ノットバレット・銃を持たない戦艦
大きな影が、古びた街に降り立った。
風が吹く。砂漠の砂が運ばれたのは、廃ビルのみとなったかつての鉱山街。山の上に大きな大地が広がって、コンクリートで出来た街だった。砂を被った廃ビルが乱立する、広い街だった。
下には、相変わらず鉱山が眠っていて、異世界ならではの鉱石を発掘できる。だが、現在は銃販売カルテルのみが独占する。
この街の大通り。十文字に広がる、車道。砂まみれで、コンクリートの灰色は茶色くなっていた。歩けば足元は砂つぶの音で、革靴に細かい傷をつけた。
大通りの角に、二人の影。
太一とロシナンテだ。
「近づいていいのか? さっきはダメって」
「ああ、もう宝石は壊したからな。その代わり、弾薬には触るなよ」
太一は拳銃をしまい、ヘリが突っ込んだ廃ビルのエントランスに足を突っ込んだ。完全に倒壊した建物は、壁すらほとんど残っていない。
ロシナンテが周辺を見て回る間に、太一はヘリの調査を始めた。
「ほぉ〜。すごいな、これがエクレツェアの技術」
「太一、おまえは詠嘆のエクレツェアについて回ってんのに、見当違いもいいところだ」
「何が見当違いだ、何度も再生する兵器なんて、聞いたことあるのか?」
「その技術、それはあくまでもディオグラディティが開発したもんだ。エクレツェアのもんじゃねぇだろ」
「は? でもここはエクレツェアだろうが」
「あいつは、この世界の機関から完全に独立してる」
「あ、今わかった。いろんな世界の技術を混ぜてるってことか」
「そう、正解だ」
太一は、青やら銀やら黒やら、きらびやかなバトルスーツを着ていた。倒した戦闘ヘリの前に屈み込むと、操縦席の退くに手を突っ込む。動作に合わせて、タイトはスーツは伸縮性をみせた。
座席に転がっていた、ワンダージュエルの破片を手に取る。砂漠の太陽に照らしながら、目を細めて眺めていた。
赤く、するどく光る。
「おい、その宝石は一応放射線が出てるぞ」
「バカッ!! 早く言え!」
太一はワンダージュエルを投げ捨てる。
「たいした量じゃない。ただ、ずっとは持つな」
「なんでおまえは、そんなにびっくりどっきりサプライズが好きなんだよ」
「エクレチアン文化、ってことでな」
ロシナンテが太一の脇腹を突っつく。黒い部分を引っ張った。伸縮性がある。
「こそばい!」
「見ろ、これもおそらく、ディオグラディティのバトルスーツだ」
「え? これも?」
「ああ、十中八九な」
「再生すんのか?」
「おまえ次第だ」
太一はワンダージュエルを踏みつけながら、黒い革靴で戦闘ヘリを離れた。
床のタイルは正方形で、白だ。
二人の歩く音が交差しながら、顔についた砂つぶを腕でぬぐっていた。
「太一、囲まれてるか?」
「おまえもわかるか?」
廃ビルのエントランス。事務所だったのか、入り口の受付前に、太一とロシナンテは背と背を合わせた。
太一の黒髪から垂れた汗が、カウボーイの革の服に滴る。
「一発も当たるなよ、太一。劣化物質の弾薬だ」
「かなり遠いな。何を伺ってるんだ?」
「いいか太一、一つだけ言っておかないといけないことがある」
「どうした?」
「姿の見えないカウボーイほど、この世界でやばいのはない」
突然、周辺が暗くなった。後ろの方から、影がそっと伸びてきて、丸いスポットなる。
砂つぶは、どよめいていた。
「影?」
「上だ!!」
太一たちを、丸くて暗い影が覆う。
炎天下の砂漠、廃ビルに囲まれて、同じ景色をもう一度見ることとなるとは思わなかった。
頭上にある大岩に、再び気をとられる。
「隕石!? またかよ!!」
「違う! 大きいがただの岩だ」
ロシナンテが銃龍を抜いた。茶色くてゴツゴツした大岩に、一発だけ撃ち放つ。
小さい銃弾が命中すると、衝撃と共に大きく砕け散った。
「太一、またって、どいういうことだ」
「聞いてないか? これの倍くらいのやつが、デザート大学に降ってきた」
「ああ、今朝のアレか……それじゃあ多分」
「多分? 何が?」
「次はビルだ」
「はい!?」
地面が揺れた。地震ではない。
影が伸びる。丸いものではない、長方形の、とがったものだった。
窓ガラスに反射した光が、太一たちに降りかかる。
「よくわかったなぁ」
砂を被った廃ビルが、手のひらで飛び跳ねる。ゴツゴツとして大きな日焼けの手は、軽々とビルを投げ飛ばしていた。
砂つぶが降ってくる。
大きな長方形の影が、大通りで上下する。小さな人影が、足元で手首だけ降っていた。
車道の真ん中をあるてきたのは、赤と黒の髪の毛を持つ、大男。だが、ビルに比べると、たかが2メートル前後に人間であった。
赤いジャケット、胸をさらけ出して、オレンジの胸毛が見えていた。鍛え抜かれた上半身。胸の筋肉と、腹筋の筋。線を書いたようにはっきりしていた。
「わかったことを、よしとするか。どうするか」
赤と黒の髪の毛の大男は、廃ビルを手元ではねさせた。どうやら、引き抜いたようで、手元には支柱が伸びている。
角っこを右手で掴んで、廃ビルを持ち上げていた。
ズシィン。
「たとえ良かったとしても。逃げなかったのは、よくないなあ」
ロシナンテは彼を見て震えた。
ノットバレット。目の前にいるのがそうだ。
「おい、ビル持ってんぞ……ロシナンテ」
「銃を持たない戦艦……」
「そうだろ? ロシナンテ、偽物のワンダージュエルなんか渡しやがってヨォ」
「俺は本物を渡したはずだ」
「こいつ一体誰だ!! ワンダージュエルはお前が盗んだんだろ」
「お〜、盗んではくれたようだな」
「しらねぇ、あれが本物のはずだ」
「じゃあ、どこにあるんかなぁ。ロシナンテ」
ノットバレットは、ビルの角っこを上に放り投げた。支柱を掴んで、持ち直す。剣でも持つかのように、廃ビルを持ち上げた。
両手を伸ばして、大きくあくびする。
廃ビルは、隣のビルに突き刺さった。
「ふわあああああ、ねむ……」
「ふざけてんのか、あいつは」
「なめてるんだろうな」
「ふわあ、ワイズに取られたか? 初めからいえば、許してやるのにヨォ」
「取られた……って、お前、人のもんとっておいて取られてんのかよ」
「今それどころじゃないだろ」
「やっぱり、運び屋なら、トーやとかに頼んだほうが良かったかなぁ」
トーや、太一には聞き覚えのある名前だった。一番最初、極東の国で初めて戦った異世界人。マリを連れ去った。
ズコっ。
ノットバレットは、隣のビルに刺さっていたビルを引き抜いた。砂つぶと瓦礫が、パラパラと降ってくる。
「あいつ、やっぱりこの世界にいるんじゃねぇか」
「さて、どうする。ロシナンテ。ジュエルの場所を教えるのか」
「断る」
「ここで散るか……聞くまでもないな」
「勝手に戦いに巻き込まないでもらえるか、ロシナンテ」
「乗り掛かった船だろ、一番でっかい負けがもらえるぞ?」
「チームエクレツツェアのきみぃ、撤退を進める」
「親切だな、半分マフィア」
「威勢良ぉ〜し」
ノットバレットの後ろに、ヘリのプロペラ音が聞こえた。砂を舞い上げ、大通りの砂を全て吹き飛ばしてしまった。初めて、グレーのコンクリートがさらけ出された。
ドシィン、ドシィ、ウィーン……
『錬成・戦闘ヘリWW9(ダブリュダブリュナイン)』
『錬成・攻殻ヘリ・アキナV6(ぶいしっくす)』
戦闘ヘリ、二機。
太一は後ろに後ずさった。かかとに、先ほど倒した強敵な戦闘ヘリがぶつかる。
(ちぃ、やっぱりこの世界にはまだ慣れねぇな)
「やっぱり、俺逃げてもいいかな?」
「ふぅ〜、雑魚にも手はぬかねぇ」
「太一、こういう状況をなんていうか知ってるか?」
「さあ、背水の陣?」
「絶体絶命だ」
「ふわぁ、窮鼠猫を噛む、とも言うなぁ」
「「誰がネズミだ馬鹿野郎」」
「いさぎよぉ〜し」
(さっきの戦闘ヘリが二機……よしきのやつ、オレたちを囮にしやがったな)
プロロロロロロロロロロロロ……
エクレチアンには、ヘリコプターの風が吹く。




