予想外の指名
翌朝。党本部。
ベレは資料を整理していると、ヘルムが部屋へ入ってきた。
「ベレ?第二、第三野党との話し合いはどうだった?」
ベレは満面の笑みを浮かべる。
「ヘルムさん!やりました!全部ではありませんが、幾つかの提案には協力してくださるそうです!」
ヘルムも珍しく笑った。
「よし!それで十分だ!明日の議会も大丈夫そうだな」
「はい!」
ラインも嬉しそうに頷いた。
「これなら法案も通せる可能性がありますね」
その日の朝刊。
ベレはコーヒーを飲みながら新聞を開いた。
見出しを見て思わず首を傾げる。
『シュタール労働者党 第二・第三野党へラブコール 協議決裂』
「……ん?おかしいわね」
ラインも新聞を覗き込む。
「昨日は協力すると仰っていましたよね?」
ベレは苦笑した。
「議会が終わったら、ウス・ライさんに聞いてみようかしら」
そのまま国会へ向かった。
議場へ入ると、何やら様子がおかしい。
議員達がざわついている。
「まだ始まらないの?」
「何かあったのか?」
時計を見ても開会時間を過ぎている。
その時、議長が険しい表情で壇上へ立った。
「議員各位に申し上げます」
議場が静まり返る。
「本日未明、大統領が乗車していた車列が何者かに襲撃されました」
場内が騒然となる。
「運転手は重体そして――」
議長は一度言葉を止めた。
「大統領は、その場で死亡が確認されました」
議場全体が凍りつく。全員が黙祷を捧げた。
ベレも静かに目を閉じる。
大統領には、お悔やみ申し上げます……
でも……これで政治がまた止まってしまう。
黙祷が終わる。
ベレは小さくため息をついた。
「中々、話が進まなくなるわね……」
すると首相がゆっくり立ち上がった。
「この場をお借りして、一つ申し上げます。私も体調悪化のため、本日をもって首相を辞任いたします」
議場が再びどよめく。
「またかよ!」
「短命政権すぎる!」
「この国はどうなってるんだ!」
ベレも呆れたように頭を抱えた。
「また首相指名選挙?」
「もっとしっかりしなさいよ、与党!」
議長が木槌を鳴らす。
「これより首相指名選挙を行います」
投票用紙が配られた。
ベレは迷わず自分の名前を書く。
どうせ百一票。
シュタール労働者党のみんなの票ね。
投票が終わり、開票作業が始まる。
議場は静まり返る。
開票係が結果を読み上げた。
「マイナー君」
「百二十六票」
与党席から拍手が起こる。
続いて二枚目。
「ヴィーダーベレ君」
「百六十四票」
ベレは目を丸くした。
「……え?」
議場全体がざわつく。
「百六十四だと?」
「第二、第三野党が……!」
ヘルムは腕を組んだまま、小さく笑った。
「引っ掛かったな」
ラインも思わず息をのむ。
「朝刊は……陽動だったんですね」
議長が立ち上がる。
「投票の結果。ヴィーダーベレ君を首相に指名することを決定いたします」
木槌が高らかに鳴り響く。
議場は大歓声とどよめきに包まれた。
ベレだけが、まだ状況を理解できず立ち尽くしていた。
「……え?」
「私が……首相?」




