鉄道の急降下ラッシュ
「この筋肉ヒゲバカはコペッチ村の出身や。連れてってもらえ」
「ですが駅長、仕事が」
「タケシがやるってよ、俺っち名案すぎぃ」
「そんなぁ!」
その後、駅長のバカアホまぬけが混じった持論が展開されて、バーベキューは解散となった。
太一、よしき、ミーティアの三人がコペッチ村行きの機関車に向かうこととなる。
駅の鉄骨だらけな通路を進んで、ホームに向かった。風が強く、地下鉄を思い起こさせる。サビ鉄の匂いがさまよって、背筋までさび付いたように皆大きな伸びをしていた。
ミーティアがよしきにすり寄る。彼女の赤毛は軽やかに踊って楽しそうだ。
「キューゴさんはどこいったっすか?」
「あいつは職員の通路から行くそうだ」
「ああ、じゃあ私たちはエレベーターっすね。あれ大変なんっすよ。一度エクレツェアに来た時は十回くらい乗ったっすから」
「へ〜、大変だな」
よしきとミーティアがどんどん先に進む。
太一は駅の事情を全く知らず、話についてこれていなかった。大変なエレベーターとはなんだろうか、そう思って首をかしげる。
ミーティアはよしきから離れて、駅の中をキョロキョロし始めた目的地を探す。しかし、地図すら見当たらなかったので、すぐによしきのもとに帰ってきた。
「ところで、ホームはどこっすか?」
「えー、確か253万0625分の1ホーム」
●なんだその魔法使いでも行きそうにない隙間次元は。
「ここから20分のところだ」
よしきの言葉に太一は耳を疑った。今日で三回目だ。
「おまっ……エクレツェアに来てからわけわからんこと多すぎる。一つの駅だろ!? そんなに遠いのか!?」
「逆だろ、一つの駅が1000ヘクタールあるけど、通路が整理されて20分で済んでる」
太一はその規模に騒然とする。
「いやぁ、あんぽんたんすぎる。もっと分けろ分けろ」
「一箇所の方が護衛しやすいじゃないか。渋谷とかそんな感じだろ?」
●いちいち固有名所を出すんじゃない。
「渋谷? どこのことだよ」
「すまん忘れろ」
ちなみに渋谷は1000ヘクタールもありません。行ったことはないが。
太一の追求をうやむやにしつつ、よしきは人差し指を立てた。
「じゃあ問題だ。もし、お前がレーシングゲームをやっているとする」
「なんでそんな話に?」
「その時、この駅をモチーフにしたレーシングコースがあるとしよう。お前は普通に走って20分、俺はたったの5秒でたどり着きました。さて、俺はどうやってゴールしたでしょう?」
「知るかよ……」
「考えろ」
太一は意味のわからない質問に戸惑うが、よしきが問うからには重要だ、そう思い真面目に答える。
「……転送か?」
「違う、ショートカットだ」
「は?」
重要ではないが嫌な予感がした。ショートカットということは正規のルートを省略するということ。20分が5秒になるショートカットはよっぽどの無茶だ。
ミーティアが楽しそうに手を挙げた。赤毛もぴょんぴょん飛び跳ねる。
「私わかったっす! 私前来た時5時間くらい彷徨ったっすから、地図は把握済みっすよ」
「はいミーティアちゃん」
「この下に飛び降りるっす」
「正解」
「また飛び降りるのかよ!!」
太一は思い出したように叫んだ。嫌な予感は的中している。
というのも、極東の国でも、グラップハローでも、和帝でも、そしてエクレツェアでも、よしきに出会ってからというものことごとく高所からの落下を体感していたからだ。
金タマが縮こまって仕方がない。
太一は後ずさって、エレベーターに走った。
「俺はエレベーターから行ってくる!」
「待ってくださいっす!」
ミーティアが太一より数倍速い脚力で彼をとっ捕まえた。
「一刻も早くコペッチ村の敵を倒さないといけないっす。エレベーター使ってる暇ないっすよ」
「そんなぁ」
「泣き言なしっす」
太一はなき落とすような声を出したが、ミーティアは軽くひと蹴りした。
● さすが、世界一誇り高い民族。
「言ってる場合か!」
「飛び降りるっすよ!」
「ちょっと待ってぇえ!」
すでによしきは背中から飛び降りていた。通路の下に姿が消える。ミーティアも太一の腕を引っ張って廊下を走った。思いっきり飛び跳ねる。
「いやっほー!」
「離せ離せ離せ! 右手を掴まれたらフィガーが使えないだろ!」
「え? なんかいったっすか?」
「離せ!」
「すみませんっす、風邪の音でよく聞こえてないっす」
「ゆっくりしゃべってる場合か! 離してくれ!」
「え? 何を話すんすか?」
「離せぇえええ!」
パフゥウン!
汽笛が鳴り響いた。
「助けてくれぇえ!」
ミーティアと言い合いをしている間に駅のホームが迫った。鉄骨の赤サビまでよく見えるほど急速に近づく。
「ミーティア! もう間に合わないから受け止めてくれ!」
「ああ、腕っすね。離して欲しいなら早く言って欲しいっすよ」
「ちょっと待て!」
「はいどうぞっす」
「いまじゃなあああい!」
ただでさえ助走をつけて大ジャンプしたのにも関わらず、空中で支えを失った太一の体はきりもみ回転し始めた。
フィガーを使おうにも手が遠心力に負ける。
「こなくそぉお!」
それでも気合いでフィガーに触れた。
「オメガブースト!」
瞬間、ジェットエンジンを背中から生やす。そして、勢い良くエンジンを点火した。
だが、アキの手で強化されていたことをすっかり忘れていた。暴走して駅の遠くに飛んでいく。
「ああああああああ!」
その間に、何度も赤サビのついた鉄骨にジェットエンジンをぶつけて、さらにバランスが崩れる。ピンボールの玉のように跳ねては進んでを繰り返していた。
途端に、エンジンが止まる。
「おい、動け! 動け! 動け動け動け!」
そのまま機関車の先頭に落下する。衝突は寸前だ。
「飛べ飛べ飛べ飛べェ!」
だが、ジェットエンジンが機能する前に列車が迫る。
「ぶつかるぅうああああああ!!」
すると、その時太一の落下がピタリと止まる。翼が何かに引っかかったように、太一は宙釣りになっていた。
「いったい何が」
「お客様、ホームではどうかお静かにお願いします」
翼の方を眺めると、そこにはキューゴの姿があった。さっき会った時には気付かなかったゴツすぎる手が片手で太一の翼を掴んで止めている。
「ありがとうございます」
「案ずる必要はない。どうせ、よしきが絡んでいるんだろう」
太一は思いっきり頷いた。
キューゴはため息をついて鉄骨から降りた。太一をホームに下ろすと、辺りを見渡す。
真っ黒で光沢のある蒸気機関車。汽笛の煙、中から現れた全貌は鋼鉄の強さがよく伝わった。線路を外れても、進む力は変わらないであろう。
太一も絵では見たことがあったが、本ものを見たのは初めてだった。少々圧巻されながらも、キューゴに尋ねる。
「コペッチ村へはこのホームであっている。他の奴らは?」
「先に飛び降りてたはずです」
そこのよしきとミーティアの呼び声が。
「こっちだ」「先に乗ってるっす〜」
二人が窓を開けて顔を覗かせている。
キューゴは呆れてネクタイを緩めた。
「おとなしく電車も乗れないのか」
「固いこと言うなよ」
よしきが二人を由布で手招く。
列車の窓から見えた天井は、ベージュの優しい色をしていた。黒の見た目が光沢を持って太陽を弾く。全ての色を吸収する色とは思えなかった。
一方、よしきの格好は本当に全ての光を吸収するように、反射するハイライトすらなかった。
ここに来て、同じ色なのに列車に対照的なよしきがブラックホールにも見えた。
「はよ乗れ」
よしきのフランクな声。太一に考える暇を与えないつもりだ。それがよしきなりの親切か、不審な点を隠すための誘導か。定かではない。
「では、ご乗車ください」
キューゴが太一をエスコートして列車に招くのだった。




