征服者
バエル城壁内、すべての敵を駆逐し終える。
近衛は壊滅させた。次の手は——。
王国の残りの兵力の詳細は不明。まだ十分に抵抗力を残している可能性もある。
だが、質の面で、近衛師団以上の兵力がいるとは考えにくい。
厄介な敵だったゼークトも死んだ。
ここは慎重に動くのではなく、果敢に攻めるとき。
逡巡から覚め、ニッツは全軍に命令を下す。
(首都に攻め上る。全員女王に続いて)
ニッツは女王の背に乗り、バエルを出る。
未だ死体を咥えたままの蟻、地下から登ってきた蟻が続々とニッツの後ろに続く。
無人の街道、進軍を妨げる者はなにもない。
四日の行軍で首都の城壁が見えてくる。
城壁の前には——軍が展開していた。
数は近衛師団よりも多い。だが歩調は合わず、体つきも近衛兵より軟弱だ。
それもそのはず、彼らはかき集められた予備役であり、戦闘力は格段に劣る。
(広がって。目の前の敵を食い殺して)
縦隊で進軍していた蟻は扇状に広がっていき、目の前の敵を飲み込む。
やはりヒュージアント対策はしているようで、近衛師団が持っていたのと同じ、ヒュージアントの顎よりも長い槍を手にしている。
だが——。
悲鳴があがる。
男たちは巨大な顎に食いちぎられる。
指揮官らしき者も数匹の蟻に囲まれて死んだ。
広がった蟻は敵軍を囲み、殲滅していく。
やはり、予備役と近衛では、練度に差がありすぎた。
ヒュージアントの顎よりも長い武器を持って、間合いを取りながら戦えなどと言われても、普段はただの農民に過ぎない彼らに、そのような戦闘技能があるはずもない。
数ならば三万を越える敵。
だが瞬く間にその数を減らしていき、やがて最後のひとりも蟻の胃袋へと消える。
戦いを終え、ニッツはいよいよ首都の城壁へ軍を向ける。
——と、城門がわずかに開いた。
隙間からは騎士の一隊が出てくる。
数は十騎。戦闘の騎士は大きく手を振っている。
「おーい! われわれは使者だ! 攻撃するな!」
新しい餌を見て、飛びかかろうとしていた蟻たちに、ニッツはまったをかける。
周りをヒュージアントに固め、使者の前に出る。
騎士はニッツの姿を認めると、馬の速度を緩める。
「あなたがこの軍の指揮官でしょうか」
ニッツがうなずくと、使者は手紙を差し出してきた。
開くと、それは王からのもの。
やたら長ったらしい挨拶や、回りくどい言い回しで、いまいち要領を得ないが。
どうやら“降伏を受け入れる”と、いうことらしい。
×××
首都、王宮、謁見の間。
玉座には初老の男。
対するニッツは、常の如く白い女王の背に座り、傲岸不遜に王を見下していた。
周囲には、大臣たちの死体が散らばっている。
もちろん、ヒュージアントに殺された死体だ。
降伏のための話し合いと呼ばれたニッツ。
だが王から出されたのは、バエル周辺の領土を譲るというもの。
それにニッツは、キレた。
その場にいた大臣たちを虐殺。
宮殿のそばで待たせていたヒュージアントに命じ、街を襲わせた。
王宮の外からは、国民の逃げ惑う声が響いてくる。
王は顔面蒼白になり、ニッツに恐怖の目を向けていた。
「わ、わかった……! 無条件、無条件降伏だ! わしの負けじゃ!!」
ニッツは攻撃をやめさせた。
すでに話せないことは伝わっている。
王から紙とペンを受け取り、要求を書き記した。
ニッツは自身の望むすべてを書き記すと、その紙を王へと投げてよこす。
王は目を見開いた。だが反論はなく、震える手で文書に署名する。
それを確認すると、ニッツは玉座から離れろと、顎で示した。
王は曲がった腰に手を当て、立ち上がる。王冠をニッツへと手渡した。
ニッツは玉座に、王はその正面からひれ伏す。
こうして、ニッツはすべてを手に入れた。
首都含む王国の東半分の領土。
金貨ニ万枚。
宮中の美女百人。
王位。
王には行政上の手続きがすべて終わるまでは人質兼監督役としてそばにいてもらうことにした。
また、ヒュージアントを使って王宮の地下には蟻の巣を作る。女王の住処とし、新たな卵と蛹を育てるためだ。
かくして、ニッツは王となった。
広大なる蟻の王国の誕生であった。




