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NBの50メートル戦線

 砂吹き荒れる街、太一が目の前に張った水色のシールドは、砂粒をいちいち払いのけなくても済むように守ってくれる。

 全景が半透明の薄水色に覆われた、廃れた街並みに、くっきりとノットバレットの姿が浮かんでいる。

 大型の人間、全長は2メートルを超す彼は両手の指と指の間にいくつもの工具を携えている。釘、ネジ、トンカチ、この街にもう発射(投げる)ものはほとんどないのだ。

「たく、もうこれしか残ってねぇぞ」

 ノットバレットは小さく呟く。彼の目前には青いシールドがないため、しゃべるごとに砂粒が口の中に入ってくる。よだれで絡め取って、砂まみれのアスファルトにゆっくりとらした。

 彼の目前の戦闘兵器。ロボットというには小さく、アンドロイドというには人間味を帯びている。アーマー、人間が体をフルに使って操作する、鋼鉄のスーツ。鋼鉄とはいうものの、材質は鋼鉄よりも柔軟でかつ丈夫である。

 太一の目の前の青いシールドに、黄色い電子文字が表示される。

{システムコード1}

// システムのバージョンのアップロードがまだ残っています

「今それどころじゃないだろ、スキップスキップ」

 太一は空中をスーツの指でスワイプした。電子文字は風に飛ばされて、次の文字を表示する。

// では、戦闘モードに入ります。

 スーツの中で赤い光が灯り、その光が緑に変わる。

// システム、オールグリーンです。

// 音声ガイダンスを使用しますか?

 太一は首を振ってその文字をスワプした。

「そんなことしたら、ハリウッドに怒られるだろ」

 太一の斜め後ろで、ロシナンテが膝間つく。フラタニティーの銃口を地面に押し当てていた。

「ここから200メートル離れたところで戦ってくれ」

「200? そんなにはなれるのか?」

「衝撃波は半端じゃないからな」

「その中心にいるお前が心配だ」

「俺は慣れてる。ちゃんと、ゴーゴルして、内臓を革ジャンでまもって、これでよし」

「目を守るのか」

 太一はグレンシアとの戦闘経験から、武器を使う時に目を守るのは閃光弾か衝撃波で目玉の損傷を受けないためだということを知っていた。ただ、ゴーグルで衝撃波からそこまで身を守れるのかといえば、おそらく違うというのも知っている。

「丈夫なんだよこれは、特注だ」

 ロシナンテは太一の考えを読んでいた。

 まあ、こいつなら大丈夫だろう。太一はノットバレットの方に向き直る。

「作戦会議は終わったのかぁ〜」

「お待たせ」

 太一はノットバレットに走り出す。

 ロシナンテとノットバレットとの距離は約50メートル。さきほど、手裏剣を投げはなった時はほんの少しの時間でロシナンテに着弾するところだったのを考えると、通常の銃弾とほとんど同じ速度と考えて一秒に360メートル。200メートル引き離しても、たった一瞬で狙撃してしまう。

 それに、まだこの速度がノットバレットの本領とも限らないのだ。その速度は果てしない。

 ただ、ロシナンテの言う200メートルの距離には、彼が攻撃を避けるために必要な最低距離が隠されている。

「おい、考え事をしながら走ってるんじゃねぇか?」

 ノットバレットが指で小さな釘を一つ摘んだ。

釘発射ショットネイル!!」

 また空気がノットバレットの手に叩きつけられる。銃弾とは通常火薬の破裂する勢いを一方行に定めて発射するものだが、彼の場合は空気をてで叩きつけ、その衝撃波を火薬の勢いの代わりにあらゆるものを撃ち放つというものだった。

 特に、今回のように小さな工具などは、その特徴を活かすことのできる銃弾となる。巨大ロボットや廃ビルなど、大きなものも発射可能ではあるものの、その体積を考えると戦闘における用途が全く違う。

 釘はまっすぐ鋭い方を太一に定めて直進して行った。

 秒速370メートルの釘。やはり、手裏剣の速度はまだまだ本領ではなかった。

「速度計算!」

 太一が自分のアーマーのヘルメットを人差し指で二回、こつこつ、と叩く。

 水色のシールドには、慌てたように電子文字が浮かび上がった。釘の速度を計算する。

// 標的、時速1332キロメートル

「なんで時速マイキロなんだよ」

 太一は人差し指でまたヘルメットを叩いたものの、シールドの電子文字が再び浮かび上がるまでに、放たれた釘が太ももめがけて飛んできていた。

「あらよっと」

 太一は軽く飛び越えてみせる。普通の人間には軽く飛び越えらえる速度でもなければ、いちいち計算してから悠長にヘルメットをつついていられる速度でもない。ただ、アーマーはその仕草を俊敏かつ丁寧に行える機能を備えている。

 その最高速度、時速3780キロメートル。一秒に600メートル

 架空上のアーマーならではの性能だった。

 ただ、架空上というだけで、異世界の人間を相手取ると、足元をすくわれることもある。

「こい、操舵そのままこい」

 ノットバレットは冷静に人差し指を動かしていた。

 太一の飛び越えた釘は、半径1メートルの半円を描きながらUターンして戻ってきていた。遠心力に速度を2メートルほど残してきて、現在368メートル。太一の背中の真ん中の背骨のさらに真ん中を狙い定めている。

// テンションプリーズ

// jampアクション

 太一のヘルメットのシールドに次の指示が現れる。本来なら音声ガイダンスに従い、もっと騒々しいバトルになるはずであったが、太一はこの能力を使うとき元ネタにとても気を使って一度も音声ガイダンスを使用したことはなかった。

 アーマーの足の裏、蜂の姿のジェットエンジンがついている。太一が右足を踏み出したとき、彼のエネルギーを抽出して空へと駆け上がる。

 釘が太一の足元を通過していく。

 ノットバレットと目が合った太一は一瞬の間に会話をしていた。

「甘い甘い」

「まだまだだぁ」

 ノットバレットが両手を振り抜いた。その腕に空気が叩きつけられ、大きな破裂音がする。全身を使った攻撃は、手元の工具を全て放り投げ、ゆうに銃弾の速度を超えるスピードで太一を狙っていた。

 釘が軽い曲線を描いて、四方八方から太一を目指す。周囲を釘が囲ったら、トンカチが縦回転しながら直進している。

 大ノコギリが縦に回りながら、トンカチを追い越して太一の肩に迫る。

「囲まれたか」

 太一がノコギリを回避すれば、周囲の釘が彼を狙う。周囲の釘を回避すれば、おそらく正面の大ノコギリが迫り来る。

 太一自身、瞬く間に行動してはいるが、それはやみくもではない。自分が走り出して飛び上がったスピードもあり、音速を超える物質と正面衝突すればどうなるのか、容易に想像もつく。

 あえて被弾して、その衝撃波を利用する。というのも確かに手だ。

 ただ、それには相手の銃弾(工具)がどれほどの強度かということも重要で、音速に耐えるノコギリが縦回転しているとなるとノコギリはよほどの強度で、その後ろにあるトンカチにはさらなる警戒を敷かなければならない。

 太一は周囲の釘を先に処理することに決めた。

「おい、フィガー。俺の新技に対応してくれよ」

// ok.

 フィガーと、自分のアーマーを呼ぶ。おそらく、このアーマーには下の名前があって、勝手に戦闘に使っているものだから、気安く呼びつけたりしないのだろう。

 太一は腕を前に交差させ、周囲の釘に狙いを定める。

「Xバースト!」

 太一の手のひらから、透明な純度のたかそうなエネルギーが放出される。よしきの『Xバースト』よりも柔らかい曲線で、まるで流水のように溢れ出てくる。ただし、その勢いは鉄砲水で、せせらぎというには力ず良かった。

 周囲の釘をエネルギーの波で蹴散らす。

 しかし、『Xバースト』はそれだけではなかった。アーマーは大きなエネルギーを手のひら方だけで放出したらず、全身に備えられたエンジンからも解き放った。周囲の砂塵を巻き上げながら、透明なエネルギーの波が広がっていった。

 太一の体を『Xバースト』が前に押し出す。迫ってきていたノコギリが肩に命中して後ろの方に飛んで行った。

 太一は『やられたぁ』と右肩を触るものの、アーマーには傷一つない。ヘルメットの中のグリーンライトも、正常の証拠だった。

「びっくりしたぁ」

// 情報をアップデート。次は確実に対処します。

 残るは目の前にあるトンカチだ。ずっと低空で縦回転しながら、太一の膝を狙っている。これなら避けれそうだと、太一はたかをくくった。

 しかし、そのトンカチを投げたのは、仮にも一団体のトップを務める人間で、その団体は戦闘力がものを言う世界だ。もちろん、ノットバレットはただトンカチを投げたわけではない。

「そろそろだぁ〜」

 ノットバレットが足を踏み込む。大柄の彼が足を踏み込むことはあまりないのだが、今回彼が仕掛けたのは、踏み込まなければ彼にも対処しきれないものだった。

 太一の体が、じりじりと前に引き寄せられる。

「な、なんだ」

// 引力を確認。

 太一がノットバレットを観察しても、特に太一を引き寄せているものがあるとは思わなかった。それなのに、まるで太一のアーマーに糸がついて、ノットバレットが引き寄せているかのように、太一の足元は距離を詰めていく。

 地面に太一を引きずる跡が数センチできた時、太一はノットバレットの周囲にとある現象を見つける。

「砂が、集まっている?」

 それだけではない。大きく叩きつけられた空気は、破裂と共に外へと拡散して、その場には一瞬の真空ができる。しかし、惑星にとどまる空気が大気圧と共にその空気を押し戻すのだ。

// アテンションプリーズ

「どうした!?」

 急速に、太一が前へと押し出される。太一のアーマーに糸が繋がっていたわけでない、太一の背中を大気圧が強く押していたのだ。

 それも、大気が彼らを握りしめように、あたりの空気が一点に集中する。その先には、ノットバレットがいた。

 だが、その一歩前に、まだトンカチが下を転がっている。

 太一は前に仰け反りながらも、身を任せてその上を飛び越えていった。

 しかし、その行動はノットバレットの計算通りとなる。

 ノットバレットが、自分指に金色のコインを挟み込む。

 クシャリ。

 コインが折りたたまれた。

 ノットバレットが親指でコインを弾き飛ばす。

 太一の顔の前の水色のシールドに命中した。

 シールドの電子文字が乱れ、シールドの右目の下あたりが小さくかける。コインはするどく後ろの方に跳ねて行ったものの、またUターンして戻ってきていた。ノコギリも付いてくる。

 だが、曲者は足元のトンカチだった。トンカチは急に地面と接触したと思うと、バウンドして持ち手とカナの四角い部分が外れてしまった。

 太一の腹をめがけて、トンカチの四角い鉄の部分が飛んでいく。

「チェックメイトだ」

 ノットバレットが指で武器を遠隔操作する。彼の投擲した工具を操作する術は、ロシナンテや太一が銃弾を曲げることができるもののと同じ技術だった。

「!?」

 太一を腹から、トンカチのカナの部分が上昇してくる。太一を真上に持ち上げて、そのうち貫通できずに、アスファルトに戻っていった。

 後ろからノコギリとコインが追撃する。

 太一は体制を切り返して、手のひらから『Xバースト』を解き放った。今度は、身体中のエンジンからエネルギーが漏れ出すようなことはなかった。

 太一は腹をさすりながら、

「何てことしやがる」

 ノットバレットは髭を触りながら興味深そうに尋ねた。

「全然きいとらんなぁ」

「当たり前だ」

 太一は腰のビームサーベルのつかをりだした。

 ぶぉん。

 と、熱い青のビームがサーベルになる。

 太一の眼下でノットバレットが仁王立ちをしていた。

「もう本当に投げるもんがないぞ」

「なら、あきらめて逃がしてくれるか?」

「だめだ。きちんと赤い宝石は渡してもらわないとな」

「元々、別の所有者のものだろ?」

 ノットバレットが冷静に首を振る。

「いいや、あれは下から盗まれたもんだ。俺の祖先が、あのディオグラディティ本人と一緒にあらゆる開発に取り組んでいた時、どういうわけか祖先だけこの街に坑道を構えて研究を離脱したそうだ」

「祖先が、左遷ってか?」

「いやいや……笑い事じゃない。ワンダージュエルとは、その祖先がこの街で発掘したものだと言われている。だからこそ、私はワンダージュエルを取り返さなければならないのだ」

「ここで掘れるならここで掘ったらいいじゃないか」

「それがなぁ〜、ちっとも掘れんのじゃぁ〜」ノットバレットは仁王立ちを崩して大きな手を大きな体の頭の後ろに持ってきた「今となっては伝説と言われてる」

 ノットバレットがしれっとポケットから五寸釘を取り出す。

 太一がビームサーベルをその五寸釘を持つ手に向ける。

「こら、気づかないと思ってんのか」

「もう俺の手元にはこれくらいしか投げるものはない。だが、さっきからお前のそのアーマーにはまるでダメージがな。つまり、これを俺が本気で投げても聞くかどうか」

「嘘だろそれ。勝てないなら挑まねえぞ普通。馬鹿でかいロボット投げやがって」

「その姿になる前に無事反撃できたのは、想定外だ」

 ノットバレットとの会話が続くにつれ、太一は彼のおとなしい性格が見えてきた。声は先ほどから一度も荒らげられておらず、大きな体は敵としてロマンには溢れるが、今の彼が敵とは太一は思えなかった。まるで、人生の先輩。そのような印象を観るものに与える。

「どうした? 反撃しないのか?」

 ノットバレットが太一に質問を投げかける。

「だって、投げるもんないだろ?」

「いいや、それじゃだめだ。お前はみたところ新人のようだが、もしかしたら俺が嘘をついてるかもしれねぇ。逆言えば、武器さえあればなんでもいいかもしれねぇ。こんな廃ビル街でも、俺にとっちゃ武器の宝庫だったんだ、だから土地ごと買ってんだよ」

「お前の敷地かここは」

 ノットバレットは太一に警戒を進めるものの、その場にあぐらをかいて座り込んでしまった。

「で、そんなことより。お前は俺をロシナンテから200メートル引き離せてないぞぉ〜? まだ50メートルから動いてすらない」

 太一はそう言われて足元を見た。確かに、ノットバレットがいた場所はまるで変わっていない。つまり、動くまでもなく、太一を迎撃していたのだ。そのまま後ろを振り返ってロシナンテを見た。彼はまだエネルギーを充填している。

「おい、振り返ってる場合か。俺が前にいるのにぃ〜」

「いるのにぃ〜って言われても、何もしてこないだろお前」

 どんっ!

 ノットバレットが大地に右手で鉄槌を下した。太一を一瞬で警戒体制にする。

「おれは、投げるぞ?」ノットバレットは五寸釘を眼の前に出し、ゆっくりと指の上に乗せる「この釘をおれが全力でロシナンテに投げたとしよう。あいつの隣にいたお前なら防御できたかもしれないが、目の前にいるお前にその猶予はあるのか?」

 太一は、はは〜ん、と感心して、

「だからさっきから余裕だったのか」

「目的は覚えてるからなぁ〜」

「だけど、お前はハナから勘違いしている。お前がおれに勝てないって言うんなら、別に俺たちは逃げる必要なんて全くないんだぜ?」

「う〜ん。さっきも言っただろ、おれは嘘をついてるかもしれないぞと」

 ノットバレットは前かがみになって、地面に手をついた。

「よいせっと」

「なんだよ、相撲か?」

「投げる」

 次の瞬間。ノットバレットが、足元のアスファルトをひっくり返したのだ。太一の目の前には、砂まみれの黒い大地がせり上がり、瞬く間に押し戻されてしまう。ノットバレットの姿を視界から外してしまったのだ。

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