監視対象コード:BUG
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
重たい体を引きずるようにして次の対応場所に向かう。行きたくない、というのが本音だが、仕事上そんな訳にも行かない。今からでも有給取れないかな、と考えてみたがどうやったって無理だろう。嗚呼行きたくない。
_『監視人』、急いでください
無茶言うなよ、とは言えずにそれに「了解しました」とだけ返事をする。
さて、今日も今日とて変わらない。
「業務を開始します」
* * *
ふわりと目の前を、蝶が飛んでいく。
確認
監視対象コード:BUG(Original)
危険度:Low
友好度:High
BUG(Original)は比較的友好度の高い個体です。時折無害な鱗粉を撒き散らすようなことをするだけで、こちら側に対して攻撃の意図はないと思われます。またその鱗粉にも精神汚染系統の魔力が籠っていないことは確認済です。
ひらひらと差し伸ばした指先に止まった蝶に、BUG-1はどこにいるのか尋ねる。すると、まるで案内するように収容室の奥の方へと飛んで行ってしまった。
「バグ、バグ、どこにいるの?」
語りかけても反応は無し、ここまではいつも通り。
「バグ、美味しい軽食を持ってきたよ」
がさがさと事前持ち込み申請を出して許可を得て持ってきたバスケットを揺らして音を鳴らせば、収容室の奥からのそりと何かが動く音がした。その音の方向へと向かっていけば、毛布に包まっているBUG-1を発見した。眠そうに目を擦りながら、こちらをじっと見つめている。
確認
監視対象コード:BUG-1
危険度:Low
友好度:Low
BUG-1は比較的痩せ型の深紫色の髪をした少年型の異能種である。特徴的な黒メッシュは、どこぞのバンドマンを彷彿とさせるが、BUG-1にはバンドマンと言うより占い師の方が似合っているような気がする。失礼しました、個人の感想です。
「またおれに貢ぎ物?
『監視人』も飽きないねぇ」
「貢ぎ物じゃないよ、一緒に食べよ」
ケア行為に食事を持ち込むのを一々貢いでいる、と思われるのはなんとなく癪な気がする。ただ、こうして何かを持ってくるとBUG-1の感情度が上昇するので効率的なだけだ。
「しょーがないなぁ」
感情度の上昇を確認。
もぞもぞとベッドから降りてくるBUG-1は機嫌がいいのだろう。BUG-1は基本的にベッドから降りてくることはないが、こうして一緒に食事を取る時だけ起きてくる。慣れるまではベッドまで食事を届けに行っていたのが懐かしい。
_個人の感想は控えてください。
はい、申し訳ありません。
ですがBUG-1の成長を鑑みれば必要な追想だったと思われます。BUG-1の当方へのなつき度を思えば、例の話にも頷いてくれると思われます。
_ぜひ提案を
「ねぇバグ」
「ふぁに」
サンドイッチを食べながら、BUG-1は答えてくれる。信頼してもらえているのだろう。
「今度の健康診断の時、
採血の量をちょっと増やしたいんだけど、
協力してくれないかな」
BUG-1の様子を伺う。特に気分を害した様子はないようだ。もぐもぐとサンドイッチを咀嚼し、ごくりと飲み込む。その一連の動作に動揺は見当たらない。BUG-1は表情が読み取りづらい為、いっそ怒ってくれたり悲しんでくれたりする方が分かりやすいのだけれど。
「ふーん、じゃあこれ、
貢ぎ物じゃなくて賄賂な訳だ」
「…そういう訳じゃないよ。
私がバグと一緒に食べたかっただけ」
返答を間違えて拒まれても困る。BUG-1の血液には特殊な元素が含まれている可能性が高いとこの間の研究で分かった為その血のサンプルを上から持ってくるように言われているのだ。
「そうやって都合のいいことばっか言って、
いつか痛い目を見ても知らないからね」
そう言いつつ、デザートのフルーツサンドにまで手を伸ばしているBUG-1に、これは頷いてくれるだろうと確信する。
「ま、血くらいならいいよ。
その代わり、『監視人』の血をちょーだい」
動きを止めてしまう。こういう所がまだ自分でも甘いと思う。異能種からのこう言った要求は少なくない。それをどう断るかが腕の見せどころです。
「私の血なんて、使い道ないでしょ?」
「あるよ、きっと美味しいはず」
異能種にとって、人間を捕食するタイプは少なくない。BUG-1にそんな一面があることは今初めて知ったが、Originalが蝶であることから花の蜜のように思われているのだろうかと察する。
「私は花じゃないよ」
「知ってるよ〜?でも、美味しそう。
この間怪我してたでしょ?
あの時、美味しそうな匂いしてさ、
絶対美味しいと思うんだよね」
怪我をしていた、というのは前にFRILLに付けられた傷だろう。その時に会っていたような気がする。
「おれだって異能種だからね、
人を食いたいって思う時くらいあるさ」
報告、異能種には大小少なからず食人本能があると思われる。少なくとも、今のBUG-1の発言から察するにそれは血の匂いを嗅いだ時であったりするのが基本なのだろう。それでも、自分を差し出せるわけがない。気をそらさなくては、とポケットに入っていた飴玉を差し出す。
「ほら、これで我慢して?
協力してくれるなら、
もっといいご褒美用意してあげるから」
「例えば?」
また言葉につまる。
_体を差し出してでも協力をもぎ取ってください
「お風呂に、一緒に入る、とか…?
後は一日一緒にいるとかできるよ!」
最低な命令…げふん。上からの司令で、体液を渡す以外のご褒美を提案する。ただ、その中に気に入ったものがあったのか、BUG-1の感情度が上昇している。
「お風呂、お風呂いいね。
人間は裸の付き合いっていうんでしょ?
それに無防備な監視人なんて、
そうそう見れるものじゃないからね」
よりにも寄ってお風呂の方か…。まぁいい、好都合なことにBUG-1は少年型なため、一緒にお風呂に入ることにもあまり抵抗は無い。だがやはり裸になるということは無防備になるということだ、少し警戒してしまう。武器の持ち込みができない分、暴れられたら一巻の終わりだろう。
「じゃあ、献血に協力してあげる」
_流石です『監視人』
やかまし、…失礼電波が乱れました。
これで今日の用事は終わり、撤収作業に入ります。
一時的に通信機をオフにするため、緊急連絡の場合は館内放送にてお願いいたします。
《通信終了》
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「異能種と風呂ってどうよ」
ボヤいた先の『飼育員』は嫌そうな顔をした。
「ぜってぇやだ」
だよなぁ、と独りごちるが、決まってしまったものは仕方がない。それよりも、異能種の血なんて集めて何をする気なのだろうという興味の方が今は勝っている。
「どうせ碌でもないことに使うんでしょ」
「言えてる、また前線が忙しくなるな」
「緊急要請来ても知らんふりしよ」
今日は飲む気にもならない、と、二人で大人しく帰ることにした。




