銃龍(じゅうりゅう)フラタニティー
ロシナンテのバンダナはたなびいた。
目の前の戦闘ヘリは、先ほどの経験を踏まえて、さらなる装甲を錬成していた。鋼色のメタリックな機体は、プロペラひとつとっても名刀だ。
ボディーに、太一の顔が反射する。きらびやかなバトルスーツは青が目立っていた。カウボーイの隣で、口まわりの汚れを払う。
「どうするんだ、戦闘ヘリ(蚊)なんて聞いたことねぇよ」
「カウボーイ、特に南に住む人間はこういう。負けるなら一番でかい負けを」
「負ける前提の話か?」
「いんや……」
ロシナンテは腰から新たな銃を取り出した。赤くて、ゴツゴツした、銃口が食らいつくような形をしたそれを。
「できるだけ大勝負にしろってことだぜ?」
戦闘ヘリの頭頂部が光る。緑のセンサーで、ロシナンテの武器をスキャンした。
『国家重要危険物、確認。データを解析します』
「は!? 国家重要危険物? それのことか?」
「ああ、これは戦利品だ。安くはなかったがな」
『特定、銃龍と確認』
「また、大層な名前を……」
「かっこいいだろ?」
『ヘリの戦闘力を10段階上昇させます』
また、戦闘ヘリの周りを青い光が覆い隠した。嵐のように渦が巻き起こって、ハイビルくらいの高さでは見下ろせないほどだ。
光という軽い物質なだけあってか、あたりの砂粒は舞い上がらない。極めて平静な大地に風が吹く。
ロシナンテの汗が滴った。
「こいつを倒すには、ワンダージュエルの場所を割り出さないといけねぇ」
「どうやって!?」
「俺は逃げる、しばらく時間を稼いでくれ」
戦闘ヘリの錬成が終わる。青い光は蛍のように散っていった。
姿を現したのは、ヘリのコックピットに四つ足がついた、鋼色の機体だ。足それぞれが五本指の精密な構造で、ワイヤーとモーターが見え隠れしていた。
「まさか、四速歩行!?」
「いいや、二足歩行だコイツァ」
戦闘ヘリは前を足を上げて立ち上がった。戦闘ヘリの後ろに続く小さなプロペラを、尾びれのようにしてバランスを取っている。
「キモいキモいキモい!」
「いいから時間を稼げ! 後は頼んだぞ!」
『戦闘を、開始します』
ロシナンテは砂にまみれた大通りを後ろに走っていく。太一は彼と戦闘ヘリを交互に見合って、銃を構える。白い時計型のフィガーに手を触れた。
戦闘ヘリは鋼色の両手の平を、太一に掲げる。
『錬成・アトミックレーザー』
戦闘ヘリの五本指は、手のひらから尖ったドリル状の装置を錬成した。青い光で覆われた後、でてきた頃には、緑色の電気をまとっている。
細くて赤いレーザーで照準を合わせた後、緑に輝く御柱のようなレーザービームを太一に照射した。
「オメガブースト!!」
太一の背中に、三角型のジェットエンジンが生えてきた。例えるなら三角蝿のような、小回りの効く小さなエンジンと金属の羽根である。
エンジンは二機搭載されいる。太一の両脇で、ぼしゅぅ、ぼしゅぅ、と断続的に点火することで小回りを現実した。
太一がエンジンで体をひねるながら左には寝る。緑のレーザービームは、手元の小回りに任せてぐるぐると追いかけた。前後にレーザービームを揺さぶりながら、太一は砂煙をあげて後方利に立つする。
『錬成・五本指・烈火弾』
「獅子・銃弾舞踏会』
戦闘ヘリは両腕を伸ばして、指先を筒状に錬成した。青い光から解き放たれると、煙が上がって銃身に変わる。真っ赤な火花を散らし、巨大な砲弾を太一に撃ち放つ。
太一は三角のエンジンで、右に回転しながら銃弾をかわす。砂埃を舞い上げ、それを貫くように低空飛行を続けた。青い二丁拳銃から、赤い銃弾を連射する。
太一の銃弾は、ヘリの鋼をたやすく貫いた。
『メインパネルの破損。戦闘力を3段階上昇』
「まだ上がるのか!?」
『固定砲台ヲ、43機、錬成シマス』
人型になった戦闘ヘリは、足元に両手をついた。手の部分を離脱して地面に置いてくると、また両手を青い光で錬成する。
鋼の両手が完成した時には、地面の機械の両手は、黒い固定砲台を背負った苔のように広がっていた。その数、43機。
「そんなの反則だろ!!」
『右腕を、投げます』
「は!?」
人型戦闘ヘリは、左腕で右腕を離脱させ、太一に投げつけた。精密な五本指は、肩の部分と遠心力で縦回転する。廃ビルをかすめて壁を砕きながら、大通りを突き進む。
小回りの効く太一には、あくびが出る程度のスピードだった。横に回転しながら、低空飛行でひらりと避ける。真横を五本指が通りすぎていった。
「レオ・マスカレイド」
『錬成・追尾型爆弾』
両手の銃を構えた太一の後ろ。砂にまみれたアスファルトをひっかく音がした。鉄の五本指が、大通りに爪を立てて、飛びすぎた勢いを殺している。
まるでカエルが跳ねるように、手首を返して太一を追いかけ始めた。機械のパーツの隙間から、赤く輝く光が溢れる。
「やっぱりキモいキモいキモい!!」
『銃龍の居場所を計算します。錬成・探知機』
「お前の相手はこっちだろうが!!」
太一は戦闘ヘリを背に、後方へとエンジンを吹かせた。前方に迫る右腕に、二丁拳銃を連射しながら、戦闘ヘリとの距離を一気に詰める。
粉塵が舞いながら、右回転のきりもみ低空飛行。右の羽根が地面のアスファルトをかすめた。
「反撃するから覚悟しろよ!」
『アトミックレーザー』
「バーストアップ!」
太い緑のレーザービーム二本、太一を明るく照らす。粉塵舞い上がる舞台上に、緑の照明が交差するようだった。
粉塵の中で、太一は赤く輝く。ふわりと柔らかい光をまとった。
その途端、スピードが一気に加速する。
「天翔ける・2000万馬力!」
太一の両脚に機械のアーマーが生えてくる。足音は、鉄の棍棒を多々行き着けるような、重い音になった。
脚力は反比例して軽くなり、大通りを蹴って廃ビルに飛び移る。さらに、戦闘ヘリの右腕に足をついた。
「うん、図体がでかい」
『迎撃します。固定砲台』
地面の固定砲台が、太一を下から射撃。赤い銃線は、流れ星のように早く、粉塵を貫く。彼は右腕を走り抜けて、戦闘ヘリのプロペラを飛び越えた。
太一は翼のエンジンを吹かしながら、空中で逆立ち。左腕に降りるまでに、操縦室を連続で射撃。体をひねって着地する。
また、期待に穴が開く。
太一は銃を両手で構えた。透明で純粋なエネルギーを、体に充填始めた。
『ボディを修復します』
「おせーな、Xバー……」
『錬成・アイアンソード』
「くっ! Xバースト!!」
だが、戦闘ヘリは、右腕で自分のプロペラを引き抜いた。鋼の剣にして、機械の左腕に振り下ろす。機体の左肩がばっさり切れて、腕が宙に浮いた。
太一は透明なエネルギーの塊を、その剣と左腕に叩きつける。透明な洪水が、機械の左腕を吹き飛ばした。
上空に硬い部品が飛び散っていく。
「まだか!? ロシナンテ!」
「OK〜、そろそろしかける」
『追尾爆弾』
太一の乗っていた左腕を、後ろから追いかけていた右腕が握りしめた。強く赤い輝きは、今にも爆発してしまいそうだ。肩の部分を地面に着いて、器用に左腕を持ち上げていた。
太一は足を挟まれる。
「こ、こいつ!!」
『爆発まで2秒、1秒!』
「ミズノさん、転送を!」
——間に合いません——
「諦めるなよ!!」
『ゼロ……』
追尾爆弾になった右腕は、カッ、と赤く光った。
太一は足を引き抜き、エンジンを点火したも、まだ光の真近だった。足で機械の腕を踏んづけて、飛び上がるその瞬間だった。
「銃龍・龍の銃弾」
バンッ……!!
太一は走馬灯を感じていた。極東で戦った懐かしいあの頃を、じっとりと、砂にまみれたこの街に投影している。
赤い光の中、砂埃の廃ビルは、極東の白いモダンな高層ビルに思えて。戦闘ヘリと砂つぶが擦り合う音も、車道を走る車に聞こえていた。
鈍い、重い音が、一発の銃声だとわかるまでに。なんでも街に轟いている。
大きな音。銃声にしては、絶対にないほどおきなお音だ。
まるで、大砲のような。
まるで、雄叫びのような。その声を。
「踏ん張れ太一ぃ!!」
「はっ!! ロシナンテ!」
「逃げるな! 走れ!!」
太一は我に帰る。
光が少し遠ざかっていた気がした。足元を見ると、まだ左腕は宙にあって、目の前には今にも破裂しそうな赤い右腕が。
「いいから走れ!!」
「チィ! 命は補償しろよ!!」
太一はエンジンを吹かしながら、赤く輝く右腕の上を走った。そのまま駆け抜けて、爆発寸前のところを飛び跳ねる。
翼全体で爆風を受けて、太一は廃ビルの屋上まで舞い上がった。
砂にまみれた屋上のヘリを片手で掴む。
「あっぶねぇ」
『計算通りです』
戦闘ヘリは、すでに再生していた。メタリックな鋼色の装甲は穴すら塞がっていて、見事に二足方向まで完成している。
空中のハエを捕まえるように、太一を右腕で握りしめた。
「くぁあ!」
『侵入者、確保』
「ロシナンテ……まだか……!?」
『戦闘中のため、このまま処分しま……』
その時、ようやくロシナンテの銃弾が着弾した。
太一の目の前で、小さな銃弾が、巨大な機械の右腕を肘から吹き飛ばす。
『緊急事態です。破損しました。弾道から、敵の捕捉を開始』
太一は右拳に握られたまま、砂地に叩きつけられた。反動で握りがゆるくなり、腕力で大きな指をこじ開ける。
戦闘ヘリは、人間のようにキョロキョロしていた。
『錬成・右腕。敵の居場所を捕捉します』
「右腕再生まで2・8秒。遅いねえ、そこじゃない」
『音声で、居場所を絞りました』
今度は、戦闘ヘリの左脚部に銃弾が被弾。まるで鉄球がぶつかったかのように、機械の大部分を吹き飛ばした。
太一の前に大型の部品が転がっていく。機械の足首は固定砲台を蹴散らして、廃ビルの壁を砕いていった。
「ロシナンテ! どこだ!?」
「教えられるかヨォ」
『今の声で、居場所を20%まで絞りました』
「脚部再生まで、1・8秒。次は、左腕だな」
戦闘ヘリの左腕が、面白いように吹き飛ぶ。砂にまみれたコンクリートに、左の手首がボトンと落ちた。
左腕再生まで0・9秒。
「うん、悪くない」
『居場所を10%まで絞りました。右腕と右足で歩行します』
ヘリは機体を90度傾け、二足歩行を続ける。後ろのプロペラが左をむいて、見てくれがブサイクだ。
太一は廃ビルの上を眺めながら、うろうろする。右の肩を痛めたのか、銃をしまって抑えていた。
そうこうしている間に、右腕が再生する。
「よし、ワンダージュエルの場所がわかった」
「本当か!?」
『居場所を特定しました』
戦闘ヘリはいきなり体勢を変えて、右腕を握りしめる。肘あたりに大型エンジンを錬成して、廃ビルの屋上からエントランスに向けて、一気に振り抜く。
太一は瓦礫を避けて、走っていく。
廃ビルは縦半分がたたき壊され、中身が階層ごとに分かれてみる。そのまま後ろに倒れて、廃ビルのドミノ倒しになった。
黄土色の土が舞い上がり、勢い余った瓦礫が脱兎のごとく転がっていく。
その後ろを、ロシナンテが、ビルとビルの間を飛び越した。
「どっち狙ってんだ〜?」
『捕捉』
「ロシナンテ、危ない!!」
戦闘ヘリは、左に曲がった尾びれのプロペラを引き抜いた。手裏剣の要領で、ビルの屋上に投げ飛ばす。
屋上に広がった砂の上、ロシナンテは皮のブーツで駆け抜ける。
太一はプロペラの一枚銃で打ち抜いたが、もう一枚あったプロペラは、屋上のヘリを切り裂いて飛んでいく。
ロシナンテはまたビルとビルの間を飛びぬけた。
「なぜ、部位ごとに再生速度が違うのか」
『投擲を修正、命中率89%』
「なぜ、右にはパンチして、左には投げるのか」
戦闘ヘリは自分の操縦席の扉を引きちぎった。ロシナンテの動きを予測して、未来にいるであろう場所に、扉を投げつけた。
ロシナンテはまたビルとビルとを飛び越えて、着地したところだ。
座席の扉がスライスするように飛んでくる。そこに、別の場所から扉の縁に銃弾が当たった。火花が散って、扉の軌道が変わる。
ロシナンテはスライディングして交わす。
太一が目を丸くしていた。
「今、弾で何した!?」
「もちろん俺のだ、抜かりはない」
飛んで行った座席の扉は、屋上の床を削って、奥の貯水タンクに刺さる。からだったために何もこぼれない。
その目の前で、ロシナンテが切り返した。砂を蹴飛ばして、屋上を横に走行する。大通りに向かって、向かいのビルへと大ジャンプ。
「飛び越せるわけないだろ!!」
「着地は任せた!!」
大通りのはるか上、カウボーイ姿のロシナンテが、宙を飛んだ。足は蹴り抜いたばかりで、空気を蹴り進みそうだ。
体勢を左に傾け、銃を引き抜く。
「助ける身にもなれ、このやろー!」
『捕捉しました。攻撃の命中率99・9%』
「おう、よくやったな。あばよ」
太一が駆け抜ける頃。
戦闘ヘリは、再生した右腕を伸ばした。指先から、人の胴体ほどある赤くて大きな砲弾をロシナンテに撃ち放つ。
『大型大砲』
「銃龍」
赤い胴体の砲弾は、ロシナンテと同じタイミングで発射された。しかし、どうもロシナンテの小さな銃弾の方が早い。砲弾が1センチ進む頃には、銃弾は1メートル進んでいた。
人型ヘリの手元で、砲弾と銃弾があっさり顔をあわせる。銃弾は大きな砲弾に挨拶もせず、肩で砲弾の脇腹を削る。右手の先端に着弾した。
その時、フラタニティーの原理が見える。
着弾時のインパクト。空気がはじかれ、目にも止まらない衝撃波が、機械の手元と砲弾の間を駆け抜けたのだ。
瞬く間に、機械の右腕は崩壊。砲弾も軌道がずれる。
しかし、それだけであった。ロシナンテは、アスファルトの大通りに落下していく。
「オメガブースト!」
太一は、いつも使っている幅の広い翼を、背中に生やした。砂の地面から飛び上がり、燕返しの要領で、ロシナンテを救いあげる。
「おまっ、どこ言ってやがった」
「うおぉい! 一回転すんじゃねぇ!」
「全部ぶっとばせよ! まだ残ってんだろ」
「いんや、見てみろよ。『あれ』でいいんだよ」
太一は後ろに目を向けた。
戦闘ヘリはまだピンピンしている。二足歩行で、まだきちんと動作しているようだった。
しかし、そのさらに後ろ。散々砂埃舞った遠くから、普通の銃弾が飛んでくる。隙間を縫うようにすっ飛んできて、ヘリの操縦席に入り込んだ。
コバエが迷い込んだような、そんな光景。
操縦席では、シートベルトの留め具が破壊されていた。赤いかけらが、座席内に散らばる。
ロシナンテは右手を伸ばして、精密な操作をしているようだった。
「たしかに、広範囲の攻撃で全体をぶっとばせば、ワンダージュエルは狙える。でも、あんな場所にあったら、ワンタッチで機体から離脱できちまうだろ? な?」
少し離れた場所に着地。
二足歩行の戦闘ヘリは、電池が切れたように、その場で崩れた。
「やったな、チームエクレツェア」
「カウボーイ、スゲェわ」
パチンッ。
二人は砂つぶを挟んだハイタッチをした。
エクレツェアのウエスタンは風が吹く。




