約束
ルー地方奪還から数日後。
ベレは初めてルー地方の地へ降り立った。
街並みには戦争の傷跡が色濃く残っている。
壊れた建物。閉ざされた商店。
荒れ果てた炭鉱。途切れた線路。
それでも、共和国の国旗が掲げられた広場には、多くの住民が集まっていた。
誰もが静かにベレを見つめている。
ベレは演壇へ上がると、しばらく住民たちの顔を見渡した。
そして、小さく頭を下げる。
「皆さん。約束が遅くなって、ごめんなさい」
その一言に、広場は静まり返る。
ベレは顔を上げ、優しく微笑んだ。
「迎えに来ました」
その瞬間だった。
最前列にいた老人が肩を震わせる。
「その声……ラジオの……」
隣にいた女性も口元を押さえた。
「あの日の演説……」
「『必ず助けます』って……」
ベレは静かに頷く。
「私は、あの日の約束を忘れたことは一度もありません。皆さんを見捨てたことも、一度もありません。だから今日、この場所へ来ました」
涙を流す人が、一人、また一人と増えていく。
少年が母親の手を握る。
「お母さん……本当に来てくれたね」
母親は涙を拭いながら微笑んだ。
「ええ……約束を守ってくれたのよ」
ベレはゆっくりと演説を続けた。
「皆さんと共に、このルー地方をもう一度立ち上げるために来ました。これから復興を始めます。まず、炭鉱を再建します」
「炭鉱が動けば、仕事が生まれます。次に、壊れた鉄道を復旧します。人も物も、自由に行き来できるようにします」
「そして、学校を再開します。子どもたちから学ぶ場所を奪わせません。病院も新たに設置します。誰もが安心して治療を受けられるようにします」
「さらに、工業学校を建設します。若い人たちが技術を学び、このルー地方の未来を支える力になってもらいます」
住民たちは真剣な表情で聞き入っていた。
「復興は、一日では終わりません。一年でも終わらないでしょう。ですが、共和国は途中で諦めません。皆さんと一緒に、この町を、この地域を、必ず立て直します」
広場のあちこちから拍手が起こる。
やがて、その拍手は大きな歓声へと変わった。
「総統!」
「ありがとう!」
「共和国万歳!」
その歓声を聞きながら、ベレはもう一度深く頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございます。皆さんが待っていてくれたから。私は、この約束を果たすことができました」
九二三年 春 ラジオ越しに交わした約束は、現実となった。
そしてこの日、ルー地方では新たな約束が交わされる。
それは、戦争で失われた町を取り戻すだけではない。
誰もが安心して暮らせる、新しい共和国を共につくっていくという約束だった。




