新聞の影響
ある朝。
党本部へ届いた郵便物を整理していたラインが、不思議そうな表情を浮かべた。
「お嬢様。手紙が……多いですね」
机の上には封筒の山が積み上がっていた。
差出人を見ると、どれも地方議員や自治体の代表者だった。
私は一通を開く。
「新聞を拝見しました。ぜひ、我々の町も視察していただきたい」
二通目も同じだった。
「現場をご覧になってください」
三通目。
「中央へ届かない現実があります」
私は思わず苦笑する。
「ウスさんの記事の影響ね」
そこへ、ウス・ライ本人がひょっこりと顔を出した。
「いやぁ、思った以上の反響だったな」
私は笑いながら答える。
「記事を書いた本人が言います?」
ウス・ライは肩をすくめる。
「事実を書いただけさ。現場を歩く議員なんて珍しいからな」
その日の午後。
党本部では地図が広げられていた。
赤い印が、各地へ付けられていく。
「北部工業地帯、炭鉱地域、農業地帯、港湾都市」
そして一枚の手紙が目に留まる。
「共和国西部……ルー地方?」
ルマルが頷いた。
「共和国最大の工業地域です。鉄鋼、機械、化学工業。この国の産業を支えている場所ですね」
私は地図を見つめた。
「行きましょう」
ヘルムがニヤリと笑う。
「だったら決まりだ。今回は鉄道じゃ間に合わねぇ。飛ぶぞ」
翌朝。
秘密基地。格納庫の扉がゆっくり開く。
現れたのは三発機の大型飛行機だった。
「また乗るのね」
私は少し苦笑する。ヘルムは胸を張る。
「時間を買うための道具だからな」
ラインとヴィル、それに護衛隊も慣れた手つきで搭乗準備を進めていく。
やがて機体は滑走路を走り、大空へ舞い上がった。眼下には共和国の広大な景色が広がる。
町。川。線路。工場。
私は窓から外を見つめながら呟いた。
「本当に広い国ね……」
ルマルも窓の外を見る。
「だからこそ、現場を見る価値があります」
数時間後。
ルー地方へ到着した。
駅には貨車が何本も並び、煙突からは黒い煙が立ち上る。
巨大な製鉄所。機械工場。部品工場。
共和国の工業を支える中心地だった。
私は工場を見学しながら、機械の動きを食い入るように見つめる。
歯車。旋盤。プレス機。蒸気機関。
前世で見慣れた技術よりは古い。
だが、基礎はできている。
ここまで来ているんだ……自然と考えが巡る。
前世の製品を、この国で作れないかな?
便利な生活用品。機械。工具。改良型の農具。
小型の発電設備。次々とアイデアが浮かんでは消えていく。
国内で売るだけじゃない。
ゆくゆくは国外へ輸出する。
外貨を稼げれば、この国の経済も少しずつ立て直せるかもしれない。
私は思わず立ち止まった。
「なるほど……」
ルマルが不思議そうに尋ねる。
「何か思いつきましたか?」
私は微笑む。
「ええ。この国は、まだまだ伸びるわ。作れる物を増やして。世界へ売る。そういう未来もあるかもしれない」
ルマルは静かに頷く。
「輸出ですか。面白い発想ですね」
私は再び工場を見渡した。
復興とは、壊れたものを元に戻すことだけではない。
新しい産業を育てること。
新しい価値を生み出すこと。
共和国の未来は、その先にあるのかもしれない。私は煙を上げる工場群を見つめながら、小さく呟いた。
「この国には、まだ可能性がある」




