吹雪が死んだ今こそ、自分がボスになる好機だ」と言っていた。
その言葉を信じるしかなかった。
逆らえば噛まれ、怒鳴られ、幼い頃から恐怖で縛られてきた俺には、他の選択肢なんてなかった。
そこへ、敵の伝令が叫ぶ。
親父は的盧――現ボスで最強の狼――に殺されたらしい。
あれほど「的盧さえ倒せば勝てる」と豪語していたのに。
敵は残った部下を取り込み、双方の負傷者の手当てまで始めている。
その余裕が、逆に俺の無力さを突きつけてきた。
親父もいない。
俺も、ここまでだ。
そう思った瞬間、抵抗する気力もなくなった。
「影内は脚から牙を離すと危険だから、そのまま命の泉まで引っ張って行ってくれ。」
敵ボスの声が聞こえ、俺は思わず耳を疑った。
敵のボスは吹雪の息子で、群れのナンバー3だった志信だよな。
命の泉――浸かればどんな傷でも癒える特別な泉――に運ぶ?
俺を……手当てするつもりなのか?
俺は殺されると思っていたので、理解が追いつかなかった。
ただ、胸の奥で何かがざわついた。
恐怖とも違う、でも落ち着かない感覚。
しかも、引きずれば背中の傷が広がるからと、脚を咥えたままとは言え、俺を背中に乗せて運んでくれるなんて。
余裕を見せているだけかもしれない。
だが、俺はこんな扱いを受けたことがなかった。
……正直、嬉しかった。
命の泉に着くと、的盧が部下とともに傷を癒していた。
的盧が健在ということは、親父が殺されたという話は本当らしい。
志信は俺を泉のそばに降ろし、的盧に話をつけて俺の手当てを認めさせた。
あの的盧に意見を通すとは、大したものだ。
俺は親父の部下ではなく、志信の部下になりたかった。
なぜだろう。自分でも分からないが、強くそう思った。
「影内、命の泉で傷を癒していいから、大人しくしていろよ。」
志信はそう言って、俺の脚を放してくれた。
もちろん抵抗する気はない。言われた通りに泉へ浸かる。
全身の無数の傷が、同時に癒えていく。
だが、今さら俺を治す意味があるのだろうか。
どうせ的盧に殺されると思っていたのに……違うのだろうか?
そんなことを考えていると、
「顔の傷を癒してやるから、動くなよ。」
志信が泉の水をすくい、俺の首から上にそっとかけてくれた。
頭の傷もみるみる癒えていく。
俺は親父の部下として反乱を起こした罪狼だ。
殺されても文句は言えない。
なのに、なぜここまで優しくしてくれる?
分からない。
だが、俺は志信から目を離せなかった。
志信、いや、志信様の部下になれば、側にいる事ができるだろうか。
的盧に殺されなければ、何とか頼み込んで志信様の部下にしてもらおう。
志信様の部下になれば、罪狼の俺が殺されずに済むかもしれない。そういう打算がなかったわけではない。
だがそれ以上に、なぜだか分からないが、俺は志信様の部下になりたいと強く思った。
傷が塞がったのを確認すると、志信様は「泉から出ろ」と命じた。
俺はだまって従う。
そして、「何か言いたいことがあるか」と聞かれたので、
「志信様、どうか俺を志信様の部下にしてください。」
俺はその場で土下座し、必死に願い出た。
「なぜ、俺の部下になりたいんだ?」
少し間を置いて、志信様が問いかける。
「俺は志信様に命を助けてもらいました。その恩返しがしたいのです。」
俺は必死に、志信様の役に立ちたいと訴えた。




