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【番外編追加】国宝級天才の最愛 〜四葉を手放せない若き侯爵は、恋の進め方だけが分からない  作者: 有原 詩名美


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第1話 若き天才

「あっみて、ルクセイン様よ」


王宮の廊下ですれ違う侍女のお喋りが聞こえる。

その名前が耳に残る。


つられるように、トリフォニアもその視線を追う。


(あれは…)


そこには、物語の挿絵と見紛うほど美しい男女が立っていた。


「また、功績を上げられたそうよね」

「今度は地方官僚の不正摘発ですって」

「この前、条約をまとめたばかりじゃなかった?」

「そうよね。普通なら少しくらい休むでしょうに」

「あれだけ出世しても、まだ働くなんて信じられないわ」

「だからこそ、王女殿下のお相手に相応しいのよ」

「本当にお似合いよね」

侍女たちのお喋りは続く。


この国の第一王女と、若き天才と名高い宰相補佐官。

王女が、ふわりと笑う。

二人が並ぶその姿は、あまりにも絵になる。

婚約間近との噂だが、あながち間違いでは無いようだ。


(ルークも、すっかり遠い人になっちゃったな)


若き侯爵――ルクセイン・アルコイリス。

王国最年少で宰相補佐官となった天才。


元は、伯爵家の次男であった彼はその類まれなる能力を活かし国家財政改革を成功させ、隣国との大条約締結にも貢献した王宮の至宝。

その功績の数々が評価され、実力一つで侯爵位を賜った。


そんな彼と自分に、かつて婚約話が持ち上がったことがあるなど、今では誰も信じないだろう。


もう、昔のように気軽に話せる間柄でも立場でもない。当たり前のように隣に立っていたはずなのに、今では遠くから見上げる存在になってしまった。


(……まあ、当たり前か)


感傷に浸っている暇はない。

ふと、顔を出した切なさを押し込めてトリフォニアは視線を逸らそうとした。

その時、不意にルクセインが顔を上げる。

視線が合った気がした。

けれど次の瞬間には王女へ向き直っていて、気のせいだったのだろうと歩き出した。


書類を抱え直し、その場を離れようとした時だった。

「トリフォニア、例の監査報告書は?」

同僚が小走りで向かってきて声をかける。

「今持っていきます」

あわてて気持ちを切り替える。

今は仕事だ。

「よく、あんな細かい数字の差異に気づいたな。今まで、誰も気づいてなかったのに」

同僚は、トリフォニアの書類の半分を受け取りながら並んで歩き出す。

「昔から、ああいうの得意なんですよ」

えへん、とわざとらしく胸を張ってみせる。

「おかげで、朝から過去の書類引っ張り出して大騒ぎだよ。夜までに片付くかなぁ…」

遠い目をする同僚。

「それは…なんだかすみません」

「いやいや、トリフォニアが謝る事じゃないよ。むしろ、このまま見逃してたら大変な事になってた」

二人は小走りでその場を後にした。


「――ふふ。ルクセイン、またそれ」

遠ざかる二人の足音を背に、王女がクスリと微笑む。

見れば、ルクセインの手は、上着の胸ポケットのあたりにそっと添えられていた。

「本当に大切にしているのね。どこにいたって、絶対に手放さないのだから」

「……ええ。私にとっては、何よりも価値のある、唯一無二の幸運のお守りですから」

ルクセインは、珍しく柔らかな微笑を浮かべた。

布地越しに、かつて小さな手がくれた四葉のしおりの感触を確かめる。

そう答えたルクセインの視線は、再び、トリフォニアの消えた廊下の先へと向けられていた。


この小説の海原から見つけて頂きありがとうございます!恋愛あり、すれ違いあり、少しコメディありのお話です。最後までお付き合い下さるとうれしいです。

リアクション、評価、ブックマークも泣いて喜びますので、なにとぞよろしくお願いします。

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