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第七十四話 恋情

「尚哉。正直に答えろ。問題が起こった原因に、お前の意思は本当に少しも含まれていなかったのか」


俺が話し終えて口を閉じると、父は眼光に鋭さを含ませ俺を射抜くように見据えて聞いてきた。




 父はおおらかな人ではあったが、俺が人としての道理から外れそうになると子供の頃から容赦なく叱られた。


大人になった今では、そういうことはめっきり無くなったが、父が本気で怒っている時は今でも嘘を吐くことは難しかった。




「父さん。俺、父さんたちには黙っていたけど、本気で結婚したいと思ってる女性がいて、一年半くらい前から一緒に暮らしているんだ。名前は、渋谷梨奈って言うんだけど。梨奈には、いつも幸せそうに笑っていてほしいって思ってるんだ。そういう梨奈の姿を見ていると、俺も幸せな気持ちなれて、このままずっと続いていってほしいと願ってる。だから、今の幸せを壊さないためにも、俺は、梨奈が悲しんだり苦しんだりするようなことは、絶対にしないって決めてるんだ」


父の問いに『一切、望んではいなかった』と一言で応えるよりも、梨奈に対する思いを伝えることで、俺は父に自分の気持ちを理解してもらおうと考えた。




「尚哉。そんなに惚れてる女性がいるのに、なぜ何も言わなかったんだ。父さんは何も聞いていなかったぞ」


父は瞳から鋭さを消し去ると、先程までとは違った厳しさをにじませて問い詰めてきた。




「俺は、梨奈と付き合い始めてすぐの頃から梨奈との結婚も考えるようになったけど、梨奈は、そうじゃなかったんだ。俺の仕事が忙しすぎて思うように会えなかったこともあって、梨奈は、俺に好意は持ってくれてもそれほど深い思いじゃなかった。だから、一緒に暮らして二人で過ごす時間を増やして、梨奈の気持ちが固まるのを待ってたんだ」


俺は梨奈と知り合い、付き合い始めてから梨奈のことを知れば知るほど梨奈に対する思いが深まり、自然に結婚を意識するようになった。


だが、実際には俺の仕事の都合でなかなか梨奈と会えず、思いだけがどんどん深まりれていた。


そんな中、梨奈の俺に対する思いが俺との結婚を考えるほどに深いものではないと気が付き、俺は会えないことを理由に梨奈が俺から離れて行ってしまうのではないかと気がいていた。




その頃には、梨奈のいない将来が色褪せて見えるようになっていた俺は、梨奈と一緒にいられる時間を増やすにはどうしたらいいかと考え、同棲することを梨奈に提案した。




「その梨奈さんの気持ちは、まだ固まっていないのか」


「いや。今年の春頃からは、梨奈も俺とずっと一緒にいたいと言ってくれるようになってた」


「それなら、その時に話してくれても良かったんじゃないか」


俺が両親には何も言わず梨奈と暮らしていた理由を説明すると、いつも仕事で帰りが遅い俺の身体を気に掛けてくれていた父は、どこか納得したような様子を見せながらも今日まで何も言わなかったことについてさらに問い詰めてきた。


「……俺は、今年の夏にはプロポーズして、それから、父さんたちに梨奈を紹介するつもりだったんだ。でも、その直前に問題が起こって……。できなかったんだ……」




 一緒に暮らし始めてからの梨奈は、いつでも俺のことを気に掛けてくれ、俺はそんな梨奈が愛おしくて梨奈に対する思いが胸からあふれ出していると達樹にからかわれるほどに、心が梨奈でいっぱいだった。


その幸せに満ち満ちていた梨奈との毎日に、美咲が強引に水を差した。


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