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三ヶ月前のハネムーンボーイ

「ここにあるのはディオグラディティが俺に渡した映像フォルダだ」


 よしきが両手に持ったのは四角いキューブだ。薄緑でいかにも硬質な物体で、ものを殴れば簡単に破壊できそうである。

 そばにあった机を白い壁際に寄せて、上にキューブを置いた。


「ここには三ヶ月前にディオグラディティ社が運営する隕石破壊装置内部の映像が記録されている」


 太一は神妙に尋ねた。


「そこに何が?」

「見ればわかるさ」


***********************************


 星、世界が紺色に包み込まれたまぎれもない宇宙。

 遠くに輪を描く銀河系がほのかに輝く。

 星雲が雲のように固まっていた。

 一見、こんな景色ならお目にかかりたいものだろうと思う。

 だが、この『俺様』は違った。

 何が宇宙だ!

 何が惑星だ!

 おりゃ、広大な大地が大好きだ!

 なのにこんなだだっ広い紺色の空間はヨォ、ちょうど牧場のど真ん中じゃねぇか。

 田舎の景色だけで十分だぜ。

 そもそも、SFだろうが酒が巧けりゃ問題はねぇが、宇宙人の飲む酒ときたらたまに硫酸が混じってやがる!

 俺様はそんなの酒とは認めねぇが……そんな宇宙空間に来ちまったのは仕方がない。


 おやおや、少し長くなってしまったようだ。酒が入っていては過去の話もしたくなる。とくにこの俺様はな。これだから語り部は喋りすぎる。

 まあ、だからと言って他のたかり部に劣るわけじゃねぇ。

 どこぞに、●だのヴィールだのビールだのどこの酒かしらねぇ奴が語り部をしているようだが、俺様はさらにその上をいくスンバラシイじつりょくだあ。


 さて、今回のミッションに戻ろう。


 さすらいの魂は、カーボーイを宇宙のとある一室まで呼びつけた。

 今俺様の手元に葉巻があるならば、ちょうど64年製のいかついやつと、1921年の20ドルくらいのワインでいっぱいやっていたところだ。


「こちとら、慈善事業できてるんじゃねぇんだからよ」


 発砲音と共に、一人の作業員が倒れた。イカす世界の人間は、無駄なセリフを言わないのが流儀だが、このがカーボーイは違った。

 イモ、一言に尽きる。

 もう一人の作業員は銃を突きつけられて壁に伏せていた。

 カーボーイ姿のガンマンがパソコンの操作を始めると、その従業員に暗証番号を尋ねる。


「兵器中枢部のロックを開けろ」

「兵器のコアがある部屋に何のようだ? 西部劇にでも使うのか?」

「冷たい言い方だな、ディオグラディティの社員なら知っているはずだが?」

「……3623だ」


 カーボーイはそれを入力する。

 ビー、ビー、ビー

 突然警報が鳴り始めた。


「嘘のパスワード教えたな?」

「3623と言えば通報用と決まっている。それもわからないなら、コア室に入っても何もできやしない」


 カーボーイの男は憎たらしそうに鼻で笑った。

 というのも、彼の父はエクレツェアという世界で有名なエンジニアだったらしい。

 彼の父は昔でいうエリートサラリーマンだったそうだ。

 だが、そのおかげで家庭を顧みない仕事ぶりは家庭だけではなく職場にまで傲慢だなんて言われていたらしい。

 聞く話によると、そのエンジニアがこのカーボーイは大っ嫌いだそうだ。

 だから皮肉交じりに鼻で笑ったのだ。


「なんだそれ、エンジニアは全員そうなのか? まあいい」


 カーボーイは銃をホルダーにしまって、直接コアのある場所へと向かった。

 白い宇宙船内は扉がいちいち全自動だ。カーボーイなら木の板のがらんとした軽い酒場のやつが一番似合う。

 時間がかからず通り抜けると、コアのある部屋を見つけた。


「よ〜し、こっからギャンブルだ。これでおいらの今日の運勢が決まっちゃうぜ〜」


 カーボーイはズボンのポケットから、ごそごそとコインを取り出して、コイントスをした。手で受け止めると、表に4のマークが。


「あらららら、俺っちの頭の中では3だったわ。てことで、コアの部屋の扉をぶっ壊す銃声の回数は3回だな」


 コイントスの意味、それはロマンのみだ。


「い〜ち」バン!

「に〜い」バン!


 ばしゅー、と扉が開いた。


「さーん」

 天井にうちはなって納得する。無駄うちはイケねぇな。


『侵入発見、排除します』


 カーボーイの前には、いくつもの白い対人ロボットと壁から放たれるレーザービーム。こりゃ、活躍するのはマティーニを注文するスパイくらいだ。


 しかし、このカーボーイはデキる。


 なにせ、弾丸と結婚したシューティング・ハネムーン・ボーイ。こいつの腰振りは男も黙らす一級品。しかも早打ちときたもんだ。右に出るもんはいねぇ

 いいじゃねぇか。SFでガンマンが立ち会ってもヨォ。


 見てみろこの風景を。あたりは白のタイルと曲線を描いた内装。LEDで照らされたこの部屋は、中央に大きく真っ赤な宝石を孕んでいる。


 そそるねぇ。魅力的だ。女性のヒップラインを見たときと同じ鼓動が俺の胸に鳴り響く。


 さて、西部劇。オン・ステージだ。


「ロボットさんよ、お前らはウイスキーが好きかい? それとも、マティーニか? お前らの見た目はミルクボーイだがな」

『ニューロン転送プログラム起動。ダブルマシンガン』

『VR再現システム起動。ロケットランチャー』


 親指のようなロボットたちは柄にもなく重火器を扱うらしい。


 マシンガンの乱射が始まった。


「そんなぬるいエイムじゃ俺を捉えられないぜ?」


 カーボーイは部屋中を縦横無尽に駆け巡った。重力お構い無しの大盤振る舞いだ。宇宙だから許せよな、お芋ちゃんども。


 そんなこと言ってる間にカウボーイの早打ちは見事に決まった。残すはあと一匹だ。


 ギロリと睨みつける親指ロボットは、司会カメラを赤く点滅させて、男に吠えずらをかかせようと必死だ。かわいいねぇ、でもその瞳に穴があいちまうぜ。


『フィガー・ディオグラディティ伝記』

「なに? フィガーまで使うのか?」

『フィガー・絶対的な破壊行動』


 舞台にそぐわない技名だ。突拍子もないのはディオグラディティらしいし、そのよさはわかるが、本当にそれでいいのかねぇ。


 親指ロボットは見た目にそぐわない背中を表した。翼のように武器が生え始める。何度もトランスフォームしながら、そのアームの先には見たこともねぇ獲物たちが勢ぞろいだ。


 兵器会社は素晴らしいねぇ。


「おい語り部、ロボットの行動を先に語れ」


 おやおや全く。

 おいちゃん困っちゃうよ、俺のことはこう呼べと言っているだろう。


 西部劇の王様、ハリー・セブンと。


「やなこった、俺は誰にもこびねぇよ」


 威勢良く眉を上げてそういうが、俺に頼るこの状況は理解できてるのか?

 神に祈るか、風穴が開くかだぜ。


「じゃあ、神に風穴が開くってのか?」


 上等だ、付き合ってやるよ。掛け声はいいかい? ダーティー坊や。


「オーケー。Are you lady?(女の準備はいいか?)」


 yes, dead or alive.(女が欲しいなら命をかけな)


『ターゲットをロックしました』


 Go!


「たった0・2秒の銃撃ワンショット・ワンコインキル!」


 カウボーイは銃をホルダーから引き抜く。それは射撃の合図だ。


 知ってるか? カウボーイの射撃速度は0・2秒。もし、お前らがミサイルを発射するのに0・3秒かかるなら、指が触れる前にお陀仏さ。


『標的を排除しま』


 大振り、空振り、結構なことだ。眉間に穴があいた親指君に何ができる?

 火傷すリャ冷やすがいいが、あいた穴を塞げるかい?


 ガンマンには0・2秒も隙を見せちゃ〜いけやせん。それがきっと天国の扉であるのだから。Byシャルウィー・ベルベット


『ままままっまままままま!』


 親指ロボットはあたりを一心不乱に砲撃し始めた。壁に穴があいて宇宙の真ん中に空気が流れる。


 室内の弾丸が宇宙へ飛び出す中、悠長なカウボーイは宝石を狙うのさ。


 その名を聞きたいかい? ロシナンテ。


「知ってるさ、ハリー。部屋の中心にあるあの真っ赤な宝石は、この宇宙船の攻撃力。ワンダージュエルさ」


 ロシナンテは頭の帽子をかぶりなおし、真っ赤な宝石を台から引き抜いた。

 部屋中の電気が落ちる。


『エクレツェアに不時着を開始します』


 宇宙船が揺れて引き抜かれたおしゃぶりの宝石を探しさまよう。きっと彼らの行先は鉄道会社の親分市長さ。

 ロシナンテは今日も仕事を終えて、牛の世話に戻るのだ。


「ちょっと待て、これを置いていく」


 ロシナンテはポケットから似合いもしない手紙を取り出した。

 そんな柄にもないことはやめとけや。二日酔いのもとだ。


「この宇宙船の宝石はこの俺様がいただいた。怪盗ドン・キホーテ21面相」


 全く、砂漠の酒が耳に入って、コナン・ドイルの代わりに執筆してたことででも思い出しちまったのか?


「いいじゃねぇか。ロシナンテは西部劇とは何の関係もねぇんだから」




***********************************




「と、いうわけだ」


 よしきがキューブを自分のポケットに突っ込んだ。入りきらずに半分以上が顔を出す。

 その場の皆がずっこけそうになる。今の映像では何が何だか。

 太一が質問でよしきに切り込んだ。


「何の映像だよ」

「宇宙船内にカウボーイが侵入したって話だ。しかも、カウボーイには語り手が付いている」

「語り手? 語り手って音声に残るのか? 今まで録音できたことなんて一度も」

「ディオグラディティは異世界の技術使ってるからな」


● でも、録音されてるのってめっちゃ恥ずかしいよ、語り部にとっては。


 エースがよしきを掴んで、割って入る。


「違う、今はジュエルを持ってかれたった話だ」

「そうだな、ディオグラディティはこのジュエルを探しにわざと捕まった。敵地に入って直接回収するつもりだ」

「なんで知ってて止めなかった?」

「行って止まる社長さんじゃないんだよ」


 サカ鬼と龍矢は記憶にあるディオグラディティのことをおも出して頷いていた。


「たしかに、酒を飲んでも死なない肝臓を作る技術とか止められても作ったっていうし」


「折れた愛用していた掃除道具の毛玉ロン三号もディオグラディティさんの独断で採用したデザインで人気が一気に低迷していたからな」


 その時、校長がよしきに提案する。


「それはつまり、コペッチ村に行けばディオグラディティさんはいらっしゃるということですよね? 今すぐエクレツェアの救助隊とマスターズを呼びましょう」


「やめちくれ〜(わざと)。そんなの呼ばれたらエクレツェアの立つ瀬がないぜ。今から取り返してくっから、ちょっと待ってろ」


 コペッチ村、聞いていた話では西部劇の町だ。

 太一はいつの間にか固唾を飲んでいた。よしきに尋ねる。


「俺も行くんだな?」

「当たり前じゃんか、そこでじっくり鍛えてやるよ」


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