狙撃手
列車は静かだ。ここは極東の国と同じ、マナーというものがきちんと生きている世界だ。
だが、ホームのショート勝手に関しては蛮族と言われても仕方のない暴挙で、極東では一大ニュースになっているような所業だった。それでも、安定して電車が運行するのには訳がある。
今、電車の車窓からホームを振り返ると、複数の駅員に拘束されたマナー違反の乗客だ。
彼はどうやら、神聖なホームにて客人の暗殺というマナー違反を犯したようだった。忍者のような黒ずくめで、目の前の太った西洋人タイプの貴族を睨みつけている。
貴族はすっかり怯えて、額に冷や汗を流しながら、そばの駅員にしがみついていた。
その駅員も、電車内に立ってマイクを口に近づけているキューゴに似て、とてもガタイがいい。
『続きまして〜、エクレツェア北西部〜、シュタインバルドック駅〜。スイリヤ探偵事務所、バルドックジョッピングセンター、市役所に後のようの方はここでお降りください〜』
キューゴが目の前でトランシーバー片手に車内アナウンスを務めた。その頃には、ホームのいざこざも鎮圧されていた。
乗客にとってはその風景がまさに名物である。圧巻の現場に、周囲から拍手が巻き起こる。
それがマイクを通して車内に聞こえた。
『ありがと〜ございま〜す』
そう言ってよしきの隣に座る。
席は新幹線でよくある形だ。二つの座席が互いに向き合って、四座席一組の形。
キューゴが座るとよしきのスペースが一気に狭まる。
「ガタイよすぎだろお前!」
「すまん、石を運んでいたせいだ」
ミーティアは石という名詞に首をかしげた。
それを遮るように太一がキューゴに尋ねる。
「コペッチ村ってどんなところですか?」
「ああ、コペッチは私の出身地だった。今でも、娘はそこに住んでいる」
「へ〜、結婚してるんですね」
「そうだな、最高の嫁だった」
だった、その言葉は独り身を表している。そして、その嫁は今この世にいないことを示唆していた。
太一が少し寂しそうな顔をして、
「それは大変でしたね」
「ああ、それなりに大変だったよ」
髭面にしては優しい顔だった。まるで聖母のようだ。嫁を思うと同時に娘の子をも思っているに違いなかった。
「少しだけ説明しよう。コペッチ村にいる組織の話だ。おそらく、今回の事件はそのカルテルによるものだからな」
駅を数個すぎ、砂漠に緑地が増えてきた。オアシスもちらほら見えて、街がいくつか見受けられる。地平線の向こうには、紺色の宇宙が静かに見えていた。
よくよく考えれば、エクレツェアと言ってもプレートのような惑星の上にある都市数個。窓枠の世界地図を見れば明白だった。
縦長の長方形ではあるが、プレートの特徴をよく捉えている。
どうやらコペッチやゴールデンデザート大学は北西あたり、エクレツェア本部は惑星の中央で、北西の砂漠のはるか手前から完全に緑地課が進んでいた。
北東にも緑地課は進んでいたが、途中から凍りついたように白い色が塗られている。南部分も赤だったり青だったり、中には透明だったりした。
「というわけだ」
キューゴがそう言ってトランシーバーを手に取った。
『次は〜コペッチ村〜、コペッチ村〜。乗客の皆様にお知らせです。近頃、コペッチ村の銃販売カルテル『ノンバレ結社』が、大変凶暴になっております。お降りの際は、最新の注意を払ってください。遠方からの狙撃、至近距離での散弾銃、手榴弾のお忘れにご注意ください』
キューゴの話は固かった。要約すると、『NB結社』という銃販売の集合組織が大学を襲ったらしい。
ディオグラディティは『NB結社』の棟梁『ノットバレット』に会いに行った可能性が非常に高いらしい、とのことだった。
他にも、カルテルとはなんぞや、とか、敵の所持する銃の危険性について語っていたが、ミーティアはその話をほとんど聞いていなかった。
今でも寝ながらよしきの肩二もたれかかっている。大きな口を開けてヨダレを垂らしていた。
よしきがミーティアの赤い頭を揺らす。
「おい、ミーティア起きろ」
「ふへへ、もうこれ以上城を壊せないっすよぉ〜」
「何の夢見てるんだよ」
すると、列車がコペッチ村の駅にたどり着いた。
「太一、ミーティアに肩貸してやれ」
「お、おお……って重!」
「当たり前だ、ミーティアは赤毛族。原理的に軽くても、普通の人間の1・3倍は重量がある」
「先に言え」
太一は仕方なくおんぶの形でミーティアを背負っていった。
列車の入り口に板がかかって乗客が降りる。
四人もキューゴを先頭に列車を降り始めた。キューゴが降りて、よしきが列車から出る。
と、その時だ。よしきのこめかみ横を弾丸がすり抜けて、後ろにいる太一たちに向かった。
よしきはかろうじて目で追ったが、弾丸には追いつけない。
「待て!!」
よしきが今日一番の声で叫ぶ。だが、太一に声が届く前に弾丸が辿り着いていた。それはそっと、ミーティアの寝顔に向かう。
「危ない!」
その途端、太一がキューゴに突き飛ばされた。
ミーティアも衝撃で目覚める。
だが、目を開けた先にはキューゴが倒れていた。だが、彼は列車の外にいたはずだ。
「え、ええ!? どうしたっすかキューゴさん!」
よしきはすぐさま弾道を確認する。進行方向を辿って、すぐさま狙撃手を見つけた。駅から遠く離れた崖の上で、ライフルを構えている。
よしきはさらに、吸い込まれるような瞳で狙撃手を見つめた。
遠くの狙撃手がライフルのスコープからよしきの視線に気がついた。
「バカな、ここは二キロ離れいてるんだぞ」
スコープ越しに覗いたよしきの唇が動く。
そ・こ・で・ま・っ・て・ろ。
背筋が凍ったその瞬間、後ろに気配が。
そこにはやはりよしきがいた。
「いつの間に!?」
「あっという間に」
よしきの眼差しは強く、すでに狙撃手を射抜いてしまっていた。よしきはまだ暴力的な行動に出る前だが、狙撃手の腰がすでに抜けている。
それを見てよしきの殺意が消えてしまった。
「しゃ〜ない。よ〜く見ろよ俺の瞳を」
「いったい何をするつもりだ!?」
「大したことじゃない、初めて俺の瞳を見た時を思い出すだけでいいのさ。きっとその瞬間、君の忠誠を誓う人物は命の恩人から俺に変わるはずだ」
「や、やめ」
「初恋の目」




