最初の当選
夜も更け、時計は午前零時を回っていた。
党本部では誰一人帰ろうとはしない。
机の上には飲みかけの紅茶。
読み終えた新聞。
共和国全土の地図には、赤や青の印が少しずつ増えていた。
部屋に響くのは、古い電報機の音だけだった。
カタカタカタ……
通信係が紙テープを慎重に受け取る。
その表情が変わった。
「来ました!」
全員が一斉に立ち上がる。
「東部第七選挙区!」
通信係は大きく息を吸い込んだ。
「シュタール労働者党候補……」
一瞬、部屋が静まり返る。
「当選です!」
その瞬間だった。
「やったー!」
「第一号だ!」
「当選だ!」
部屋中が歓声に包まれた。
握手を交わす者。抱き合う者。
涙ぐむ者までいる。
ラインも思わず笑顔になる。
「おめでとうございます!」
ヴィルも珍しく拳を握り締めた。
「幸先の良いスタートですね」
ヘルムは帽子を脱ぎ、豪快に笑う。
「はっはっは!まずは一議席!上出来じゃねぇか!」
私は静かにその様子を見つめていた。
そして、ゆっくり立ち上がる。
「皆さん」
歓声が少しずつ静まる。
私は一人一人の顔を見渡した。
皆、本当に嬉しそうだった。
だからこそ、私は穏やかに微笑む。
「喜ぶのは大切です。でも」
少し間を置く。
「一議席で満足しちゃ駄目」
部屋が静まり返る。
私は共和国の地図を指差した。
「まだ開票は始まったばかり。各地では、仲間達が今も結果を待っています。最後の一票まで終わっていません」
ラインも姿勢を正した。
「その通りですね」
ヘルムは腕を組みながら頷く。
「浮かれてる場合じゃねぇな」
私は通信係へ微笑んだ。
「次をお願いします」
「はい!」
通信係も気を引き締め直す。
再び電報機が動き始めた。
カタカタカタ……
「北部第二区!接戦!」
カタカタカタ……
「南部第一選挙区!開票率七割!」
次々と速報が届く。私は窓の外を見る。
夜はまだ深い。
結果が出るまで、あと何時間掛かるか分からない。
ヘルムが隣へ来る。
「冷静だったな」
私は苦笑する。
「本当は飛び上がりたいくらい嬉しいですよ。でも党首が一番浮かれてしまったら、皆も落ち着けませんから」
ヘルムは豪快に笑った。
「立派になったな、ちびっ子」
私は照れくさそうに笑う。
「まだまだです」
その時、再び通信係が声を上げる。
「速報です!」
全員の視線が再び電報機へ集まる。
共和国の長い夜は、まだ終わらない。
しかし、シュタール労働者党の歴史には、この日初めての「当選」という二文字が刻まれたのだった。




