第七十三話 差し向かい
達樹との電話を終えて、俺はタクシーを拾い達樹の家へ向かった。
タクシーの後部座席に座り、外気が遮られた暖かい空間に落ち着くと父との会話が思い出された。
達雄先生から父に事情を話しておくようにと言われた翌日、俺は父と連絡を取った。
ちょうど父の仕事の忙しい時だったらしく、会えたのは数日後の十一月に入ってからだった。
佐伯課長に連れて行ってもらった『白樺』で待ち合わせをし、急いで仕事を終わらせて店へ行くと、父が先に来ていて一人で飲んで待っていた。
遅くなったことを詫びながら席に案内してくれた店員に父と同じものを頼み、父の向かい側の席に着く。
「家では話せないこととは、何だ」
注文を受けた店員が障子戸を閉めて下がると、父が待ち切れない様子で話し出した。
父に連絡をした時『話があるなら、家に戻って来ればいい』と言われたのだが、今はまだ母には知られたくないと思った俺は、父と二人きりで話がしたいと言って呼び出していた。
父に会うと決めた時点で全てを話す腹積もりはしていたのだが、会っていきなり話すと言うのはなかなか気が進まず、父を呼び出した理由から話すことにした。
「突然、呼び出してごめん。実は今、ややこしい問題に巻き込まれていて達樹に相談したら、達雄先生も親身になって話を聞いてくれて、父さんにも話を通しておいた方がいいと言われたんだ」
「達雄先生まで絡んでいるのか」
父に問われ頷こうとした時、障子の向こうから『失礼します』という声が聞こえ、障子戸が開かれると注文した品を手にした店員が姿を現した。
焼酎のお湯割が入ったジョッキと数種類の料理が入った皿を、店員が座卓の上に並べる様子を父と俺は無言のまま眺めていた。
『ごゆっくりどうぞ』と店員が一声掛けて障子戸を閉め、下がるところまで見送った後、父が徐に言葉を発した。
「いったい、何があったんだ」
俺は運ばれて来たばかりのジョッキに口を付け、焼酎を一口含んで飲み下し自然に重くなる口を開いた。
「父さんは、俺が前に話した樫山専務のことは覚えてるかな」
「確か、プロジェクトチームの総責任者とか言ってた人だろ」
以前、俺はプロジェクトチームの一員に選ばれた時に、そのことを両親に報告していた。その話の中で、プロジェクトチームの総責任者でもある樫山専務にも触れていたことを父は覚えていたようで、間が開くこともなく返事が返ってきた。
俺は小さく頷いて話を続けた。
「その樫山専務には、今年の春に大学を卒業したばかりの娘がいるんだ……」
俺はできるだけ感情がこもらないように、今日まであったこととそれに対して達雄先生や達樹から助言を受けて俺がとってきた対応について話した。
話の中で達雄先生や達樹の考えも伝え、俺の直属の上司である佐伯課長にも助けてもらっていることを伝える毎に、父の纏う雰囲気に厳しさが増していった。




