駅長バトル
エクレツェアがターミナルと呼ばれる所以だ。
今、眼の前には鉄道が広がっている。
黒い蒸気機関車がいたるところに見受けられ、乗客、乗務員、そして我々。
私たちは今、そのホーム全てを上から眺めることのできる、天井付近に掛かるかけ橋の上にいる。
全てレンガと木で作られたホームは、1900年代初頭に迷い込んだようだった。西部劇の世界観がまだ残っていることにも頷けた。
「よしき、なんで俺とミーティアだけ別行動なんだ?」
「そうっすよ、私たちは一体どこに向かってるんすか?」
「ああ、気にすんな。楽しい場所さお嬢さんたち」
お嬢さんはミーティアしかおらず、太一は軽く受け流されてしまった。
そこが、女性と男性を区別する詠嘆のエクレツェアらしい一面でもあるのだが、太一はマリと他の人間を扱うときの差が今のよしきに似ているとどこか痛感していた。
今、よしき、ミーティア、太一の三人だけがこの天井にあるかけ橋を歩いていた。
大学からともにコペッチ村への鉄道に乗るためこの駅にやってきていたが、入口で二手に分かれて今にいたいる。
スミレ、サカ鬼、龍矢の三人はミズノの案内で先にコペッチ村に潜入するらしい。
大学で共闘したゴッサムとエースは戦場になった大学の修理に当たっていたため、その場で別行動になっている。
太一が周りをよく見ると、今いる場所は従業員以外立ち入り禁止のエリアだ。橋を渡っている三人を下のホームから駅員たちが冷ややかな眼で見ているのがわかった。
ミーティアは心細くなってよしきに近寄った。
「なんか、みんなの目が怖いっすね。なんか悪いことでもしたかのようっす」
「さすがは、赤毛族だ。身体能力だけじゃなくて洞察力も素晴らしい。俺がこの付近で悪いことをしたっていうのはまことしやかに語り継がれている事実だ。まあ、みんな俺のこと見てるはずだからきにするなって」
それはエースの言っていた百年前の戦争が原因だろうか、太一はよしきの計り知れなさを未だ火山の火口から溶岩を眺めるように窺っていた。
渡り廊下にも似たかけ橋をすぎると、奥には駅長室が見える。
どこか用具入れみたいな外観だったが、それでドアには『駅長室』という白いプレートがはめられていた。
よしきはノックを数回すると、容赦なく開ける。
「失礼します」
ドアを開けた先の光景は正直目を見張った。
並の量じゃないパソコンの数、その一台一台に従業員座って凄まじい速度のタイピングを行っていた。その光景がずっと先の扉まで続いている。
どちらかというと鉄道というよりはITの職場に見えた。
「みなさんご存知、詠嘆のエクレツェアがやってきましたよ」
よしきがいたずらな笑顔で答えた。
ミーティアは少しゾッとしている。というのも、おの部屋に入ってからすぐに何かを感じ取っていた。
太一が感じていなかったのだから、強い強くないの話ではなく、悪意とか敵意とかそんな感じのものだろう。
だが、敵が強くなかろうが敵が増えること自体アウェーな空間であることに間違いなかった。
規則的に打ち鳴らされていたタイピングが少しずつ止まっていく。豪雨がシビシビ雨になってついには止んだようだった。
すると、一番手前にいた従業員が立ち上がる。
従業員は肌が綺麗な男性だ。髭もなく、産毛すらない。眉毛も整っていて、鼻毛もそられいてる。際立ったように飛び出たまつげが、瞳の大きさを際立たせていた。
彼は駅員と同じ紺色のレインコートのような制服を身にまとっていた。
そして、よしきに手を伸ばす。
「初めまして詠嘆のエクレツェアさん。お待ちしておりました、私が今回の事件について担当します」
「おっと、タケシ君。初めましてとはご挨拶だな?」
よしきがそうたずねると、タケシと呼ばれた駅員はあわててよしきの口を抑えにかかった。
「ばか! 面識があるとバレれば私の関係まで危うくなる。静かにしてもらいますからね、どうぞこちらへ!」
そうきつく言ってよしきの手を引き、奥に続く扉の前まで連れて行った。
太一とミーティアが追いつくころには、パソコンへのタイピングが再開して、音に紛れた会話が始まる。
「タケシ、何を怯えている?」
「よしきさん! あなたは自分の立場が分かっているはずでしょ!? あなたが駅長に嫌われているせいで、もともと知り合いだった私までとばっちりをくらうのは勘弁願います!!」
「おい、ミーティア、太一。こいつを紹介しておく、名前はタケシ・ケンタウロスだ。ブフッwww」
「笑うなよ!」
「どこがケンタウロスでどこがタケシなのかわからないwww」
「ケンタウロスは苗字だよ! タケシは明らかに俺だろうが!」
よしきは奥に続く扉をノックした。
「しつれいしま〜す」
「話を聞けよ!」
タケシを制止しながら、よしきは扉を開けた。
「お〜、久しぶりだな、トレイ」
「ここであったが百年目じゃぁあ!!」
ポッポーーーー!!
なぜか部屋から機関車の汽笛が鳴り響き、美形の男が駅員姿でよしきに飛び蹴りを放っていた。
タケシが止めに入る。
「やめてください駅長!」
「黙っとれい一介の駅兵があ!」
「ひぃい!」
どうやら駅長の彼はタケシを人睨みで怯えさせた。
「オマエェェ! ようぬけぬけと現れたのぉお!?」
「悪い、今それどころじゃないんだ」
「そんなことあるかい!!」
よしきは飛び蹴りを指一本で受け切っていた。駅員が踏ん張っても押し負けそうだ。
すると、彼はマジックハンドのようなものを取り出した。どうやら、線路上にものが落ちたときに使う回収道具だ。
「ほんま調子のっとったらあかんぞえ!?」
「ぐあぁ!!」
駅員は叫びながらマジックハンドでよしきの首を掴んだ。そのまま喉に押し当てながら、もう片方の手で黒い髪の毛を鷲づかみする。
「電車男!」
ポッポーーーー!!
駅員が叫ぶと、部屋の中から白い蒸気が噴出する。
「緊急発車ぁぁあああ!」
掛け声とともに、人の胴体ほどの黒い蒸気機関車が駅長を全力で押し進み始めた。
ポッポーーー!
汽笛を上げながら黒い煙を吐き、従業員がタイピングしていたエリアに突っ込んだ。
従業員たちはあわてて避難していたが、パソコンは列車とよしきに轢かれながら精密な部品を舞い散らせていた。
その時、よしきの下にレールが敷かれた。
目の前の駅長と小型列車は浮き上がり、車輪を回してよしきに迫る。
「挟まれてまえボケ茄子!」
すると、よしきも頭に血が上って、
「いい加減にしろよ! 久しぶりにあったと思ったらこれか!?」
「自業自得じゃけ!!」
「じゃあ覚悟しろよ、ハルマゲ」
その時、小型列車を掴み取る手が。
「やめておけ、そこまでだ」
バシュウーーン。と汽笛と煙が同時に音を鳴らす。車輪が空回りしながら危険な金属音を響かせる。周囲の電子機器の上に白い煙を撒き散らす。
それでも後ろの石炭入れを掴まれたれ列車は進まなかった。
急に掴まれて列車が止まり、駅長とよしきはパソコンの奥に投げ出される。
「駅長、ここは事務室です。被害は最小限に抑えてください」
駅長はばらまかれたパソコンの部品を撒き散らして立ち上がる。
「キューゴ! おんどりゃ、わかっとんのか?」
「ええ、仕事に戻ってください駅長。ダイヤが乱れます」
「……ちぃ、お前らこっちこい、キューゴもや。おそらくディオグラディティの話やろうかなら」
駅長がそばで呆然としていた太一とミーティアにも声をかける。
なにやら知り合いのようだが、正直に言って強さは化け物じみたものを感じていた。
太一に限っては、よしきが重力を少し増した時より計り知れないエネルギーを肌で受け取っていた。
「びびっとる場合とちゃうやんけ。まだ何にも始まってへんわ」
「始まってない?」
言葉に信憑性はなかった。これ以上の戦闘を考えられなかった。
言葉に詰まる太一に駅長はなぜか新鮮味を感じる。
「へ〜、この世界でそんな顔するやつ久しぶりに見たわ。まあええ、キューゴ、紅茶入れろ。ケンタウロス、馬刺し用意せえ」
「駅長! ケンタウロスの名字をいじらないでください!」
「はぁ!? なに言ってんねん、事務室の冷蔵庫に馬刺し入ってるからさっさともってこい、バーベキューすんぞ」
「バーベキュー?」
「みんなも仕事に戻ってなー、邪魔して悪かったわ」
●駅長さん、俺にもください。
「ああ、でもパソコン直しといてな」
つ、つられてしまった。
「おいこら、よしきぃ! お前後で覚えとけよほんまに、でも先にディオがなんでコペッチ行ったか教えたるわカス、後でしんどけボケなすび」
「あいよ、そのうち死んでやるよ。アホンダラが」
「あぁ!?」
この後しばらく言い合いが続いた。カスみたいな内容だったのでお届けはしない、
だが、この二人がアホだということは覚えておいてもらうと、寝る時に思い出し笑いのネタにはなるだろう。




