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蟻の王  作者: 八神あき
11/11

決着

 ヒュージアント。体長1メートルほどの蟻型の魔物。

 雑食で、小型の魔物や、時に人間も食す。

 昆虫の蟻と同じ真社会性生物——産卵を担う女王と、産卵能力のない複数のワーカーが、ひとつのコローニーを形成している。

 ひとつのコロニーの規模は数十匹、多くても百匹ほど。

 それはヒュージアントの食欲の強さ故——あまりに数が増えると餌がなくなり、コロニー自体の存続が危うくなるためだ。

 故に自然界のヒュージアントは、大量に発生することはない。


 しかし、ニッツはこれを二万を越える規模にまで膨らました。

 それは征服に必要な兵力を確保するためであった。しかし、征服した土地を維持するにも、兵力は必要。

 ヒュージアントの数を減らすことはできない。

 必然、大量の餌が必要になる。


 当初こそ、王国の領土内でまかなえていた。

 だが、それもやがて尽きる。

 国民でも食わせようかと思ったが、そんなことをすれば反乱が起こる。反乱を鎮めるためにはさらなる軍備の増強に追われ——行き詰まり。


 だが、逆に言えばそれくらいの暴虐行為をしなければ、今のところ反乱の兆しはない。


 ゆえに、ニッツは決断した。

 首都に置いていたヒュージアントを、王国の領土内に分散させる。

 そうすれば食糧不足はかなりマシになる。


 兵を分散させることで軍事上の不利は招く。だが、反乱の危険がない以上、純軍事的理由よりも兵站面での必要性を優先すべきだろう。

 ニッツは自身のボディガードだけを残し、ヒュージアントを各地に送ることに決めた。


 ×××


 夜更け、首都の城壁から蟻たちが出ていく。

 それを近くの森林に身を潜めた男が見ていた。


 男は立ち上がり、走り出す。

 城壁から十分に離れたところで立ち止まり、地面に手をつけた。使い魔である土の精霊に命じると、地面にぽっかりと穴が開く。

 穴へと飛び込み、入口を土で塞いで灯りをつけた。


 中は長いトンネルになっていた。奥にある部屋に入ると、数人の男が円になっていた。

 男、ロメルは円の中心に座っていた総司令官へと目を向ける。

「ゼークト司令官、蟻どもが街から出ていきました。数は千ってとこです」

 報告を受けた近衛軍団長はこくりとうなずく。


 ルーシア・フォン・ゼークトは全身に傷を負いながらも生きていた。

 あの日、ニッツの罠にはまったゼークトの部隊はほとんどが死んだ。しかし土魔法を使うロメルが逃げ道を作り、総司令官含む数人は逃げのびることができたのだ。


 ゼークトたちは隠密裏に行動し、王国に残った兵と連絡を取り合い、今日まで徹底的に敵のことを調べていた。


 ヒュージアントは本来ならもっと少数でしか行動しない魔物であること。

 敵の総大将は人間の少年であること。

 少年はそれなりに戦の才能があるが、軍事を体系的に学んだ人間ではないこと。

 女好きで、豪華な宮殿を好む、自制心の効かない人間であること。

 そして一週間前から、夜中に千体ずつの蟻がひっそりと街から出ていくこと。


 これらの情報から、ゼークトは敵の実情を推察する。

 今度こそ失敗はない。

 今こそ反撃の好機。

 ゼークトは生き残った部下たちに命令をくだした。


 ×××


 首都の中にはすでに、民間人に扮した兵士が配置されていた。

 兵たちは外からゼークトの送った合図を確認すると動き出した。ニッツの宮殿に火を放つ。

 ヒュージアントは建物になど頓着しないが、ニッツは別だ。蟻たちに消火を命じる。


 商人になりすました兵たちは火のついた場所に蟻たちが向かうのを見ると、外にいる仲間に合図した。

 ゼークト率いる部隊は暗く、蟻のいない場所から侵入し、一気に王宮を目指す。

 ガラ空きの街道を走り抜け、王宮に入ったところではじめて敵とぶつかり、戦闘がはじまった。


 興奮したヒュージアントが女王のもとにやってきたのを見て、ニッツは敵の侵入を知った。

 手持ちの兵力はすでに消火へ向かわせている。すぐに戻るよう言いつけるが、敵が来る方が早いだろう。

(ここは逃げるしかないか……せっかくとった首都を捨てるはもったいないけど。……散った兵力を集めて取り戻せばいい)


 ニッツは女王蟻とともに地下の巣へと続く階段を降りる。

 だが退路は断たれていた。


 地下道には大量の水が溢れていたのだ。

 ロメルたちが地下の巣と宮殿の周りの堀を繋いで水没させたのだ。

 がしゃがしゃと響く鎧の音でニッツは振り向いた。

 わずかに残っていたヒュージアントを倒し、数人の兵士が迫ってきていた。先頭には殺したはずのゼークト。


 ゼークトはニッツを見ると、走り出す。

 ニッツは後退りするも、もはやどうすることもできない。


 ニッツの足元に、一振りの剣が落ちた。


 ゼークトが投げてよこしたのだ。

 意図がわからず顔をあげると、精悍な敵将と目があった。


「蟻の王! 貴様も一軍の将というのなら自ら剣を取って戦え!」


 ゼークトが剣を振り下ろしてくる。ニッツは咄嗟に剣を拾ってそれを受けた。

 重い。柄を握っていた手がひりひりと痛む。衝撃を受けきれずにバランスを崩し、倒れ込んだ。

 女王がゼークトに襲い掛かるも、一刀のもとに断ち切られる。

 女王の死骸を越え、敵将はニッツに迫る。もはや立ち上がることすらできないニッツに向けて、ゼークトは剣を振り下ろした。

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