結婚阻止
中庭では奇妙な現象が起きていた。地下の迷宮に落下していた忍びたちがどういう原理かふわふわと飛んで、宙に浮き始めたのだ。
一方、中庭全体では崩れた地面が時間を巻き戻すように元の姿に戻っていた。
「ひゅ〜、慌てるんじゃない、お前たち」
「いちいちうぜぇな、これくらいならなんとでもなるっつーの」
クロカズとハルトが各自、手で印を結びそれらのことをなしているようだ。
そんな時に、悠長な声が響く。
『そろそろ終わったかいサカ鬼くん、龍矢くん。こっちは片付いたよ』
サカ鬼が叫ぶ。
「コーデル! こっちはそれどころじゃない! さっさと応援をよこしてくれ! この量は二人じゃ無理だぜ!」
彼の隣には龍矢もいたが、敵に囲まれ窮地に立たされていた。
サカ鬼はあらぬ方向に腕が曲がり、龍矢は翼が折られている。
ハルトが荒々しく、
「うぜぇ。お前ら、よくもここまで暴れてくれたもんだなあ!」
クロカズは呆れて、
「ひゅ〜。きみ、人の体で粗暴にするな。さっきから戦いを見ていると、技名をちゃんと言えてないだろ。スペシャルキックってなんだね、ボキャブラリーなさすぎだろ。技名は『清潭永世六中七破・三条の翔』だぞ!」
「うぜぇ、三条さんの清潭67周年万歳記念かなんだかしらねぇが、悪かったな。お前と体が入れ替わってからと言うもの、うざくて仕方がない。そもそも、お前はうざい漢字で名前つけすぎなんだよ厨二病が」
会話をしている間にもサカ鬼と龍矢は隙を見て反撃を始めた。
二人とも雄叫びをあげながら力にかませて戦いを繰り広げる。
ハルトがほとほと呆れて、
「ちぃ、往生際のうぜぇ奴らだ。さっさと観念するかしろよ。エクレツェアの民らしくな」
「ぎゃあああああー!」
その時、彼らの後方から叫び声が聞こえる。そこは居住区へと繋がる正門であった。向こうから何か近づいてくる。
彼らの前に現れたのは黒い影。
いや、黒い着物姿というべきだった。凄まじい音を袖からたなびかせる姿は、地面に足をつくでもなく引力に引かれるようにまっすぐ突き進んでいた。
その速度は、尋常ではない。
ハルトとクロカズは共に構えたが、それが間違いだとすぐに気づくことになる。
「どきなさい」
怒るでもなく、叫ぶでもなく、だだの命令。その声は正門方向から二人とその後方の忍びたちにも聞こえたが、従わなければただの処刑宣告であった。
瞬間、強烈な殺意。
ハルトとクロカズは即座に回避を始めた。だが、避けきる前に彼女が傍まで近づいてくる。その際、反撃を試みたが、それを制止するように彼らの頬を斬撃がかすめた。
彼女はどうやら北の塔へ向かっているようだった。だが、リスグランツの手下の黒い忍びは二人のように殺気を感じず、お鷹の胸を妨害しようとした。
もちろん、殺気を感じなかったのは彼らに致命的だった。お鷹の胸は通り過ぎると同時に忍びたちをズタズタに切り裂いてしまう。
しかし、止まることなく北の塔へ向かい、そのまま一番上の大きなステンドグラスから中に突入して見せた。
真っ白で神聖なウェディングロードに色とりどりのガラスがばら撒かれる。
お鷹の胸は室内に入った瞬間に周り全ての把握を始めた。
四隅に二人ずつの敵、足元にはリスグランツと花嫁姿のマリ。お鷹の胸はマリ以外全ての者に手裏剣や脇差などの刃物を的確に投げつけ、命中させた。
敵兵を倒してそのまま着地して新郎にしてはあまりに粗暴な姿のリスグランツを見やる。
だが、彼はクナイをたやすく受け止めていた。
「遅かったじゃないかあぁ、お鷹の胸ぇ」
朝日まであと7分。




