表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/89

ノットバレット・銃を持たない戦艦

 大きな影が、古びた街に降り立った。


 風が吹く。砂漠の砂が運ばれたのは、廃ビルのみとなったかつての鉱山街。山の上に大きな大地が広がって、コンクリートで出来た街だった。砂を被った廃ビルが乱立する、広い街だった。

 下には、相変わらず鉱山が眠っていて、異世界ならではの鉱石を発掘できる。だが、現在は銃販売カルテルのみが独占する。

 この街の大通り。十文字に広がる、車道。砂まみれで、コンクリートの灰色は茶色くなっていた。歩けば足元は砂つぶの音で、革靴に細かい傷をつけた。

 大通りの角に、二人の影。

 太一とロシナンテだ。


「近づいていいのか? さっきはダメって」

「ああ、もう宝石は壊したからな。その代わり、弾薬には触るなよ」


 太一は拳銃をしまい、ヘリが突っ込んだ廃ビルのエントランスに足を突っ込んだ。完全に倒壊した建物は、壁すらほとんど残っていない。

 ロシナンテが周辺を見て回る間に、太一はヘリの調査を始めた。


「ほぉ〜。すごいな、これがエクレツェアの技術」

「太一、おまえは詠嘆のエクレツェアについて回ってんのに、見当違いもいいところだ」

「何が見当違いだ、何度も再生する兵器なんて、聞いたことあるのか?」

「その技術、それはあくまでもディオグラディティが開発したもんだ。エクレツェアのもんじゃねぇだろ」

「は? でもここはエクレツェアだろうが」

「あいつは、この世界の機関から完全に独立してる」

「あ、今わかった。いろんな世界の技術を混ぜてるってことか」

「そう、正解だ」


 太一は、青やら銀やら黒やら、きらびやかなバトルスーツを着ていた。倒した戦闘ヘリの前に屈み込むと、操縦席の退くに手を突っ込む。動作に合わせて、タイトはスーツは伸縮性をみせた。

 座席に転がっていた、ワンダージュエルの破片を手に取る。砂漠の太陽に照らしながら、目を細めて眺めていた。

 赤く、するどく光る。


「おい、その宝石は一応放射線が出てるぞ」

「バカッ!! 早く言え!」

 太一はワンダージュエルを投げ捨てる。

「たいした量じゃない。ただ、ずっとは持つな」

「なんでおまえは、そんなにびっくりどっきりサプライズが好きなんだよ」

「エクレチアン文化、ってことでな」


 ロシナンテが太一の脇腹を突っつく。黒い部分を引っ張った。伸縮性がある。


「こそばい!」

「見ろ、これもおそらく、ディオグラディティのバトルスーツだ」

「え? これも?」

「ああ、十中八九な」

「再生すんのか?」

「おまえ次第だ」


 太一はワンダージュエルを踏みつけながら、黒い革靴で戦闘ヘリを離れた。

 床のタイルは正方形で、白だ。

 二人の歩く音が交差しながら、顔についた砂つぶを腕でぬぐっていた。


「太一、囲まれてるか?」

「おまえもわかるか?」


 廃ビルのエントランス。事務所だったのか、入り口の受付前に、太一とロシナンテは背と背を合わせた。

 太一の黒髪から垂れた汗が、カウボーイの革の服に滴る。


「一発も当たるなよ、太一。劣化物質の弾薬だ」

「かなり遠いな。何を伺ってるんだ?」

「いいか太一、一つだけ言っておかないといけないことがある」

「どうした?」

「姿の見えないカウボーイほど、この世界でやばいのはない」


 突然、周辺が暗くなった。後ろの方から、影がそっと伸びてきて、丸いスポットなる。

 砂つぶは、どよめいていた。


「影?」

「上だ!!」


 太一たちを、丸くて暗い影が覆う。

 炎天下の砂漠、廃ビルに囲まれて、同じ景色をもう一度見ることとなるとは思わなかった。

 頭上にある大岩に、再び気をとられる。


「隕石!? またかよ!!」

「違う! 大きいがただの岩だ」


 ロシナンテが銃龍フラタニティーを抜いた。茶色くてゴツゴツした大岩に、一発だけ撃ち放つ。

 小さい銃弾が命中すると、衝撃と共に大きく砕け散った。


「太一、またって、どいういうことだ」

「聞いてないか? これの倍くらいのやつが、デザート大学に降ってきた」

「ああ、今朝のアレか……それじゃあ多分」

「多分? 何が?」


「次はビルだ」


「はい!?」


 地面が揺れた。地震ではない。

 影が伸びる。丸いものではない、長方形の、とがったものだった。

 窓ガラスに反射した光が、太一たちに降りかかる。


「よくわかったなぁ」


 砂を被った廃ビルが、手のひらで飛び跳ねる。ゴツゴツとして大きな日焼けの手は、軽々とビルを投げ飛ばしていた。

 砂つぶが降ってくる。

 大きな長方形の影が、大通りで上下する。小さな人影が、足元で手首だけ降っていた。

 車道の真ん中をあるてきたのは、赤と黒の髪の毛を持つ、大男。だが、ビルに比べると、たかが2メートル前後に人間であった。

 赤いジャケット、胸をさらけ出して、オレンジの胸毛が見えていた。鍛え抜かれた上半身。胸の筋肉と、腹筋の筋。線を書いたようにはっきりしていた。


「わかったことを、よしとするか。どうするか」


 赤と黒の髪の毛の大男は、廃ビルを手元ではねさせた。どうやら、引き抜いたようで、手元には支柱が伸びている。

 角っこを右手で掴んで、廃ビルを持ち上げていた。

 ズシィン。


「たとえ良かったとしても。逃げなかったのは、よくないなあ」


 ロシナンテは彼を見て震えた。

 ノットバレット。目の前にいるのがそうだ。


「おい、ビル持ってんぞ……ロシナンテ」

「銃を持たない戦艦……」

「そうだろ? ロシナンテ、偽物のワンダージュエルなんか渡しやがってヨォ」

「俺は本物を渡したはずだ」

「こいつ一体誰だ!! ワンダージュエルはお前が盗んだんだろ」

「お〜、盗んではくれたようだな」

「しらねぇ、あれが本物のはずだ」

「じゃあ、どこにあるんかなぁ。ロシナンテ」


 ノットバレットは、ビルの角っこを上に放り投げた。支柱を掴んで、持ち直す。剣でも持つかのように、廃ビルを持ち上げた。

 両手を伸ばして、大きくあくびする。

 廃ビルは、隣のビルに突き刺さった。


「ふわあああああ、ねむ……」

「ふざけてんのか、あいつは」

「なめてるんだろうな」

「ふわあ、ワイズに取られたか? 初めからいえば、許してやるのにヨォ」

「取られた……って、お前、人のもんとっておいて取られてんのかよ」

「今それどころじゃないだろ」

「やっぱり、運び屋なら、トーやとかに頼んだほうが良かったかなぁ」


 トーや、太一には聞き覚えのある名前だった。一番最初、極東の国で初めて戦った異世界人。マリを連れ去った。

 ズコっ。

 ノットバレットは、隣のビルに刺さっていたビルを引き抜いた。砂つぶと瓦礫が、パラパラと降ってくる。


「あいつ、やっぱりこの世界にいるんじゃねぇか」

「さて、どうする。ロシナンテ。ジュエルの場所を教えるのか」

「断る」

「ここで散るか……聞くまでもないな」

「勝手に戦いに巻き込まないでもらえるか、ロシナンテ」

「乗り掛かった船だろ、一番でっかい負けがもらえるぞ?」

「チームエクレツツェアのきみぃ、撤退を進める」

「親切だな、半分マフィア」

「威勢良ぉ〜し」


 ノットバレットの後ろに、ヘリのプロペラ音が聞こえた。砂を舞い上げ、大通りの砂を全て吹き飛ばしてしまった。初めて、グレーのコンクリートがさらけ出された。


 ドシィン、ドシィ、ウィーン……


『錬成・戦闘ヘリWW9(ダブリュダブリュナイン)』

『錬成・攻殻ヘリ・アキナV6(ぶいしっくす)』


 戦闘ヘリ、二機。


 太一は後ろに後ずさった。かかとに、先ほど倒した強敵な戦闘ヘリがぶつかる。


(ちぃ、やっぱりこの世界にはまだ慣れねぇな)

「やっぱり、俺逃げてもいいかな?」

「ふぅ〜、雑魚にも手はぬかねぇ」

「太一、こういう状況をなんていうか知ってるか?」

「さあ、背水の陣?」

「絶体絶命だ」

「ふわぁ、窮鼠猫を噛む、とも言うなぁ」

「「誰がネズミだ馬鹿野郎」」

「いさぎよぉ〜し」


(さっきの戦闘ヘリが二機……よしきのやつ、オレたちを囮にしやがったな)


 プロロロロロロロロロロロロ……


 エクレチアンには、ヘリコプターの風が吹く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ