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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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宣戦布告

共和国中央庁舎。


会見場には、国内外から多数の記者が集まっていた。


ベレが演台へ姿を現す。


その瞬間、無数のフラッシュが眩しいほどに走った。

ラインが演台の横へ立つ。


「これより、我が国の方針を総統閣下より全世界へ発信いたします」


会場が静まり返る。

ベレはゆっくりと記者たちを見渡した。


「今回、シア国が行った行為は、卑劣かつ姑息なものです」


「しかも宣戦布告すら行わず、不意打ちによる攻撃を行いました」


会場からシャッター音が響く。


「そして、その攻撃によって被害を受けたのは軍人だけではありません」


「武器を持たない非戦闘員。戦火から逃れるために避難していた民間人までもが、その攻撃に巻き込まれました」


ベレは一度言葉を切った。


「現在、共和国は国境防衛線を構築しております。これは、我が国を守るための措置です」


そして、ベレは一枚の書類へ目を落とす。


「ここで、もう一つ申し上げなければならないことがあります」


「共和国政府はこれまで、ポランド政府に対して人道的支援を何度も申し入れてきました」


「国境を開放し、避難民を受け入れること。医薬品や食料などの支援」


「さらに、支援物資を輸送するための飛行場使用についても、正式に打診してきました」


「しかし、未だに回答はありません」


会場がざわつく。

ベレは続ける。


「そのような状況の中、シア軍による共和国への空爆が行われました」


「我が国はこれまで、シアによるポランドへの侵攻を非難してきました」


「しかし……」


ベレは少しだけ目を伏せる。


「ここで、私は共和国国民に謝罪しなければなりません」


会場から驚きの声が漏れる。


「私の判断に、認識の違いがありました。シアとポランドは戦争状態にある」


「私は、その前提で考えていました」


「しかし、今回の攻撃によって、その前提そのものを見直す必要が生じました」


記者たちが一斉にペンを走らせる。


「シア軍とポランド軍が地上で戦闘を行っていることは、我々も把握しております」


「では、なぜシア空軍はポランド上空を通過し、ポランド空軍から攻撃を受けることなく共和国へ到達できたのでしょうか」


「ポランドにも空軍が存在するはずです」


「それにもかかわらず、シア軍機はポランド上空を通過し、共和国領内へ侵入して爆撃を行った」


ベレは会場を見渡す。


「これは、隠しきれない事実です」


会場が静まり返る。


「では、なぜなのか」


「もし、ポランド政府とシア政府の間に何らかの密約が存在していたとすれば……」


「今回の出来事は説明できます」


記者席から一斉にざわめきが起こる。


「共和国政府は、現時点でその密約の存在を断定しているわけではありません」


「しかし、我が国が攻撃を受けた以上、国民の安全を最優先に考えなければなりません」


ベレは一呼吸置く。

そして、はっきりと宣言した。


「そこで、共和国政府は決断しました」


「我が国は、ポランド政府に対して宣戦を布告します」


会場が一気に騒然となる。


「共和国はポランド政府に対して、これまで何度も平和的な支援を申し入れてきました」


「しかし、その最中に我が国が攻撃を受けました」


「ポランド政府がシア国と何らかの協力関係を結び、我が国を戦争へ巻き込んだのであれば、それに対する必要な措置です」


ベレは真っ直ぐ前を見据える。


「これは領土を奪うための戦争ではありません」


「共和国を守るための戦争です」


会見場には、しばらく誰も言葉を発することができなかった。


共和国はついに、ポランドとの戦争状態へ入ることを世界へ宣言した。


「では、質問をどうぞ」


記者たちが一斉に手を挙げる。


「シア国に対しての宣戦布告は行わないのでしょうか?」


ベレは落ち着いて答える。


「必要ありません。シア軍はすでに共和国領内を爆撃しております」


「共和国政府は、あの攻撃を宣戦布告に相当する武力行使と受け取っています」


「したがって、我が国から改めて宣戦布告を行う必要はないと判断しました」


会場がざわつく。


別の記者が立ち上がる。


「では、ポランド国に対して宣戦布告を行う理由は何でしょうか?」


ベレは一度、会場を見渡す。


「そこには、我が国の防衛上の問題があります」


「シア軍機がポランド領空を通過して共和国へ侵入した場合、我が国がその航空機を迎撃できる場所には限界があります」


「ポランド領空に存在する敵機を、我が国が自国防衛の名目で先制的に攻撃することには、当然ながら国際法上の問題が生じます」


記者たちが一斉にメモを取る。


「しかし、ポランド政府と我が国が戦争状態に入れば話は変わります」


「我が国の軍は、ポランド領内に存在する敵軍に対しても軍事行動を取ることが可能になります」


記者が尋ねる。


「つまり、ポランドへの宣戦布告は、シア軍をポランド上空で迎撃するためということですか?」


「その解釈になります」


ベレは頷く。


「もちろん、これはポランド国民を攻撃するための宣戦布告ではありません。共和国の目的は、我が国へ向かってくるシア軍を阻止すること。そして、共和国へ逃れてきた避難民を守ることです」


少し間を置いて、ベレは続ける。


「我が国は、戦争を望んでいるわけではありません。ですが、我が国民が攻撃されている以上、守るための手段を制限することもできません」


会場が静まり返る。


「共和国政府は、必要以上に戦線を広げるつもりはありません。しかし、国民を守るために必要な措置は、躊躇なく取ります」


ベレの言葉が会見場に響いた。


九二八年 四月 共和国、ポランドへ宣戦布告

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