理念は譲らない
ある日の午後。
党本部へ一人の来客が訪れた。
「野党第一党のマイン議員です」
ラインが応接室へ案内する。
私は笑顔で迎えた。
「本日は、どのようなご用件でしょうか?」
相手の議員は単刀直入に切り出した。
「ヴィーダーベレ議員。我々と一緒に、大連立を組みませんか」
部屋の空気が静かになる。
ルマルもヘルムも黙って成り行きを見守っていた。
議員は続ける。
「あなた方は勢いがあります。我々には議席があります。力を合わせれば、次の選挙で与党を追い詰められる」
私は静かに最後まで話を聞いた。
そして、ゆっくり口を開く。
「ありがとうございます。とても光栄なお話です」
相手の議員は微笑む。
「では」
私は静かに首を横へ振った。
「申し訳ありません。今回は、お断りします」
相手は少し驚いた表情になる。
「理由を伺っても?」
私は真っ直ぐ相手を見つめた。
「私達は、人数を増やすためだけの合流はしません」
部屋が静まり返る。
私は続ける。
「議席を増やすことが目的なら、この話は魅力的です。ですが、私達が目指しているのは議席ではありません。共和国を立て直すことです」
相手は黙って耳を傾ける。
「理念が同じなら協力します。政策が良ければ与党にも賛成します。ですが、人数合わせだけの連立なら、私達が党を作った意味がなくなります」
しばらく沈黙が続いた。
やがて相手の議員は小さく笑った。
「なるほど。だから支持されるんですね」
立ち上がると、深く一礼する。
「失礼いたしました。また、政策でご一緒できる日を楽しみにしています」
私も立ち上がり、一礼した。
「こちらこそ。良い政策でしたら、いつでも協力します」
握手を交わし、会談は終わった。
その日の夕方。
新聞社。
ウス・ライは情報提供者から話を聞き、帽子を深くかぶり直した。
「ほぅ〜。連立を断ったか」
手帳を開きながら笑う。
「小さい政党からすりゃ、願ってもねぇ話だったろうに」
編集長が尋ねる。
「驚きか?」
ウス・ライはペンを走らせながら答えた。
「いや。筋を通してる。議席が欲しいんじゃねぇ。やりたい政治がある。だから断った」
書き終えた記事を読み返し、小さく笑う。
「やっぱり面白いな。普通の政治家なら、飛び付く話だ。だが、あのお嬢ちゃん議員は違う。だから目が離せねぇ」
翌朝。
新聞には大きく見出しが躍った。
『ヴィーダーベレ議員、連立を辞退。「理念なき合流はしない」』
その記事を読んだ国民の間では、
「信念がある」
「議席より政策を選んだ」
「こういう政治家を待っていた」
という声が広がり始める。
党本部では、その新聞を読んだベレが少し照れくさそうに笑っていた。
「そんなに大げさな話じゃないんだけどね」
ヘルムは新聞を畳みながら笑う。
「いや。それができる政治家は、案外少ねぇんだよ」




