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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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父からの手紙

橋が完成してから数日。

領館には少しずつ日常が戻り始めていた。

工事を終えた帰還兵は次の仕事へ。

市場には以前より荷車が増えた。

そして、その日の朝。


「奥様、お手紙です」


執事が一通の封筒を持って居間へ入ってきた。

母は封筒を見た瞬間、息を呑んだ。


「……グラウベ」


その一言で、部屋の空気が変わる。

妹は嬉しそうに立ち上がる。


「お父様!」


私は静かに封筒を見つめた。

父からの、初めての手紙だった。


母は丁寧に封を切る。

紙を広げる手が少し震えている。

そこに書かれていた文章は短かった。


リーブへ。


私は無事だ。現在も各部隊の武装解除と降伏手続きに追われている。


まだ帰還の目処は立たない。領地を頼む。


ベレもザンフトも母を頼む。


グラウベ・フォン・シュタインベルク


本当に短い手紙だった。

だが、それで十分だった。

母は目元を押さえる。


「無事なのね……」


その言葉だけで涙がこぼれた。

妹も嬉しそうに笑う。


「良かった!」


私は静かに息を吐いた。

良かった。父は生きている。

しかも武装解除の責任者として働いている。

やはり相当な高官なのだろう。

一つの部隊ではない。

複数の部隊をまとめる立場。


だから帰れない。

まだ会ったこともない父だった。

それでも安心できた。


私はもう一つ気になったことがあった。


手紙。それも前線近くから届いた。

私は窓の外を見る。


「ということは……」


郵便網が少しずつ動き始めた。

橋。街道。郵便。物流。全部繋がっている。

私は小さく笑う。


「臨時政府も、思ったより頑張ってるじゃない」


完全ではない、遅れもある。

それでも国として最低限の機能を戻そうとしている。

少なくとも、それだけの力は残っているらしい。


その日の午後。


私は新聞を読み返していた。

鉄道の一部復旧。郵便業務再開。

道路補修開始。

小さな記事が少しずつ増えている。


私は腕を組んだ。


「このまま落ち着いてくれれば理想なんだけど……」


そうなれば、多くの命が救われる。

混乱も最小限で済む。私は心からそう願った。

だが。すぐに首を横へ振る。


「……まあ、そうそう上手くはいかないわよね」


前世で何度も見てきた。

戦争が終わっても復興は一直線には進まない。

必ず新しい問題が生まれる。


夕方。


新しい新聞が届く。

私は何気なく最後のページをめくる。

小さな経済欄。そこに短い記事が載っていた。


『臨時政府、復興事業拡大へ』


『追加予算編成を検討』


『中央銀行と紙幣増発について協議開始』


私はその記事を何度も読み返した。


紙幣増発。


その四文字が頭から離れない。

戦後復興には金が必要だ。

その考えは間違っていない。


方法を誤ればその代償を払うのは政府ではない。市場だ。商人だ。農民だ。


そして、毎日を懸命に生きる国民だった。

私は静かに新聞を閉じる。


「お願いだから……」


前世で見た光景だけは。

二度と繰り返してほしくない。


その願いとは裏腹に臨時政府は、復興資金を確保するため、新たな紙幣の印刷へと、少しずつ動き始めていた。

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