未来への警鐘
ある日の夜。党本部。
静まり返った建物の一室で、ヘルムはいつものように無線機へ耳を傾けていた。
「……」
雑音が流れる。
しばらくすると、海外からの通信が途切れ途切れに聞こえてきた。
「……何だ?」
ヘルムは眉をひそめる。
「一部債券が暴落?」
すぐにメモを取り始める。
「株じゃない……債券だと?」
内容は断片的だった。
『市場が混乱』
『投資家が売却』
『金融市場に不安』
「何か起きてやがる……」
翌朝。党本部。
朝食を取りながらヘルムは昨夜の話を皆へ伝えた。
「海外で少し妙な動きがある」
私は顔を上げる。
「妙な動き?」
「ああ」
「一部の債券価格が急落したらしい」
ルマルは腕を組んだ。
「景気には、まだ影響ありませんか?」
「今のところはな。海外でも大したニュース扱いじゃねぇ」
ラインも新聞を確認する。
「国内紙には載っていませんね」
ヘルムは肩をすくめた。
「向こうでも『一時的だろう』って空気らしい」
部屋の空気は穏やかだった。
誰も大きな問題だとは思っていない。
ただ一人を除いて。
私は静かに世界地図を見つめていた。
債券……金融市場……世界経済……
前世の記憶が頭をよぎる。
嫌な流れだ……まさか……いや、まだ決まった訳じゃない。
私は何度も自分に言い聞かせる。
でも……もし、本当にあの流れなら。この後……世界中へ広がる。
私は無意識に手帳を開いた。
そこへ一行だけ書き加える。
『海外金融市場の動向を毎日確認すること』
ルマルが気付いた。
「何か心配事ですか?」
私は地図から目を離さず答えた。
「嫌な予感がする……」
ヘルムもその表情を見て、冗談を言わなかった。
「……分かった。俺も無線を今まで以上に聞いておく」
その日の夕方。
港では船が行き交い工場では機械が動き、商店では人々が買い物を楽しんでいた。
共和国はいつもと変わらない平和な一日を過ごしている。
誰も知らなかった。
海の向こうで始まった小さな異変が、やがて世界中を巻き込む嵐へと変わることを。
そして、その嫌な予感は――数週間後。
共和国にも、大波となって押し寄せるのであった。




